第三話 普通だろ、いや普通じゃないよ、普通だよ。
木曜日の朝練が終わった。
それは僕にとっては意味のあること。
それはそう姫川さんに体操着を返してもらうからだ。
この日のトスは本当に適当だったと思う。無心で投げていたため、内角にばっかトスを放り込んでいた。おそらく詰まった打球ばかりで不快だったと思う。
先輩には申し訳ないと思った。
早めに着替えを済ませソワソワしながら教室を歩き回る。
コンコン。
姫川さんが来た。
気を利かせてくれて、ドアの窓から見えないようにノックをした。
ノールックノックだ。なんて一人でくだらないことを考える。
「着替え終わった?」
「あ、はい、終わりました。入っても大丈夫です。」
ガラガラガラ。
姫川さんが入ってきた。
「おはよ。朝練おつかれ」
「おはようございます。ありがとうございます。」
「体操着ありがとね。助かった。ちゃんと洗濯してあるから安心して!」
そういって体操着を受け取る。
「梵くんてラインやってる?」
「一応やってます。」
「友達追加してもいい?」
「あ、はい」
カバンからiPod touchを取り出そうとする。
ガラガラガラ
今泉ゆかが入ってきた。
「お、さきじゃん。何してんの?」
「あ、ゆかち!おはよ。月曜ゆかちの体操着なかったから他の人に借りたんだ。」
「ごめんーー。普通に持って帰ってたの忘れてた。」
「気にしないで。うちは借りる身なんだし」
「昨日の『私の恋』みた?やばくね?急展開すぎて」
「いや、ほんとそれ。次回気になりすぎて勉強どころじゃない。」
「来週からテスト期間なのにやばいわ」
二人の会話が盛り上がる。僕は話に入る隙がないので席につき、iPod touchで何かを検索するふりをしている。
そうこうしていると他の生徒もちらほらき始める。
「うち、そろそろ戻るわ」
「うん、じゃねー」
姫川さんが自分のクラスに戻ろうと教室の後ろのドアに向かって歩く。
「これ僕のラインです。」
と心の中で叫ぶ。
姫川さんともっと話したかったことと、ラインを交換したかったこと、いろんなことが頭を混乱させる。何より今後話す接点がないのではないかというのが一番の不安だった。
今の僕はデバフ状態だ。全てのことにやる気が起きない。
今日も元気に僕を馬鹿にしている園口たちのことなんか気にも止まらない。
3限目国語。
そうえば、僕は姫川さんに体操着を貸した。
そう、貸した。
貸したということは、姫川さんが着たということ。
それを僕がこれから着るということ。
これは緊急事態だ。緊張で心臓が痛い。
いや待てよ。洗濯済みだ。これで一安心。
そもそも男子中学生なんだ、こんなこと考えてても
普通だろ、いや普通じゃないよ、普通だよ。
そんな思考を授業中永遠にやっていた。そう永遠に。
結局、体育は天候が急に悪くなり保健になった。
僕の心の葛藤を返してほしい。
放課後
部活が終わり裏口を出る。僕の視線は姫川さんを無意識に探していた。
しかし、別館のエントランスにはバレー部や水泳部だけでバスケ部はまだみたいだ。
大人しくトボトボ帰る。
就寝前、今日あったことをなんとなく頭の中で整理しながら、うとうとしていた。
ピロロン。
ラインがなった。ぼんやりと薄目でラインを見ると、姫川の文字が見えた。
僕は文字通り飛び起きた。
つづく
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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