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第二十四話『吾輩、頭が痛い』

 吾輩は犬である。名前はポチという。


「ワン!」

「キィ」


 不思議な気分なのである。吾輩達は草原のど真ん中で丸くなっている。

 空を見上げれば、そこには満天の星空が広がっていた。

 

「ワゥ……」


 美しい。眠気に襲われながらも、永遠に見ていたいと思わされる。


「キィ」


 ハバキリは不思議そうに首を傾げている。

 

「……ワゥ」


 些か、妙である。

 相変わらず、ハバキリからは意思を感じない。

 如何なる音であれ、そこに意思があれば吾輩には分かる。人間のように明確でなくともだ。吾輩の体毛を駆け回る極小のノミにさえも。

 だから、吾輩はハバキリを異質に感じていた。


「ワォン」


 お前は何故、首を傾げた? 何故、吾輩と顔を見合わせた? 何故、吾輩の心を案じた?

 そう見えただけなのか? 本当に?


「キィ」


 分からぬ。何も感じ取れぬ。

 やはり、お前は人形なのか? ご主人のカフェのすぐ近くにあった携帯電話の店の前に置かれていた気味の悪い人形のように、決められた動作や音声を状況に応じて再生しているだけなのか?

 そうではないと言うのならば、示して欲しい。なんでも良いのだ。この美しき星空を見て、感じるものはないのか!?


「ワン! ワン! ワン!」

「キィ」

「……どうしたのー?」

「オルグたん、寝れないのかぁ?」

「ハバキリと話をしているみたいだ。お前らは黙って寝とけ」

「はーい」

「交代は……、あと二時間か……、もうちょっとおやすみ……」

「おやすみ」


 ミゼラとヤザンを起こしてしまったようだ。すまない事をした。

 

「ワゥ……」


 Dr.クラウンは脳を生体回路とやらに加工したと言っていた。

 生体回路が何かは分からぬが、脳は意思を生み出す源である。それを弄られたから、ハバキリは意思を持てぬのだろうか?


「……ガル」


 イライラする。吾輩はハバキリが意思を持つ事を望んでいる。それが叶わぬ願いだとすれば、ハバキリをそのような状態にした者を吾輩は忌々しく思う。

 メタルディザイアとは何なのだ? 何故、ハバキリをそのようなモノにした? 


「キィ……」


 ハバキリは吾輩の真横に来て、座り込んだ。

 鋼の装甲が冷たいのである。


「ワゥ?」

「キィキィ」


 頬に頬を当てられた。これが意思無き者の行動だろうか?

 分からない。


「ワォン」

 

 胸が苦しい。


「キィ」


 吾輩には貴様が分からぬ。それが苦しいのだ。

 だから、慰める気があるのならば意思を示して欲しい。


「キィ……」

「ワゥ……」


 ◆


 日の出と共に吾輩は目を覚ました。

 陽光による覚醒は実に心地良い。


「おはよう、オルグ」


 傍に居たのはカリウスだけだった。


「昨夜はずっとハバキリと話し込んでたな。仲良くなれたか?」

「ワゥ……」

「……そっか」


 カリウスは吾輩の頭を撫でた。心地が良い。


「ワォン!」


 吾輩、とても甘えたい気分なのである。

 

「オルグ!?」


 カリウスに飛び掛かり、その顔を全力でペロペロする。


「ちょちょっ!? どうした!?」


 そのまま押し倒したカリウスの上で丸くなる。

 適度に温かく、上下に揺れる胸の感触が心地よい。


「お、おーい?」


 吾輩、もう一度寝るのである。


「おいぃぃぃ! このまま寝るな!! 起きろ!!」


 うるさいのである。黙って、吾輩のベッドになっているが良い。


「キィ?」


 ハバキリがよちよちやって来た。


「……まさか」


 カリウスは体を強張らせた。ハバキリはよちよち近付いてくる。


「よ、よせ、バッキ―! さすがにお前は無理だ!! 潰れちゃう!!」

「キィ!」


 さすがに鋼の塊が乗ったら寝床が潰れてしまう。

 仕方なく降りると、ハバキリは首を傾げた。


「ワゥ……」


《レベルアップ承認。保有経験値:300を消費。レベル10になりました》

《条件達成。エヴォルク承認。保有レベル:10を消費。『種族:バーニーズ・マウンテン・ドッグ』から、『種族:ストーム・ベルーガー』へエヴォルクします》


 ちょっと大きくなってみる。


「今度はなんだ!?」


 カリウス、うるさいのである。

 体を横たわらせて、ハバキリへ合図を送る。吾輩の真似がしたいのならば、吾輩の背中を寝床とするが良い。


「キィ」


 ハバキリが乗っかると、中々の重量を感じた。

 

「キィ!」

「ワゥ!」


 毛皮を通じて、ハバキリの冷たさと硬さを感じながら、吾輩は問う。

 時折響く、不思議な声よ。吾輩はハバキリの意思を聞きたいのだ。

 他のあらゆる望みを叶える声よ。吾輩の切なる願いを聞き届けてもらいたい。

 感じられぬが、それでも吾輩にはハバキリが意思を持っていると信じずにはいられないのだ。


《『スキル:万象の声』からの派生に失敗しました》

《『スキル:万象の声』からの派生に失敗しました》

《『スキル:万象の声』からの派生に失敗しました》

《『スキル:万象の声』からの派生に失敗しました》

《『スキル:万象の声』からの派生に失敗しました》

《『スキル:万象の声』からの派生に失敗しました》

《『スキル:万象の声』からの派生に失敗しました》

《『スキル:万象の声』からの派生に失敗しました》

《『スキル:万象の声』からの派生に失敗しました》

《『スキル:万象の声』からの派生に失敗しました》

《派生条件の検索を開始。『スキル:万象の声』より、『雷帝の権能』へアクセス開始。失敗。『魔王の権能』による『スキル:強制転生』により、『雷帝の権能』に不具合が発生中》

《派生条件の検索を再度開始。『魔王の権能』へアクセス開始。失敗。『スキル:強制転生』により、『魔王の権能』に不具合が発生中》

《アクセス条件の検索を開始。『雷帝の権能』及び、『魔王の権能』へのアクセス手段を検索。成功。必要条件:各権能の取得条件の再度達成》

《『雷帝の権能』の取得条件を参照。成功。天空城イベルナスティルの築城及び、雷帝の軍勢の再度結成により、『雷帝の権能』の復元が可能》

《天空城イベルナスティルの築城条件を検索。成功。旧カルネロヴァリーサ城塞を改築及び、神器『エクセリオン』の設置》

《旧カルネロヴァリーサ城塞の築城条件を検索。失敗。該当情報消失》

《神器『エクセリオン』の所在を検索。失敗。神器の所在検索には七王の承認が必要》

《七王の承認を請求。失敗。七王への請求権を所有していません》

《『魔王の権能』の取得条件を参照。失敗》

《『魔王の権能』の取得条件を検索。成功。竜姫シャロンの行動の模倣により、取得可能》

《竜姫シャロンの行動を検索。失敗。該当情報へのアクセス方法皆無》

《メタルディザイアに対する識別コードの発行を請求。失敗。請求を却下されました》

《メタルディザイアに対する『スキル:万象の声』の稼働条件を検索。失敗。識別コードが発行されていません》

《個体名:鋼装鳥ハバキリへの識別コードの発行を請求。失敗。請求は却下されました》

《個体名:鋼装鳥ハバキリへの識別コードの発行条件を検索。失敗。発行不可》

《個体名:鋼装鳥ハバキリに対する意思疎通要請の受諾に失敗しました》


 頭がきしむように痛み、意識が明滅する。

 声の内容はほとんどが理解出来なかった。分かった事と言えば、吾輩の望みが叶わなかったという事だけだ。


「クゥ……」

「キィ……?」

「ワゥ……」


 吾輩、頭が痛い。

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