第六十九話 だが泣かない。
文化祭前日 金曜日 昼休み
その日から文化祭まで一週間を切った校舎内はすでに文化祭ムード全開だった。
僕はパトロールという名のぼっち回避中だ。
2年生は出店と合唱コンクールで大忙し、それに加えて部活も自分たちの代のため寝る時間を惜しんで駆け回っていた。
3年生は最後の文化祭だから気合いが入っている。受験を控えつつも合唱に有志の出店と頑張っている。
1年生の僕らは合唱コンクールだけで精一杯だった。
そう考えると先輩たちはいつもよりも大きく見えた。
多分、文化祭当日はもっと大きく見えるんだろうな。
文化祭は2日間。
僕たちの一年生の合唱コンクールは1日目だ。
2日目は普通に楽しむって感じかな。
にしてもみんな楽しそうだな。
昼休みってこんなに盛り上がるもん?
姫川さんもいないし、たいくつだなー。
最近は気が付くと彼女の姿を探しているような気がする。
あれこれストーカーじゃ?
いやでも友達だからセーフ?
放課後
この日は他のクラスも最後の練習のため廊下には誰一人いない。
ただ校舎中に生徒の歌声が響き渡っている。
反響して混ざりあってもう、この世の終わりって感じだ。
「次がラスト。これで本番前の練習は最後だからしっかりやろう」
初めは嫌々やっていたくせに、もうすっかり合唱コンクールのとりこになった生徒たち。
僕もそのうちの一人ではあるが。
日下部がみんなをまとめ上げ最後の合唱練習が放課後の教室で始まった。
♪〜〜
曲が流れ始めた。練習だけど、これが最後と思うと、とても考え深い。
僕はこういうのに弱い。
感極まって泣きそうになってしまう。
だが泣かない。
♪〜〜
曲が終わった。
「はい、みんな練習お疲れ様。明日はみんなで頑張ろう!解散!」
「お疲れー」
「おつー」
「またあした〜」
「お疲れちゃん〜」
名残惜しくなる前に僕は教室を後にした。
この感動的な気持ちを抑え込んで部活へいく。
野球部はこんな日にも練習がある。
スパイクを履きグラウンドへ出る。
今はノックの時間だった。
夕暮れで打球が見にくいから集中しなければならない。
なぜならば、割と直前で打球が見え始めるからだ。
そこから反応しなければならないため、難しい。
僕は外野に加わった。
しばらくノックを受けていると文化祭の準備を終えた生徒たちがゾロゾロと僕の後ろを通っていた。
正直ギャラリーがいると集中できない。
「お願いしまーす!」
カキーン!
打球が飛んできた。
打球見えるまでに時間がかかったため判断が遅れた。
大きいフライ。この校舎の特性上一定より後ろの生徒が歩く場所はコンクリートで舗装されている。
つまり金属スパイクだと走れない、というかこけそうになって危ない。
パン!
のけぞりながらフライをキャッチしたが、走った勢いでコンクリートの方へ行ってしまった。
足元に集中して氷の上を歩くようにスピードを落とす。
バサッ!!!
誰かが僕の勢いを受け止めてくれた。
「すみません。大丈夫ですか?」
咄嗟に帽子を脱ぎ誤った。
「全然大丈夫!梵くんすごいね!逆に守られたかも」
「あ、姫川さん!怪我とかないですか?ちょっと強めにぶつかった気がして」
「平気平気!手で止めたから」
よかった怪我がなくて。
姫川さんなんか顔が赤かったような。
最後の合唱の練習で頑張りすぎたのかな?
「それより戻らなくて大丈夫?」
「あっそうですね。もどります!明日文化祭お互い頑張りましょう」
「うん!」
僕は練習に戻った。
「お前わざとだろ」
「わざとじゃないですって!」
「本当に危なかったんですから」
「生意気な一年だこと」
同ポジションの先輩にからかわれた。
結果的にはラッキーではあったけど。
つづく
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今後もよろしくお願いします。




