14話 勇者は、情報収集をする
大きめの街に来たら、まずやることは決まっている。
――情報収集だ。
最初に確認するべきことは...
(……この街、逃げ場としてはどうだ?)
大きめの街ではあるが、王都ほど目立たない。
冒険者の数も多く、流れ者も珍しくない。
(俺の懸念通りに、魔王を倒したあと、「はい、お役御免です」って剣を向けられたら)
この街なら、紛れて逃げられるだろうか。
(候補の1つに入れておいていいかもな)
条件は悪くないだろう。逃げ場所の1つに加えておこう。
次にすることは、勇者についての調べだ。
歴代の勇者たちがその後、どうなったのか。
王都でも調べはしたが、王都の情報と、離れた場所の情報とでは違いもあるだろう。
勇者が凱旋する王都では、美談として脚色されていてもおかしくない。
冒険者ギルド、酒場、宿屋。
人が集まり、噂が行き交う場所を中心に、俺はそれとなく耳を傾けて、時には聞き込みをして回る。
酒場のカウンターにて。
「勇者様なら、ここ最近よく話題ですよ」
酒を注いでくれた店主が、にこやかに言う。
「魔族を倒したとか、使役魔物を蹴散らしたとか。さすがは勇者様だ、って」
(噂が広がるの、早くない?っていうか、俺17歳だから酒飲めない...いや、異世界だしそんなことはいいや。)
慣れないアルコールの味に戸惑いつつも、俺は話題をずらす。
「……そういえば、歴代の勇者って、その後どうなったんですか?」
店主は、きょとんとした顔をした。
「どう、って。そりゃあ……魔王を倒して、幸せに暮らしたんでしょう?」
あっさりした答え。
「お姫様と結ばれた、とか、元の世界に帰った、とか、英雄として語り継がれた、とか。」
聞き覚えのある話ばかりだ。
(王都で聞いたやつと同じだな)
俺は、別の場所でも聞いてみることにした。
冒険者ギルドでは、年季の入った冒険者に声をかける。
「勇者?あぁ、昔もいたらしいな」
「“らしい”?」
「ああ。俺が若い頃にも、そんな伝承はいくつかは聞いた」
彼は肩をすくめた。
「だがな、魔王を倒した“その後”を見たやつはいない」
俺は、思わず身を乗り出す。
「どういうことです?」
「勇者は現れて、魔王を倒す。そこまでは語られる」
「だが――その後の話は、だいたいぼんやりしてる」
酒を一口あおって、彼は続けた。
「結婚した、とか、帰った、とか。どれも伝聞程度だ。実際に会った、って話は聞かねえ」
(……やっぱりか)
別の冒険者も言った。
「記録は王都が管理してるんだろ?地方には残らねえよ。言い伝えくらいだ。」
学者風の男に尋ねてみると、もっと冷静だった。
「勇者召喚は国家事業ですからね。情報統制があっても不思議ではありません」
「情報統制...」
「ええ。次代の勇者を安心させるために、“その後は幸せでした”という物語を用意する。それにより勇者も安心して魔王討伐に力を注げる。合理的です」
(でも、それって……)
俺は、宿に戻る途中で考え込んでいた。
この街の人たちは、誰も嘘をついているようには見えない。
みんな、本気で「勇者は幸せになる」と信じている。
それが余計に、怖かった。
(話した人に悪意はない。でも確証のある話じゃないから、当人である俺からしたら信じきることはできない。)
宿屋のおばちゃんが、夕食を運びながら言う。
「魔王を倒したら、みんなに明るい未来が待ってます。それは勇者様だって同じですよ。」
「……そうですね」
俺は、曖昧に笑った。
部屋に戻り、ベッドに腰を下ろす。
ステータスを開き眺めながら、俺は結論を出した。
(やっぱり――魔王を倒した“あと”の準備は、絶対に必要だ)
転移。
偽装。
姿を消す手段。
この世界を救うにしても、
その後に生き残れなければ意味がない。
「……慎重すぎる、か?」
自分でそう呟いて、苦笑する。
俺は勇者だ。だがそれ以前に人間であり、人には明るい側面だけでないことも分かっている。
だからこそ――疑ってかかる。
それが、この世界で生き残るための、俺なりのやり方なのだから。




