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第二十二話『吾輩、教えるのである』

 吾輩は犬である。名前はポチという。

 

「ワン!」


 吾輩の横をハバキリがよちよち歩いている。


「ワゥ……」


 最初は飛んでいたのである。だが、吾輩達の歩行速度と合わせようとして、何度も落下したのである。繰り返す事、十八回。


 ―――― 歩けばいいのでは?


 カリウスの言葉にハバキリは『キィ』と反応して、それからはよちよち歩きである。

 意思を感じさせない眼差しを延々と吾輩に向けて来る。それが非常に不快である。


「ワン!」

「キィ」

「ワンワン!!」

「キィ」


 吠えても、返って来るのは意思なき声のみ

 吾輩、やっぱり嫌いである。


「ははっ、なんやかんやで仲良くやってんな!」

「動物同士、通じ合うものがあるのかもしれないな」

「こうして見ると、メタルディザイアもそんなに怖くないかも……?」

「うーん。今後は鋼装鳥は斬りにくくなるかも……」

「鋼装鳥?」

「鳥系のメタルディザイアの呼び名だよ。竜だったら鋼装竜だし、蟲だったら鋼装蟲」

「へー」

「なんか、かっこいいな」


 カリウス達が勝手な事を言っているのである。


「キィ」

「ワン!」


 ついてくるな!


「キィ」


 ついてくる。


「ワン! ワン!」


 吾輩はお前が嫌いである!


「キィ」


 吾輩、カリウスの足にしがみつく。


「おっ? どうしたどうした!?」


《『スキル:ウォール・グリップ』発動》

 

 そのままカリウスの腕の中で丸くなる。


「なぁぁぁぁ!? カリウス、ズルい!!」

「なんで、カリウス!?」

「今、オルグたん、自分から!?」


 吾輩、しばし眠るのである。カリウスよ、吾輩の足となりて千里を駆けるがよい。


「眠いみたいだな」

「キィキィ」

「ほらほら、バッキー。オルグちゃんはおねむなの! 騒がしくしちゃダメだよ!」

「バッキー?」

「キィ」

「ハバキリのバッキー! どう? ちょっとは親しめそうじゃない!?」

「お前なぁ……」

「なによー!」

「キィ……」


 気のせいだろうか? 少しだけ、ハバキリから感情を感じた気がする。

 気のせいかもしれぬ。吾輩、とても眠くなって来た。


 ◆


 目が覚めると、もうルベリアは目と鼻の先であった。

 

「キィ」


 吾輩、ハバキリの背中に乗せられていた。


「ワゥ!?」


 慌てて飛び降りると、ハバキリは「キィ」と鳴いた。

 やはり、気のせいだったのである。この化生には感情などない。


「ワンワン!」

「こらこら、バッキーに吠えないの!」

「ここまでおんぶしてくれてたんだぞー」

「ワンワン!!」


 とぼけた事を言うミゼラとヤザンにも吠えておく。

 ハバキリには後ろ足で砂を掛ける。エンガチョ!


「キィ」

「おいおい、オルグ。あんまり意地悪をするなよ」

「ワン!」

「うわっ!?」


 カリウスにも砂を掛けておく。

 そもそも、お前に抱っこされていた筈である。サボるなである!


「あはは。ワンちゃんご機嫌斜めだね」


 マリアが吾輩を抱っこした。ハバキリなどよりもずっと快適なのである。


「キィ」

「大丈夫だよ、バッキー。その内、ちゃんと仲良くなれるからねー」

「元気だせよ、バッキー」


 実にバカバカしい光景である。ハバキリに感情などない。人形に話掛けているようなものである。


 ◆


 最悪である。宿屋で寝ようとすると、ハバキリはジッと吾輩を見ているのである。

 

「ワン!」


 貴様も寝ろ!


「キィ」


 暖簾に腕押しである。

 吾輩、ハバキリに背中を向けて眠るのである。


「キィ……」


 まるで寂しいみたいな音を出すな。そんな事、欠片も思っていないのだろう。

 だけど、仕方ないのである。少しだけ近寄ってやるのである。


「キィ」

「ワゥ」


 吾輩は眠るのである。


「キィ」


 おやすみと言われた気がするが、気のせいであろう。


 ◆


 翌日、いよいよ中央都市へ向かって出発なのである。

 ここからは少し長旅になる為、カリウス達は市場でかなり多めの食料を買って来た。


「今更なんだけどさ。メタルディザイアって、普通に餌をあげて大丈夫なのかな?」

「え? もう、いろいろ食べさせちゃったんだけど!?」

「どうなんだろ? ちょっと聞いてみるね。もしもし、ドクター?」

『朝っぱらからどうした?』

「バッキーって、お肉とか野菜とか食べさせて大丈夫なの?」

『なんじゃ、バッキーって??』

「ドクターが寄越したメタルディザイア」

『ハバキリだからバッキーとな? まあ、ええじゃろう。餌については何でも良い。体内にあらゆる物質を原子サイズまで分解し、エネルギーに変換する機構を搭載しているのでな。わざわざ肉など与えんでも、石でもゴミでも食わせておけば良い』

「ゴミなんか食べさせたら可哀そう!!」

「バッキーをなんだと思ってるんだ!! それでも親か!?」

「このヒトデナシ!!」

『ほあ!? お主ら、一晩やそこらで気に入り過ぎじゃろ。親って……、わしはそやつを改造しただけじゃぞ』

「とにかく、バッキーにはちゃんと美味しいごはんをあげるんだからね! 他のメタルディザイアのごはんもちゃんとしたものを食べさせてよ! じゃなきゃ、次に会った時に片腕を斬り落とすから」

『えー……。ただの生体兵器なのに……』


 マリアはプリプリしながら通信を切った。

 吾輩も少々思う所がある。餌とは重要なものなのだ。

 毎食ステーキとはいかなかったが、ご主人はいつでも吾輩に美味しい餌を用意してくれた。だから、吾輩は幸福だった。

 石やゴミなど食わされたら、幸福になどなれぬ。


「ワン!」


 吾輩、ちょっと森へ向かった。


「ワンちゃん!?」

「どこ行くの!?」


 すぐそこである。匂いで見つけ出した野ウサギを狩り、戻って来る。そして、ハバキリの前に置いた。


「ワン!」


 食うのである。


「キィ?」


 美味い餌を食い、貴様も少しは幸福を知るが良い。

 吾輩、教えるのである!

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