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第六話『吾輩、夢中なのである』

 吾輩は犬である。名前はポチという。


「ワン!」


 小屋作りの続きなのである!


「ポチ、ここに穴を掘ってくれ!」

「ワン!」


 高床を取り囲むように、最初の支柱にした丸太よりも長い丸太で新たに柱を8本立てる。

 かなり苦労したけれど、吾輩とカイトくんが力を合わせれば出来ない事など何もないのである。

 新たな柱と高床の間に横木を渡して、更に柱同士も横木で繋いでいく。

 外柱の先端には立てる前にカイトくんが巻き付けておいたツタが垂れ下がっていて、そのツタ同士を高床の上に運んだ高床の支柱よりも少し短い丸太の先端に取り付けた。


「これをクルクルっとするとツタが張るから……」


 柱を高床の中央に立て、クルクルと回すとカイトくんの思惑通りにツタがピンとなった。

 

「あとはこのデカい葉っぱを乗せれば……っと!」

「ワンワン!」


 大きめの葉をツタの上に被せていくと、遂に屋根が出来上がった。

 少し離れた場所から眺めてみると、中々に立派な小屋の完成である。

 

「よし! ここからどんどん補強していくぞ、ポチ! とりあえず、柱を支える為の添え木が必要だな」

「ワン!」


 なんと、まだ完成ではなかったようである。

 高床の柱と外柱にそれぞれ添え木をしていく。更に、柱を添え木の周りに重たい石をこれでもかと積んでいく。

 高床の真下にも数本の柱を追加した。


「後は床だな。ポチ! この丸太を板みたいに出来るか?」

「ワン!」


《『スキル:ワイルド・レンド』発動》

《『スキル:エングレイブ』発動》


 大まかに丸太を四角く切り、それを正確に平べったくなるようスライスしていく。

 吾輩、知っている。これを職人技という。カフェのお客様がよくご主人のコーヒーの淹れ方を職人技だと褒めていた。極まった技術を称賛する言葉なのだ。

 

「ワフン!」


 こういう時、ご主人はクールに笑ったのである。

 吾輩、クールに笑うのである。


「あはは、ドヤ顔! ありがとう、ポチ! ばっちりだ」


 カイトくん、切り出した板を次々に高床の上に敷いた葉の上に敷いていく。

 その上に更に葉を乗せた。


「あとは煙で燻してっと」


 高床の下に潜り込み、カイトくんは小屋を燃やさないように慎重に松明の煙を当てる。

 それが終わると、ようやくカイトくんは「完成だ!」と言ってくれた。

 ようやくである。吾輩、もうお腹ペコペコなのである。


「こっちもそろそろだよな」


 お待ちかねのお肉である。

 ピットローストする為に埋めていた石はすっかり赤から元の灰色に戻っていた。だけど、カイトくんは慎重に木の枝で石を取り除いていく。


「触っちゃダメだよ。まだ、かなり熱い筈なんだ」

「ワン!」


 分かったのである。でも、本当に熱いのだろうか? ちょっとだけ、確かめてみるのである。


「ワゥ!?」


 熱いのである!


「ポチ!? ダメだって言ったでしょ!?」


 吾輩、涙目なのである。高床の柱の影に隠れながら、熱々の石を睨む。


「ってか、埋めるべきだったな。ごめん、ポチ!」


 カイトくん、謝りながら石をせっせと取り出すと、その石の上に近くの土を掛けて埋めた。

 

「大丈夫立ったか!? 火傷してたらまずいな……」

「ワウ!」


 大丈夫なのである。熱かったけど、今は何ともないのである。でも、石を埋めた所には近づかないのである。


「大丈夫そう……? ごめんな、ポチ。今度はちゃんと気を付けるから……」

「ワン!」


 吾輩も気を付けるのである。

 それよりも、早くお肉を食べたいのである。


「ワンワン!」


 お肉を埋めた穴に向かって鳴くと、カイトくんは相好を崩した。


「待ってろよ」


 カイトくんが真っ黒な塊を穴から取り出した。

 どうやら、包んでいた葉が焦げたようだ。その葉を丁寧に取り外すと、これまた真っ黒な肉塊が現れた。

 その焦げ目を擦ると、ベリッと皮が剥がれて、香ばしい香りが漂った。


「美味しそう! ポチ、切り分けてくれ!」

「ワン!」


 新たに用意した大きな葉の上でウサギの肉を切り分ける。

 カイトくんは足の肉を掴み、吾輩は腕の肉に嚙みついた。

 多分、ご主人が食べさせてくれたステーキとは比較にならないほど粗末な味なのだろう。だけど、肉に飢えていた吾輩には天上の味だった。

 美味である!


「うまっ! ただ、焼いただけなのに、すごく上手いな! あとは塩でもあればなぁ……」


 カイトくん、そう言いながらも嬉しそうに食べているのである。

 もっと欲しいのである。


《『スキル:スニッフ・サーチ』発動。対象:イーギン族。失敗。サーチ範囲内にイーギン族はいませんでした》


 吾輩、もっと食べたいのである。


「ハルルルルル」


《『スキル:ハンティングモード』発動》

《『スキル:スニッフ・サーチ』から、『スキル:スニッフ・チェイス』へ派生しました》


 見つけたのである。あのウサギの残り香がある。その残り香を追っていくと、たくさんのウサギが蠢いている場所があった。

 

「ポチ?」

「ハルルルルル」


 ちょっと待っていて欲しいのである。


《『スキル:疾走』発動》


 吾輩、我慢出来ない。駆け出して、森の木々の合間を抜けていく。

 音を立てず、最短距離を一気に突き進む。

 見えた。小さくて三角の小屋が立ち並んでいる。そこに二足歩行のウサギがたむろっていた。

 ウサギだけではなく、豚のような生き物や鹿のような生き物もいる。どれも美味しそうなのである。


「あ、あれ?」

「どうしたの?」

「ママ、あそこに何かいるよ!」

「え?」

「まさか!?」

「あれはアブザルを惨殺した……」

「死だ……、死が現れたぞ!!」

「子供を隠せ!!」

「戦える者は集まれ!! 戦えない者は子供を守れ!!」


 そう言えば、焼いても美味しかったが、生で食べたらどうなのだろう?

 吾輩、手近なウサギに近づくと、その腹を食べてみた。


《『スキル:サベージ・ファング』発動》


「ギャァァァァァァァァ!!!」

「メゾラス!!」

「そんな、メゾラスが!!」

「おのれ、死よ!!」

「だ、ダメだ! 逃げろ!! 敵わない!!」

「ふざけるな!! 友の仇だぞ!!」

「許さん!!」


 美味いのである。カイトくんにも食べさせてあげたいのである。

 豚や鹿はどうなのだろうか? あの鹿の角など、他にも使い道がありそうだ。大きさも手ごろである。あれならば持ち帰る事が出来そうだ。


「ガルルルルル!」


《『スキル:バトルモード』発動》

《『スキル:威圧』発動》


 一歩近づくと、二足歩行の獣達は途端に怯え始めた。

 泣き出すもの、震えるもの、蹲るもの。

 その中で、一匹の豚が吾輩の前に躍り出た。


「我が名はガヒュート! ウーガー族の勇者! イーギン族の勇者を惨殺した魔性よ! 我が正義を示そうぞ! 見ていてくれ、友よ!」


 豚ではない。吾輩、鹿が欲しい。


《『スキル:ワイルド・レンド』発動》


 豚を真っ二つにして、蹲っている鹿の前に立つ。


「や、やだ……、助けて……、助けてください。わ、わたしには子供がいるんです。ま、まだ、小さい子なんです……、お願いします」


 子供の方が美味しいかもしれない。だけど、カイトくんと分けるには量が多い方がいい。でも、子供の方が柔らかくて美味しい筈である。

 迷う。だけど、とりあえずこれでいい。吾輩、鹿の首を噛んで、引きずりながら来た道を戻る。


「やだ……、やだ! 助けて!! みんな、助けて!! お願い!! 殺される!! あ、あんな、吊るされて首を落とされるなんて嫌だ!! 誰か!?」

「や、やめろー!!」

「フルエンを離せ!!」

「全員で襲い掛かれ!!」


 早く帰りたいのである。カイトくんだって、まだまだお肉を食べたい筈である。

 邪魔である。


《『スキル:ワイルド・レンド』から、『スキル:レイジング・レンド』へ派生しました》


 爪を軽く振るう。すると、獣達から血が噴き出した。

 失敗である。折角の餌をうっかり殺し過ぎた。肉は新鮮な方が美味しいのである。

 もったいないから、ちょっと食べて行こう。


「あっ……、ああ……、酷い……。なんで……、なんで、こんな……」

「ワゥワゥ」


 生肉だとウサギよりも豚や鹿の方が美味しく感じた。これはカイトくんも大喜びな筈である。


「許さない……」


 帰るのである。


「……絶対に許さない。死よ……、いつか必ず、貴様を……」

「ワゥ」


 鹿がうるさい。喉の部分を噛みちぎっておく。


「がっ……、あがっ……」


 これで良し! 死んでしまう前にカイトくんの所に持っていくのである。


「バフバフ!」


 このご馳走を持っていったら、カイトくんに褒めてもらうのである。

 吾輩、楽しみ!

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