第12話 勇者は、奇襲を仕掛け返す
村を出て、半日ほど歩いた頃だった。
(……嫌な感じだな)
街道は静かだった。
風の音も、鳥の鳴き声もある。異常はない――はずなのに。
だが、《危険察知》が、じわりと反応している。
(来る)
俺は足を止め、わざと周囲を見回す仕草をした。
その瞬間。
「――そこだ!」
横合いから、鋭い殺気。
俺が地面を蹴るのと、魔力の塊が飛んでくるのはほぼ同時だった。
「っ……!」
紙一重でかわす。
背後の岩が、音を立てて砕け散った。
(……魔法)
しかも、威力が高い。
「ほう……やはり、気づいていたか」
低い声。
木陰から姿を現したのは、人型の存在だった。
人間に近い姿だが、肌の色はくすみ、目は赤く光っている。
(魔族……)
間違いない。
「キサマ……俺が何をしていたか、分かっていたな?」
魔族はゆっくり歩いてきながら話し出す。
「王都周辺の村や街を襲い、王都を孤立させる。そのために、狼やゴブリンを使役していた」
魔族は、口元を歪める。
「だから、あんな村を転々としていたのだろう?俺の策を潰すために」
(いや、レベリングと戦闘経験積むためだけど)
とはいえ、否定する理由もない。
「……どうでしょうね。結果的に、邪魔はしましたけど。」
魔族は勝手に納得したように鼻を鳴らした。
「やはり勇者というべきか。王都の連中、随分と慎重な策士を召喚したものだ」
(だから、違うって)
会話は、そこで終わった。
「――死ね」
魔族が、踏み込んでくる。
剣と剣がぶつかり合う。
重い。
(……強いな)
今までの魔物とは、明らかに違う。いつも通り踏み込み、剣を振りぬき、連撃をしかける。
剣聖補正でこちらの動きは最適化されているはずなのに、魔族は食らいついてくる。
魔族も苦しそうな顔はしているが、焦っているというほどでもない。
「どうした、勇者!それが貴様の全力か!」
反撃。
魔力を帯びた斬撃が、俺の脇腹をかすめた。
「っ……!」
(今の、直撃してたら危なかったな)
致命傷にはならないだろうが、無傷とはいかない。
俺は距離を取る。
(優位ではある……けど)
長引かせるのは得策じゃない。
(正面からの殴り合いは、ここまでだ)
戦術を変える。
咄嗟にステータスと念じ、一つのスキルを取る。
【《光魔法》を取得しました】
俺は魔力を練り、《光魔法》を発動させた。
「な――っ!?」
閃光。
一瞬、視界が白に染まる。
「小細工を……!」
その隙に、俺は一気に後退した。
《気配遮断》
《無音行動》
《無臭》
スキルを重ねがけする。
グレートボアや狼の魔物に見つかった経験から、隠密系は複数追加取得していた。
それにより完全に、俺の存在は森の中に溶け込んだ。
「……消えた?」
魔族が周囲を見回す。
「馬鹿な……勇者が、逃げるだと?」
(逃げたんじゃない。位置を変えただけだ)
これだけスキルを重ねれば、さすがに見つけることは難しいだろう。
「出てこい、勇者!正面から来い!」
苛立ちを隠せない声。
(いや、先に正面から来ずに奇襲してきたのそっちだし)
俺は、背後に回り込んだ。
剣を振り上げる。
「――!」
魔族が気づいた時には、もう遅い。
渾身の一撃が、背中を切り裂いた。
「ぐ……っ!?き、さま……!」
膝をつく魔族。
「勇者のくせに……そんな戦い方……!」
「文句を言う筋合い、あります?」
短く告げて、剣を振り下ろした。
魔族の身体が、魔力の粒子となって崩れていく。
「……こんな、勇者……聞いて、いない……」
それが、最期の言葉だった。
静寂が戻る。
俺は剣を下ろし、深く息を吐いた。
(……危なかったな)
正面戦闘を続けていたら、勝てはしただろうが無傷では済まなかっただろう。
(疑って、警戒して、準備してて正解だった)
消えかけた魔力の残滓を見ながら、そう思う。
魔族が直接仕掛けてきた
どうやら俺は、もう魔王軍にとって「無視できない存在」らしい。
先ほどの、少し危険があった場面を思い出す。
(やっぱり、正面から戦う勇者じゃなくて、良かった)
心のどこかで、そんなことを考えていた。




