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第二十五話『吾輩、息が荒くなって来た』

 吾輩は犬である。名前はポチという。


「ワン!」

「キィ!」


 今日も今日とて、中央都市に向かって歩くのである。

 結局、ハバキリの意思を知る事は出来なかった。だが、進展はあった。

 内容のすべてを理解出来たわけではないが、ハバキリの意思を読み取れない理由は『万象の声』なる能力の対象外となっている事が原因らしい。

 

「ワォン」

「キィ?」


 読み取る事が出来なかったのは能力の問題だった。ならば、やはりハバキリには意思があるという事なのだろう。

 その一挙手一投足から感じるもの。それこそが真実であったのだ。

 十分である。吾輩の願いは叶えられた。


「ワン!」


 ならばこそ、今度は貴様に問う。

 姿無き、不可思議なる声よ! 貴様は何者であるか!? 我が願いを聞き届けし者よ! 吾輩は感謝を告げる者の正体を求める!


「……ワゥ」


 答えは返って来なかった。だが、意思がある事は間違いあるまい。そうでなければおかしい。

 故に、重ねて問う。貴様は何者なのだ!? 貴様の名を知りたい。答えるのである。それが吾輩の望みである。


「…………ワゥ」


 うんともすんとも言わぬ。

 吾輩、不満である。


「キィ?」

「ワン!」


 吾輩は礼を言いたいのである。

 吾輩の望みを叶えてくれる、汝へ我が思いを受け取ってもらいたいのである。

 

《『スキル:万象の声』に対する、機能拡張要請を受諾。失敗。識別コードが存在しません》


 またである。識別コードとは何なのだ!? ハバキリもその識別コードとやらを持っていないらしいが、それがあれば意思の疎通が出来るという事なのか!?


《『個体名:鋼装鳥ハバキリ』、並びに『個体名:ポチ』の『雷帝の権能』、『魔王の権能』、『百鬼の主の権能』、『獣王の仔の権能』の集合的機構に対する識別コードの発行を要請。失敗。棄却されました》


 何故、出来ない!? その識別コードの発行とやらは、どうすれば出来るのだ!?


《識別コードの発行要件の確認。成功。識別コードの発行には対象の魂の情報が必要となります》


「ワゥ……」


 魂。それが如何なるものか、分かるような分からないような……、モヤモヤする。

 何となくであるが、吾輩が意思と呼んでいるもの。それこそが魂というもののような気がする。

 ならば、ハバキリには魂がある筈である。読み解けぬが、魂があるのだから!


《『個体名:鋼装鳥ハバキリ』の魂の情報を検索。失敗。『メタルディザイア』は種族として登録されていません》


 今度は種族が登録されていないと言った。ならば、登録せよ!


《『メタルディザイア』の種族登録を要請。失敗。『メタルディザイア』は個人による既存生命の改造個体に過ぎず、進化による種分化ではない為、新種としての登録は出来ません》


 融通が利かないのである。

 

「どうしたの? 唸り声あげて」

「オルグたん、ご機嫌斜めなのかぁ?」


 ミゼラが吾輩を抱き上げた。そのまま、吾輩の足になるが良い。

 吾輩、少々不貞寝するのである。


「……寝ちゃった」

「重いだろ。オレが抱っこ変わってやるよ」

「結構です! 魔法で強化すれば余裕だもん!」

「ちぇー」


 ◆


 目が覚めると、既に辺りは暗くなっていた。いつもならば野宿の準備を始めている頃であるが、ミゼラ達は歩き続けている。


「おっ、見えて来たぞ!」


 遠くに明かりが見えた。どうやら、目的地に到着したらしい。

 中央都市ディオルフォード。

 この大陸でもっとも大きく、栄えている街らしい。ここならば、カイトくんの痕跡が残っているかもしれぬ。

 吾輩はミゼラの腕から飛び降りた。


「ワンワン!」


 急ぐのである!


「ちょ、ちょっと、オルグちゃん!」

「おいおい、どうした!?」

「急げって言ってるみたいね。急ごうか!」

「オルグたんがそう言うなら、全員ダッシュだ!」


 吾輩達はディオルフォードへ全速力で駆け出した。


 ◆


「中央都市、懐かしい!」

「しばらく、ジュラ近辺で活動してたからな」

「三年くらいだっけ?」

「そうそう。例の事件の時に駆り出されて、そのまま居ついちまってたからな」

「例の事件って?」

「ギャリオン王国の事件ですよ。聞いた事ありませんか?」


 マリアは首を横に振った。


「っていうか、ギャリオン王国って何? この大陸の話? でも、この大陸って、こことうちとイグノス武国の三国だけじゃなかった? ブリュートナギレスを入れても四つしかなかったと思うけど……」

「……連邦国家の意味を知らないのですか?」

「え?」


 マリアはキョトンとしている。カリウスはやれやれと肩を竦めた。その反応にマリアは頬を膨らませた。


「その態度は良くないと思うなー!」

「そう思うなら、もっとしっかり勉強してください。お前らもだぞ、ミゼラ! ヤザン! 連邦国家について、説明出来るんだろうな!?」


 ミゼラとヤザンは明後日の方角を見ながら美味しいお菓子屋さんは何処かという会話を始めた。

 

「……だって、勉強の仕方なんて分からないんだもん」

「帝国に学校は無いのですか?」

「あるよ。でも、通った事ないの……」


 マリアは落ち込んだ様子だ。


「ワン!」


 吾輩、カリウスを叱りつけた。虐めるでない!


「おわっ!? べ、別に虐めてるわけじゃないぞ! いや、配慮が足りなかったけど……」


 カリウスはマリアに頭を下げて謝罪した。


「……それで、連邦国家って何なの?」

「複数の国がまとまって出来た国の事ですよ。ギャリオン王国の他、七十二の国々が手を取り合って生まれたのがルテシアン連邦国なんです」

「ふーん、なるほど」


 なるほどである。


「それで、ギャリオン王国の事件って?」

「三年前、ジュラマウンテンから降りて来た魔人がギャリオン王国を襲ったんです。たしか、その魔人は自らを『死を滅ぼす者』と名乗ったそうです」


 吾輩とカイトくんが居たジュラマウンテンから降りて来た魔人。

 死を滅ぼすもの。

 地図には載っていなかった、ギャリオン王国。

 吾輩、何故だか息が荒くなって来た。

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