第六十一話 どうでも良すぎて
翌日
野球部の朝は早い。
何一つ変わらない朝が僕を迎えにきた。
今日はいつも以上に眠気が強い。
仮病で休んでしまおうか本気で考えた。
「あきー!時間大丈夫?」
母さんの呼び声が聞こえてきた。
はあ、起きるか。
ほぼ目を閉じた状態で洗面所に向かった。
パシャッ!
やや冷たい水で顔を洗った。
目がさめる。同時に昨日の出来事をやんわり思い出してきた。
やっぱりベッドに戻ろうかな。
なんて思いながらも、気がつけば弱音をどこかへしまい込みトスバッティングを無心で行っている自分がいた。
結果的に無心になれてよかったと思う。朝練に感謝。
授業が始まっても気分はなかなか晴れない。
授業の合間の休み時間には姫川さんの姿を探してしまう。
もしかしたら、ドッキリか何かでまだ話の続きがあるんじゃないかと淡い期待をしてしまう自分が何より鬱陶しい。
昼休みになり、誰とも話したい気分ではなかったので屋上に向かった。
とは言っても通常時は屋上には入れないのでただ屋上への扉の前で座っていた。
ここにいると下から色々な声と言うか叫び声のようなものが聞こえてきて面白い。
遠くから聞こえるくらいがちょうどいい。
多分キラキラした青春を目の前で見たくないんだ。特に今は…。
そうやって心を分析している自分が嫌になる。でも嫌いではない。
誰かが階段を上がってきた。
「そうやって大人ぶる必要なんてないんだぞ?」
階段の踊り場から話しかけてきたのはきららさんだった。
でたな、透視術。
「別に大人ぶってないです。」
「でもそんな顔してるぞ?」
「なんですか?その言い方」
「迷える子羊を助けに来たんだぜ?」
「そうですか。なら僕は大丈夫です。迷ってないですし、ここでぼんやりしてる好きなだけなんで」
「それならよかったぜ、それじゃーなー(なんか忘れているような?)」
きららさんは階段を降りて行った。
一体なんだったんだろうか?
それから少し経ってチャイムがなり僕は教室へ向かって歩いていた。
が重大なことを思い出した。
英語の課題を昼休み中に集め提出することを思い出した。
階段を一つ飛ばしで駆け降り廊下を突っ走った。
廊下の曲がり角、走っていた僕は急停止をした。
「お、あぶねッ!」
「すみません」
僕はぶつかりそうになり咄嗟に謝った。
英語の課題を抱えていたきららさんだった。
「廊下を突っ走ったら危ないんだぞ?あれ?黄昏中のあきじゃん」
「どこどこ中学みたいな感じで言うな。」
「ちょうどよかった。そういえばさっき言い忘れてたわ。課題出してないのあきだけだぞ?」
「肝心なこと忘れてんじゃん。ちょっと待って今取ってくるから。そこで待ってて!」
「あいよーはよーな」
僕は全速力で往復をしてなんとかきららさんに課題を渡した。
そもそも課題を全て終えていたかは一旦忘れることとした。
「間に合ってよかった。ありがとう。」
「わしは優しいからな」
「助かったわ」
「ん」
きららさんが積み重なった課題を突き出した。
「ん?」
結論から言うと課題を運ぶのを手伝わされた。と言うか僕一人で全部持っていた。
まあそれは全然いいんだけど。むしろお礼にそれくらいしたいと思っていたところだし。
「で、気は晴れたの?」
「え?」
「きみ朝からずっと変だったよ」
「そう?」
「だって消しゴム貸してって言ったら定規渡してきたし国語の授業なのに」
「え、本当?」
「うん」
「それはごめん。」
「おかげで超大作の怪獣ギガモンが修正できなかったぜ」
「うん、ならいいや」
「ギガモンはすごいんだぞ……」
教員室までの往復の間、よくわからない空想の怪獣の話を永遠にされた。
どうでも良すぎて、でもそんな会話が今一番必要だったのかもしれない。
心が軽くなった…。
つづく
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今後もよろしくお願いします。




