第13話 勇者は、パーティを断る
街の城壁が見えたとき、俺は素直に安堵していた。
村と村を転々とする旅も悪くはないが、やっぱり人の多い場所は安心感が違う。
石造りの城壁に囲まれたこの街は、これまで立ち寄った村よりもずっと大きい。前線から遠くないとはいえ、まだ戦火が直接及んでいないのか、通りには活気があった。
まずは情報収集と補給。
そう考えて、俺は冒険者ギルドへ向かった。
扉を開けた瞬間、ざわりとした視線を感じる。
……気のせい、だと思いたい。
「――あ、きた」
壁際から、凛とした女の声。
そちらを向くと、ローブ姿の若い魔法使いが立っていた。肩までの髪、落ち着いた佇まい。年は俺とそう変わらなさそうだ。
その隣には、全身鎧の大柄な騎士。
盾がでかい。存在感もでかい。
「突然すみません」
「少し、お時間よろしいですか?」
「……内容によります」
警戒しつつ答えると、騎士のほうが名乗った。
「俺は騎士のガルド。こちらは魔法使いのミレイだ。」
ミレイと紹介された魔法使いが、小さく会釈する。
「単刀直入に聞きます。あなた、少し前に街道で魔族と戦いましたね?」
やっぱりこういう展開か。
「……どうしてそう思ったんですか」
「街道に戦闘の痕跡が残っていてな。」
「強力な魔力の跡があるというのも気になり……そこで私の魔法を使ったんです」
嫌な予感しかしない。
「特殊魔法、《過去回想》。場所に残る情報から、起きた出来事を読み取る魔法です」
……便利すぎない?
「そこには、魔族と剣を交えるあなたの姿がありました。剣技や動き、そして魔族と戦う理由。それらを考えると――」
ミレイは、はっきりと言った。
「勇者でなければ、説明がつきません」
ギルド内の空気が、微妙に張りつめる。
ガルドが一歩前に出た。
「だから、お願いがある。俺たちを一緒に――魔王討伐の旅に同行させてほしい。」
来た。
王道ど真ん中の展開。
勇者。
盾役の騎士。
魔法使い。
普通なら、ここでパーティ結成だ。
……普通なら。
「……すみません。それは、ちょっと。」
二人が目を瞬かせる。
「断るのか?」
「なぜです?」
俺は少し考えてから、正直に聞いた。
「その《過去回想》って、俺がコケたりしたところも、見えます?」
一瞬の沈黙。
「……理論上は」
「じゃあ無理です」
「そこなのか!?」
ガルドの即ツッコミがギルドに響いた。
「いや、だって恥ずかしいじゃないですか。剣振り回して転んでるとことか」
ミレイが、少しだけ困ったように笑う。
「そこは……見なかったことにしますが」
「だといいんですけどね。」
俺も笑いながらそういう。
半分冗談ではあるが、半分本音でもある。
そんな魔法を使える人と四六時中一緒にいるのは、普通に怖い。
夜に何かをしているところを読み取られたりもしたくないし。
「それに」
俺は続ける。
「俺、まだ魔王城に行く気はありません。今は、戦いの経験を積むのとレベルを上げているところです」
「魔族を倒しておいて、それか……」
ガルドが呆れたように呟く。
「倒せたのは、スキルとステータスのおかげです。俺自身は、ちょっと前まで普通の高校生でしたから」
「コーコーセイ?」
ミレイが首をかしげる。高校生はここでは通じないか、まぁいいだろう。
そしてしばらくの沈黙の後、ミレイが静かに頷いた。
「……なるほど。あなたはまず、戦闘方法や自分の強さの立ち位置を確かめているんですね」
「そういうことです」
ガルドは悔しそうだったが、最後には深く頭を下げた。
「わかった。突然の申し出、すまなかった。無理強いはしないが、いずれ必要になったら――」
「そのときは、考えます」
たぶん、そのときは来ない。
二人はギルドを後にした。
少し張り詰めていた空気は元に戻り、喧騒が戻ったギルドで俺は椅子に腰を下ろし、大きく息を吐く。
「……勇者パーティ、か」
魔王討伐後の処分ルートとして、パーティメンバーに後ろから刺されると言うパターンも多い。
終わった後を考えるならパーティを組むのは危険だ。
その分魔王討伐は厳しくなるかもしれないが、それはそれだ。
俺は静かにステータスを開き、魔族を倒してから増えたスキルポイントを眺めた。
「さて……次は、何を取るかな」




