ツッコミどころ満載ホラー『海月とカレハウオ』
お盆を過ぎると人間たちは海水浴をやめる。
海月が大量に発生するからだ。
中でもメメクラゲに刺されると腕を切断しなければならない。
九月になってもまだクソ暑いのに、それゆえに人間たちは海を恐れ、近寄らなくなった。
「フフン、いい気分」
海月はひとり、悠々と海の中を漂っていた。
他に海月はいない。
異常気象ゆえにお盆を過ぎてもみんな外へ出るのを嫌がり、家の中で引きこもっているのだ。
そんな彼を見て、話しかけてくる者があった。
「おや、こんなところにメメクラゲがいるとは思わなかった」
海月はキョロキョロし、いやプヨプヨとあたりを見回し、声の主を探した。
しかし誰もいない。浅い海底の砂の上で枯葉が一枚、ユラユラと揺れているだけだ。
「誰だ? ここは俺様の庭だぞ!」
海月がそう怒鳴ると、枯葉がユラリと動き、目を開いた。
海月はびっくりして腰を抜かした。
「ぎゃーっ!? 枯葉に目が……! メガ! メガロドン!? これ、ホラーだったの!?」
「やぁ、そう驚くなよ。俺はカレハウオ。枯葉に擬態して身を守る魚さ」
「なんだ。擬態するなんてつまり、弱いんだな? こうしてやんよ」
そう言って海月は触手を伸ばし、シビッ! っとカレハウオを攻撃した。
「効かぬわ」
カレハウオは枯葉そのものに化けた。変わり身の術だ。海月の触手は枯葉を突き破り、穴を開けた。
「ぐはっ……!?」
カレハウオは、死んだ。
「弱っ」
海月は笑った。
「やっぱり秋の海の王様はこの俺だな」
「ところでクラゲって、食べられるんですよね?」
すぐ耳の後ろでそんなべとついた声がして、海月は冷汗を浮かべて振り向いた。
するとそこにさっき仕留めたはずのカレハウオがいて、どよんとした目で自分を見つめている。
「幽霊だ! こんなに早く化けて出るなんて!」
カレハウオはおおきなその口を開いて、海月に襲いかかった。
ゼラチン質の海月の体が、食いちぎられる。
カレハウオはうっとりと、言った。
「好きなんですよ、僕。ヤマクラゲのゴマ油和えが」
「おいおい……」
カレハウオのすぐ背後から、海月の声がした。
「一体おまえ、いつから俺が鏡花海月を使っていないと錯覚していた?」
「はうっ……!?」
カレハウオが驚き振り返ると、そこにユラリと漂うかっこいい海月がいた。さっき食われたのは幻覚だったようだ。
「それにな……」
海月が卍解した。
「ヤマクラゲは茎レタスであり、我とは無関係ーッ!!」
バシュ!
海月の斬魄刀『触手』がカレハウオを斬り裂いた。
「……それに、俺はじつは海月ではない」
ニヤリと笑う海月の体が変化していく。
「流氷の妖精クリオネだよ!」
「フッ……。じつをいうと俺もカレハウオではない」
こちらも変化した。
「なにっ……!? まさか……」
クリオネがたじろぐ。
「アマゾンの猛魚、ピラニアとは俺様のことだーーッ!」
「何ーーッ!?」
「ククク……。海にカレハウオがいるとでも思ったか?」
クリオネがスマホで検索すると、ピラニアは海にはいなかった。
「聞け! 俺様たちピラニアは一頭の牛をものの2秒で骨にする!」
「怖いな!」
稲川淳二が戦慄した。
「怖いなー!」
「つまり、貴様などものの0.01秒あれば骨にできるということだ」
「凄いな!」
「その身をもって思い知れ! 血に飢えた猛魚の恐怖!」
「フッ……。クリオネを甘く見るなよ?」
さっきまでかわいかった流氷の妖精の姿が赤くなり、ツノのようなものを六本ぐらい出現させた。
「必殺! バッカルコーン!」
クリオネの捕食シーンはまるでホラーのようにおそろしい!
ピラニアーっ!
バッカルコーンっ!
平和な海中で二体のモンスターがぶつかり合ったが、べつに何も起こらなかった。
ピラニアはほんとうは牛なんて食べないし、クリオネが食べるのは特定の巻き貝だけだからである。
恥ずかしそうにうつむくふたりの側をホオジロザメが通っていった。ふたりのことなど気づいてもいなかった。
カレハウオは海の底で擬態を続けた。
「我は枯葉……。ただの枯葉……」
クリオネも海月に戻り、海の上をめざしてユラリユラユラと上っていった。
「待ってろ人間ども。メメクラゲに刺されると貴様らの腕はもげ、その体はねじ式となるのだ」
惨劇の始まりであった。




