第五十三話 早くしないとだよ
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僕が感慨に耽っていると、フォークダンスの曲が流れ始めた。
ふと我に返った。
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先生が生徒の1人を呼び説明をしながらデモとしてフォークダンスを踊った。
男の教員と男子生徒だったので笑う学生もいれば、この後それをやらないといけない重圧で緊張している人もいた。
僕は紛れもなく後者の方だ。
一通り説明が終わり、曲が止まった。
緊張が走る。
「はーい、じゃあみんなその場で立って円を作ってください。男子は外側に女子は内側に円を作ってください。」
ランダムだった。しかも確定で男女ペア。
円ということはある程度、誰が誰と組んでいるのかわかるということ。僕の脳裏にはさきちゃが他の人と組んでしまう不安がよぎった。別にそれ自体は起こりうることなのだが気が気ではなかった。
ダンスの最後は3か4週目。真反対まで辿りつのか…。
そうこうしているうちに「オクラホマミキサー」が始まった…。
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恥ずかしさを押し殺し、話したこともない女子と手を繋いだ。
あまりにもぎこちない。
「あ、あのよろしくお願いします。」
「よろしく…」
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こんなの誰でもドキドキするって。
相手の手汗なのか自分のものなのかわからないが、とにかく滑る。
僕は自分の踊りで手一杯だった。
周りもそうに違いない。
そう思えば思うほどさきちゃのことが頭に浮かびいてもたってもいられない。
この音楽に苛立ちすら感じる。
次の組み合わせが気になってしょうがない。
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「痛ッ」
「あ、ごめんなさい」
「大丈夫」
集中していないせいか足を踏んでしまった。
1週目が終わった。
目を合わせて挨拶をするのだが、恥ずかしがって目を合わせられないペアばかりだった。
僕自身も全く合わせられなかった内の1人だ。
そのまま間奏の間は円に沿って回り続ける。
曲のちょうどいいタイミングに合わせて次のペアが決定する。
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次のペアは…。
瀬川さんだった。
「あ、よろしくお願いします」
「うん、よろしくね」
よかった。知ってる人で。まだ緊張は和らいだ。
曲に合わせながら僕たちは踊っていたがさきちゃがどこにいるのか気になってずっと探していた。
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「さき、あそこにいるよ」
「え?」
「探してるんでしょ?」
「え、いや探してないです…」
咄嗟にバレバレな嘘をついてしまった。
やっぱり瀬川さんはなんでも知っている。
踊りながら会話を重ねた。
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「早くしないとだよ…」
「何が…ですか?」
含みを感じる言い方だった。
「さあ」
「?」
曖昧に答えた彼女の表情は回答とは裏腹に真面目な顔をしていた。
ちょうどここで2週目が終わった。
目を合わせ挨拶をする。
「さっきのはどういう…」
「…。」
瀬川さんは何も答えなかった。
3週目だ。もしかしたら最後になるかもしれない。
焦りとともに祈っていった。
円を回る。
足が止まった。
隣を見ると渡辺だった。
この時より死んだ目をしたことはないと思う。
人数の関係で男子ペアが生まれることになっており、まさかの渡辺だった。
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「梵かよ」
「…。」
「おい、無視かよ」
「あ、ごめん」
僕は焦りなのか、今は渡辺のうるさい会話に何も答えなかった。
頭が真っ白になった。もしかしてこのまま…。
あっという間に3週目が終わった。
間奏は流れなかった。
これで終わり?なのか?
僕は絶望をした。最後がよりにもよって男ってこんなのはあんまりだと…。
つづく
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今後もよろしくお願い致します。




