第七十二話 話しかけずにはいられなかった。
「あっ!ちょうど、ゆか、来たよ!」
とクラスメイトの一人が言った。
「なになにどうしたの?」
「それが日下部くんが熱で今日来れないみたいで。」
「え?日下部くんが?」
これはまずい。日下部は指揮者だし、クラスのリーダーでもある。
B組に激震が走った。
唯一指揮ができそうなのは、ゆっちゃんだけど、伴奏だし…。
「ゆっちゃん。指揮者どうしよ?」
「先生はなんか言ってた?」
「職員室に先生いなくて」
「あっそうだ。さっき体育館にいたわ」
教室がざわつく。
みんなの不安と焦りが伝わってくる。
これに関しては僕は何もできない。
けど、ここまで練習してきたのを無駄にしたくはない。
やり場のないイラつきが僕の中でぐるぐると出口を探している。
「はい!!」
勢いよく細くて白い手が振り上がった。
「うちがやる!」
そう宣言したのはきららさんだった。
「ええ⁈きらら⁈できるの?」
「多分!」
「でもぶっつけ本番だよ?」
「大丈夫!」
きららさんは大丈夫の一点張りだった。
きららさんなら確かにやってしまいそうだけど、本番当日だし、と不安が勝る。
「一回今、やってみるのはどうかな?小さめで」
不安と希望が8:2で混ざり合っていた空気感の中僕は発言をした。
というか思っていることをなんとなく言ってしまった。
「え?今?でも確かに今やるしかもうできないし。そしたら、CDを伴奏代わりにしてやってみよう。」
ザワザワザワザワ
どうやらやる方向でまとまったみたいだ。
「ありがと。ナイスアシスト!」
小声できららさんが僕に言った。
なんでこんなピンチなのに彼女はキラキラしているのか僕は不思議でしょうがない。
きららさんが構えのポーズをとる。
思いの外様になっていたからか、元々そうだったかのようにみんなは足を開いた。
不思議だ。まるでジャングルの中で彼女だけにはどんな動物も従うようなそんな風に思った。
音質の悪いCD プレーヤーから曲が流れ始めた。
僕たちはひとまず一曲歌い終えた。きららさんの指揮で。
結論から言うと、完璧だった。
それは日下部には悪いけど、日下部以上だった。ように感じた。
ワーーーーーーー!!!!
B組は安堵と期待で盛り上がった。
他のクラスからすればなんの騒ぎって感じだろう。
圧倒的主人公って感じな子だと思った。
きららさんの元にクラスの女子が勢いよく集まった。
「きららさん、なんでできるの⁈」
「え?こんなこともあろうかと?」
きららさんは適当なことを言っているけど多分練習してたんだろう。
興味が湧けばなんでもやるタイプだし、それができちゃうタイプの子だ。
「さすがです。」
「まあ、どっかの公園やってる少年よりかはね」
「やっぱ、みてたんですね。まあ間違ってないですが」
「ふふーん」
得意げな顔をしたきららさん。
僕もきららさんに話しかけずにはいられなかった。
ピンチのあとは盛り上がるって言うのはお決まりで本番が楽しみになった。
そのあとは簡単なホームルームを済ませ文化祭が始まるまで待機となった。
11:00
正門からは親御さんや小学生、OBOGらしき人たちの姿がチラホラ見えた。
いよいよ、文化祭開始。
始まったものの肝心なことを忘れていた。
それは誰と文化祭を回るかだ。
合唱に気を取られていたので全く考えていなかった。
すでにクラスメイトの多くは教室を飛び出して行ってしまったみたいだ。
「お、梵いんじゃん」
そう言ってドアから顔を覗かせていたのは野球部の平井だった。
「梵ひま?」
「うん、多分暇」
「一緒にまわろーぜー」
「もちろん」
あぶねー。あのままだったらぼっち確定だった。
まじナイスだ。
どうして当たり前のようにグループ化しているのか、これは謎だ。
いつメンはどこからがいつメンなんだ。
つづく
ここまで読んでいただきありがとうございました。
今後もよろしくお願いします。




