20 勇者は、パーティを断る(2回目)
その街は、入った瞬間に分かった。
――ここは、これまでとは違う。
城壁には無数の傷跡。
通りを歩く人々の服は擦り切れ、包帯を巻いた者も少なくない。
あちこちで、淡い光が灯っていた。
回復魔法だ。
(……前の街よりも前線だな、ここ)
長居はしたくない。
だが、情報は集めておきたい。
そう思って歩いていると、小さな治療所の前で足が止まった。
「次の方、どうぞ……!」
中から聞こえてくる、張り詰めた声。
覗くと、そこには――
白いローブの少女がいた。
額には汗。
魔力を絞り出すように、次々と治癒魔法を使っている。
「……大丈夫。すぐ、痛みは引きます」
その声は優しいが、明らかに無理をしている。
(使いすぎだろ……)
魔力切れは致命的だ。下手すると数日間寝込むような状態にもなる。
そんなことを考えていると、後ろから声をかけられた。
「お、旅人さん。気になる?」
振り返ると、軽装の男。
腰には短剣。目つきは鋭い。
「この街じゃ、ああやって命を繋ぐのが日常でね。聖女様がいなきゃ、もっと死人が出てる」
「……あの人が?」
「そ。逃げる選択肢もあっただろうに、残った」
(肝が据わってるな……)
その時だった。
治療所から、聖女がこちらに気づいた。
「あ……!」
彼女は一瞬、目を見開き――次の瞬間、深く頭を下げた。
「勇者様……ですよね?」
(え、バレてる)
「街道での魔族討伐。それから、精神干渉を使う魔族を倒した話……聞いています」
横の男が、にやりと笑う。
「俺はシーフ。初めまして勇者さん。」
咳払いをして、聖女が改めて口を開く。
「どうか……私たちを魔王討伐に連れて行ってください。」
来た。
またもやのあまりにも王道な展開に、思わず遠い目になる。
「盾役も、魔法使いも心当たりがあるから揃えられる。そこにあんたが加われば、完璧なパーティだ」
(いや、俺は一人の方が……)
どう断ろうかと考えて、視線を巡らせる。
ここは前線だ。包帯の人、担架、疲れ切った兵士たち。
俺は、静かに首を振った。
「無理です」
二人が息を呑む。
「あなたがここを離れたら、この街は持たない」
「……え?」
「負傷者が多すぎる。回復役が抜けたら、確実に死者が増える」
聖女は、言葉を失った。
俺は続ける。
「魔王を倒す前に、この街が壊滅したら、人々を犠牲にしては意味がない」
(それに――聖女を連れ出した結果、街が壊滅とか……それが理由で後から遺族に刺されたりするのは御免だ)
「……街を、優先するのですね」
聖女の声は、震えていた。
シーフが、ぽつりと呟く。
「前線を守るために、あえて引き抜きのようなことはしない……責任感の塊だね。」
(いや、ただのリスク管理です)
心の中でそう突っ込みながら、俺は一歩下がった。
「俺は、一人で魔王を倒しに行きます。ここは……あなたたちに任せます」
しばらくの沈黙。
やがて、聖女が微笑んだ。
「……必ず、生きてください。そしていつか……戻ってきてください」
(戻る予定はないんだけどな)
そう思いながら、俺はその場を後にした。
背中に、二人の視線を感じつつ。
(また、変に期待された気がするな)
そんなことを考え、ため息をついた。




