第二十八話 瞳に映る花火が美しかったのか、そうじゃないのか僕にはわからない。
「先行ってて!ちょっと!」
その言葉を聞いてから返事をするまもなく、今泉さんは人混みに消えていった。
ただ、先に行っててと聞こえたのは確かだったから姫川さんと僕は会場にひと足先に向かった。
日下部のいるところに到着した。その頃には姫川さんは僕から手を離していた。
それはそうだよな。
「はあはあ…。ごめん遅くなった。」
「すごい人だね!良かった間に合って、あれ今泉さんは?」
「なんか先行っていてって、途中ではぐれちゃった。」
「大丈夫かな?」
「まあ今泉さんだし大丈夫だとは思うけど…」
なんとなく逸れた時の今泉さんの顔を思い出した。
ヒューーーー
ドンドン!!
花火大会が始まった。
花火の音が心臓の鼓動を高める。
みんなの目はキラキラと輝いている。
みんなは何を考えながら見ているのかな。
花火を誰かと観られることがこんなにも嬉しいとは思わなかった。
姫川さんが隣にいる。
花火の重低音が心に響くたびに告白しそうになる自分を抑えていた。
花火が続く。
・・・・・・・・・・。
体が足が勝手に動いた。
僕は走っている。
まただ、スローにだった。
祭りゆく人たちの中を駆け抜けてきた。
気づいた時には僕は花火を背に膝に手をつき、息を切らしていた。
「はあ、はあ、はあ、はあ…。」
「・・・・・・・・・・・・」
祭りから花火会場までの途中にある小さな公園のベンチに今泉さんは座っていた。
僕が今まで見た中で一番か弱そうで小さく見えた。
呼吸が落ち着いてきた僕はゆっくりと顔をあげた。
「花火始まってるぞ?」
「ごめん」
今泉さんはさっきまで残念そうな顔をしていたが、泣きそうな顔になりつつある。
暗くてあんまりわからないけど、僕にはそう見えた。
彼女は手に鼻緒がとれた下駄を持っていた。
「下駄が壊れちゃって」
作り笑いをしながら彼女は説明した。
僕はたまに鋭い推理ができることがある。
「ん」
僕は彼女の前で片膝をつき、そこに足を乗せるように促した。
「別に大したことないから大丈夫」
「早く最初が大事だから」
僕はそう言って彼女の足を優しく膝の上に乗せた。
持っていた長細めのタオルで足首を固定するように縛った。
その時彼女は痛みを堪えようと唇を強く噛み締めていた。
「はいこれで一旦大丈夫なはず。」
「ありがと」
怪我した時くらいは誰でも素直になるよな。
「いつもそんくらいだったらヵゎいいのにな」
僕は、かとわ、を濁す形で言った。
「なに?聞こえなかった。」
「だからいつもそんくらいの方がいいなーって言った」
「違う」
「違くないあってる」
「最後が違う」
「違くない」
・・・・
軽く言い合いになっていつの間にか、いつもの今泉さんに戻っていた。
少し安心した。
一応、花火はここからでも木の間から見えた。
おそらく最後の花火らしき大きいのが上がった。
それと同時に僕らは言い合いをやめ、花火を見つめた。
ヒューーーー
ドン!
一段と大きい重低音がなる。
僕は不思議と花火ではなく今泉さんの顔を見ていた。
花火の鮮やかな光が顔に反射し、瞳には花火の紋様が映っている。
美しかった。
これは僕の夏休みで一番印象に残ったと思う。
瞳に映る花火が美しかったのか、そうじゃないのか僕にはわからない。
「終わっちゃったね」
「うん」
・・・・・・・・・・。
うんで会話は途切れ、しばらく沈黙が続いた。
別に気まずくはなかった。
お互い花火の余韻に浸っていたのかもしれない。
「戻ろっか」
「戻ろっか」
同時に喋った。
「ハモンな、キモい」
「ゆっちゃんこそ真似すんな、先まで泣きそうだったくせに」
「泣いてねーし、そっちこそ、いちいち照れんな。気まずくなるわ」
「別に照れてねーし」
「かわいいくらい言えるようになりなよ」
「言えるし」
「じゃあ言ってみて」
「言えって言われて言うもんじゃないから」
「お子ちゃまだな、梵ぼっちゃんは」
すぐにこうなる。
僕たちは思いの外、体力を消耗した。
「疲れたな」
「うん疲れた」
「戻るか」
「うん」
つづく
ここまで読んでいただきありがとうございます。
花火が上がっている時っていろんなことを考えますよね。
今後もよろしくお願いします。




