第四十一話 メガネっていいな。僕もつけてみようかな。視力2.0だけど。
「あのー、曲の最後ってどうやってわかるんですか?」
「お前さては狙ってる子でもいんのか?」
先輩が野球帽越しに頭をぐりぐりしてくる。
「いえ、気になっただけです」
「うーん確か俺は4人くらいと踊ったから4週目とかかな?」
「そうだっけ?俺は3人だった気がしたけど」
とにかく、3人か4人目というところまでは絞れた。
「ありがとうございます。」
「おう、頑張れよ」
「あ、はい」
先輩たちは僕と別れた後、僕が誰かに告白するしないでニヤニヤと話しているに違いない。
別にいいんだけど。多分そんな勇気ないし。というかフォークダンスか。
あんまり想像つかないな。手とか繋ぐのかな。
なんかもう今から緊張してきた。
それから2週間が経ち、移動教室前日の夜。
僕は荷物のパッキングで忙しかった。
直前になってあれがないとか、これがないとかでお大騒ぎし母さんが呆れながらも手伝ってくれていた。
「体操着どこ?」
「えー見てないけど。」
「洗濯カゴに入れたはずなんだけど」
「あ、まだ洗ってないとか?」
僕は未洗濯の衣類が入った洗濯カゴを漁ると体操着が出てきた。
やらかしだ。明日までに洗わないといけない。
「あった。けどこれ洗わないとじゃん」
「洗ったしても乾かないよ?天気悪いし」
「えーじゃあどうすんのさー」
「コインランドリー行って来なよ、乾燥機あるし」
「行ってくる」
母さんから渡された400円を手にして大きなドラム型乾燥機があるコインランドリーに走った。ついでにシーツとか色々持たされ結構な荷物だった。手に抱えると僕の顔ぐらいまであって前が見づらい。
コインランドリーに着いたのはいいけど、ドアが自動ではなく引扉だったので開けられない。
荷物を置きたいけど雨のせいでぐちょぐちょで置けない。
片手で荷物を持ち、壁に荷物を押し付けながら、もう一方の手で開けようと頑張っていると
急にドアが軽くなり、ランドリーの中に入れた。
「あ、ありがとうございます。」
誰かがドアを押さえてくれたらしく、荷物を置きお礼を言おうと顔をあげると
グレーの緩めのスウェットに大きめのクマのイラストが書かれた白Tシャツの女の子。
黒縁の大きめの伊達メガネ?のようなものをつけていて大人っぽい。
「こんばんわ」
「え?」
なんか、奇遇にもあった友達みたいな反応。
パッと見で誰かわからなかったので困惑した。
「えーと、ごめんなさい。どなたですか?」
「わかりませんか?」
きららさんぽいけど、にしては綺麗系すぎる?
なんか口調も丁寧だし、真面目そうな感じだし。
「違うかもなのですが、き、ら、らさん?ですか?」
「はい、きららでーす!キラッ☆!」
キラッと言って目元で横ピースをした。
あっ確定だ。きららさんだ。
「なんだ、きららさんだったんですね」
「なんだとはなんだ、梵少年。君は誰だと思っていたんだい?」
「だって雰囲気がいつもと違ってたから」
「そうでしょう!綺麗なお姉さんですわ。」
「でこんなところで何してるんですか?」
「ツッコミなさいよ。洗濯以外ある?」
「そりゃそうか」
「コインランドリー使ってるんだ」
「あーうち母子家庭で洗濯機とか置くところないタイプの家だし」
「そうなんですね……。勝手に聞いちゃってごめんなさッ」
「あーあー気にしないで。それを言い訳にするような人生を生きてないから、私は」
その言葉からそれ以上返せなかった。
なんか思いがけないところから地雷を踏んでしまったのかもしれない。
沈黙が生まれた。
大型の洗濯機が回る音の中にカラカラと金属部分の音が混じっていて、耳障りだ。
ピーピーピー。
洗濯機から終了を知らせる音が聞こえる。
きららさんは立ち上がった。
「じゃ、終わったから先行くね、バイバイ」
「あ、バイバイ」
「バナナはおやつには含まれないからね?いいかい梵少年」
「はいはい〜」
と僕は小さく手を振ったが、なんて言えばよかったか迷っているうちに彼女は行ってしまった。
それにしても、オフな感じが女優のオフ日みたいな感じで僕の目にはとても新鮮に映った。
メガネっていいな。僕もつけてみようかな。視力2.0だけど。
つづく
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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