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第四話『吾輩、決意する』

 吾輩は犬である。名前はポチという。


「ワン!」


 吾輩とカイトくん、早速ツリーハウス作りを始めたのである。

 

「本当は木を乾燥させた方が良い筈なんだけど、悠長な事はしてられないしな」


 カイトくん、周囲の木々の中でも特に太い幹を持つ木を見上げながら言った。

 この木にツリーハウスを作る事に決めたようだ。真似して見上げてみると、高い位置で太い枝が分かれているのが見える。

 

「まずは梯子かな? あとは滑車も作らなきゃ」


 カイトくんは近くの木から垂れ下がっているツタを掴んだ。力いっぱい引っ張っても、ツタはビクともしない。

 

「これだけ丈夫なら、色々使えそうだな。でも、刃物がないし……」

「ワンワン!」


 刃物が無くても、吾輩がいるのである。

 

「あっ、そっか!」


 吾輩とカイトくん、一旦環境破壊を楽しんだ場所に戻った。

 切り倒した木から伸びるツタを吾輩の爪で切っていく。


《『スキル:ワイルド・レンド』発動》


 スパスパ切れるのである。あっという間に十分な量のツタが集まり、カイトくんはその内の2本を平行に並べた。


「ポチ。この丸太に穴は空けられるかな? 切るんじゃなくて、こう、その爪で上手い事……って、この説明、伝わってるかな?」

「ワン!」


 伝わっているのである。要するに、カイトくんが手に持っている細い丸太を足場にする為にツタを通す為の穴を空ければ良いのであろう。

 吾輩、意識を集中。突くイメージである。


《『スキル:ピンポイント・スクラッチ』を会得しました》


 見事、丸太に細い穴が空いた。


「すごいぞ、ポチ! こっちにもお願い」

「ワン!」


《『スキル:ピンポイント・スクラッチ』発動》


 吾輩、次から次へと丸太に穴を空けていく。なんとなく、ご主人がお会計の時に機械をポチポチしていた光景を思い出したのである。

 ポチポチポチポチ。お会計がコーヒーとサンドウィッチで、合わせて700万円なのである!

 

「あとはここにツタを通して、一回結んで……、もう一つ……」


 ポチポチが終わってしまって、吾輩、暇なのである。だけど、カイトくんの邪魔は出来ない。のんびり待つのである。

 カイトくん、作業に没頭しているのか、すごく真剣な顔つきをしている。その顔をジッと見つめていると、段々ウトウトして来たのである。


「出来たぁ!」

「フゴッ!?」

「あっ、ごめん。起こしちゃった」


 吾輩、お昼寝してしまったのである。寝ぼけ眼を何度もパチパチして、頭をブルブル震わせると、吾輩の目にはカイトくんの力作が横たわっていた。

 梯子が完成したのである。


「……問題は、どうやって上に持っていくかだよなぁ」


 カイトくん、ちょっと途方に暮れている。丸太を幾つもくっ付けた梯子は相当に重い筈である。補強の為に最初は2本だったツタが左右でそれぞれ4本ずつに増やされていたから余計に重たそうである。


「やっぱり、滑車だよな」

 

 カイトくん、今度は大きな丸太を指差した。


「ポチ。こことここで切れる?」

「ワン!」


《『スキル:ワイルド・レンド』発動》


 言われた所を切る。丸太の輪切りの完成である。

 カイトくん、輪切りにした丸太の断面の部分に近くの石を擦り付け始める。何をしているのかと思えば、どうやら絵を描こうとしているらしい。

 突然、芸術に目覚めてしまったのであろうか? このような状況でも、心のゆとりを忘れない。とても大切な事である。

 吾輩、温かい目で見守るのである!


「うーん、こんな感じかな?」


 絵が完成したようである。カイトくんが見せてくれたそれは何やらギザギザな円形の絵であった。

 人間の感性はよく分からないが、きっと素晴らしいものに違いないのである。


「ワンワンワン!」


 こういう時は拍手をするものである。吾輩、肉球と肉球をポヨポヨと合わせた。


「えっと……、こういう感じに切れるかな?」

「ワフ?」


 どうやら、切る場所にマークを付けていたようだ。吾輩、早とちり。


「ワン!」


《『スキル:エングレイブ』を会得しました》


 見事、マーク通りに切る事が出来たのである。


「すごい! って、しまった! これだと滑車じゃなくて、ギアだ。間違えた……」


 どうやら、カイトくんが思っていた物とは違ったようである。

 失敗してしまった。反省である。


「ワゥ……」

「え? あっ、違うよ! ポチが悪いんじゃなくて、オレが間違えたんだ。えっと、滑車だから、まずは・・・」


 カイトくん、また石でマークを描いた。今度は丸なのである。その通りに切ると、今度は外周の部分に溝を掘る事になった。それから断面の真ん中に穴を空ける。

 同じ物を幾つも作った後、カイトくんはツタと丸太の輪切りを抱えて木を登ろうとした。そして、すぐに落ちてしまった。


「ワゥ!?」


 ケガをしていないか心配なのである。


「だ、大丈夫。でも、参ったな……」


 どうやら、カイトくんはこの木を登りたいようだ。

 ツリーハウスを作る為なのだろう。だけど、吾輩も木登りはやった事が無いのである。

 

「……ワウ!」


 だからと言って、挑戦もせずに諦めるわけにはいかない。

 吾輩、木登りにチャレンジである。


《『スキル:ウォール・グリップ』を会得しました》


 なんと、登れたのである。と言うか、木の肌に肢が吸い付くのである。

 試しに止まってみると、吾輩、木の幹に垂直に立てたのである。


「ええ!? どうなってるんだ、ポチ!?」

「ワオン」


 吾輩、分からない。

 とりあえず、登るのは簡単そうである。吾輩、一旦降りて、梯子の端の丸太を加える。

 ずっしりと重たい。このまま、木の上まで梯子を持っていきたかったのであるが、それはさすがに無理だった。

 

「……ポチ。こっちはどう?」


 丸太の輪切りをカイトくんが持って来た。咥えてみる。すごく重たいのである。だけど、ギリギリ運べそうなのである。


「やっぱりダメだ!」

「ワゥ!?」


 カイトくん、吾輩から丸太の輪切りを取り上げた。


「出来そうだけど、途中で落ちたりしたらポチがケガしちゃうし……」

「ワンワン!」


 吾輩、頑張る!


「やっぱり、ツリーハウスは無理だ」

「ワゥ!?」


 諦めちゃダメである!

 

「作戦変更だ、ポチ。高床式の小屋を作る!」

「ワフ?」


 高床式の小屋?


「急ごう。ポチ、手伝ってくれ!」

「ワン!」


 吾輩、手伝う!


「まずは支柱を立てよう。ポチ、その爪で深い穴は掘れるかな? 50センチくらいあると良いんだけど」

「ワンワン!」


 吾輩、掘るのである!


《『スキル:ディグクロウ』を会得しました》


 なんと、一掻きなのである。


「いいぞ! あと、こっちとこっち、それと、こっちにも頼む!」

「ワン!」


《『スキル:ディグクロウ』発動》


 穴を四か所空けると、カイト君はそこに太い丸太を持っていこうとする。だけど、重過ぎるのかほとんど動かない。


「い、急がないと」

「ワン!」


 吾輩も手伝うのである。カイトくんと一緒に必死に丸太を運び、先端を穴に落とすと、必死になって丸太を縦にした。


「ポ、ポチ。オレが支えてるから、穴に石とかを持って来て埋めてくれ!」

「ワン!」


 カイトくんが必死の形相で丸太を支えている間に、吾輩、大急ぎで穴を埋めて支柱として固定していく。

 それを四回繰り返すと、もう吾輩もカイトくんもバテバテである。

 だけど、まだ休むわけにはいかない。バナナブドウを口に放り込み、支柱と支柱の間に横木を渡してツタで縛る。これはほとんど、カイトくんが一人でやった。

 その間、吾輩はサボっていたわけではなく、床板にする為に丸太を爪で板状に切っていた。

 横木の間にその板を渡していく。何枚も重ねて、上に乗っても沈まないかをカイトくんは入念にチェックしていた。

 ツルで逐一固定しながらの作業だったから、その頃には空がすっかり暗くなってしまっていた。


「……今日はここまでかな」

「ワフ……」


 バナナブドウを食べながら、吾輩とカイトくんは板の上に葉をこれでもかと乗せて、その上に寝そべった。

 吾輩はそこそこ快適であるが、人間はもっとフカフカなベッドで眠るものである。

 カイトくんは辛そうだ。


「……あっ」


 カイトくんが声を上げた。


「ワゥ?」


 吾輩、心配。


「ポチ、見て見なよ」


 カイトくん、空を指差した。


「ワゥ?」


 吾輩、空を見た。そこには満天の星空が広がっていた。


「……綺麗だな」

「ワゥ」

「すげぇ……、綺麗だ……」

「ワゥ……」


 カイトくん、泣いている。

 

「ママ……。パパ……。姉ちゃん……」


 吾輩、カイトくんを慰めたくて頬をペロペロした。


「ポチ……。帰ろうな……、ポチ。絶対、家に……」

「ワゥ」


 吾輩、決意する。

 吾輩、カイトくんを絶対に家に帰すのである。

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