第十五話 確かにこのテンポ感は楽しい。
「あっ、さきたちじゃん!」
姫川さんたちじゃないで欲しかったけど、確定してしまった。
できれば迂回したいと思った。
「おーい!さきー!」
時すでに遅し。
「お!ゆかち!おつおつ!」
「お疲れ!」
「優勝おめでとう!」
「ありがとう!」
僕は下を向き、ナマケモノくらいの速度で歩いて時間を稼いでいた。
「あれ、梵くんもいんじゃん!」
うん速攻でバレた。
「あ、お疲れ様です。」
他人行儀な挨拶をした。
女子5人に僕1人は居ずらすぎる。しかもあんま知らない人たちばっかり。姫川さんもいるし、帰りたい。
「今日の梵は流石にかっこ良かったね!」
「うちの梵を舐めてもらっては困ります!」
「ゆかちの所有物か!」
今泉さんの後ろに身を潜めながら、話題が早く変わってくれるのを僕は願う。
「この後、ファミレス行くけど、ゆかちも来る?」
「あーどうしようかな。弟の面倒もあるんだよね。」
「ゆかちの弟まだ小さいもんね。」
「うん、また誘って!」
「あいよー」
「じゃあねーゆかちー」
「うん、またね!」
弟は僕が初めて見た時は赤ちゃんだった気がする。元気かな?
その後は姫川さんたちとはすぐに別れ、今泉さんと帰ることになった。
姫川さんとは一言も喋れなかった。
「さきと喋りたかった?」
「いや、別に」
「ふーーん」
今泉さんは見通してるように心を読まれる。
その後も昔話をしながら僕の家の前に着いた。
「じゃ、また来週。」
「うん、お疲れ。今日、ほんとよかったよ。ありがと。」
「今泉さんもね。」
その後すぐ僕は家に入った。
綺麗にバイバイしたはずだが、不満があるというか何か言いたげな顔をしていた気がしたけど気のせいかな。
家に帰ると夕飯のいい匂いがしてきた。
お腹が空きすぎてお腹が痛い。
「ただいまー」
「おかえりなさい。今日すごかったじゃん!」
「まあね!魅せてやったぜ!」
まあ家ではこんな感じではある。というかこれが多分素なんだろう。
「先にお風呂入ってきなさい」
「ご飯もうすぐできるから」
「腹減ったー。無限の彼方まで行ってくるー」
バシャン。
風呂に浸かる。
日焼けで肌がヒリヒリする。
いやー今日は本当にいろんな意味で良かったな。
僕は今日のことを少し脚色しながら思い返していた。
今日一日が濃すぎて色々思い出していたら、のぼせそうになった。軽く冷水で体を流し風呂場を出た。
あぶない、あぶない。本当に無限の彼方に行くところだった。
夕飯は僕の活躍話でもちきりだった。
まるで英雄になった気分だ。
夕飯の唐揚げと白米が美味しすぎて、もはや話どころではなかったが。
自分の部屋に戻り、僕は撃たれたようにベッドに倒れる。
「あーーーーーー」
疲れた。これは速攻で寝るやつだわ。
「・・・・・・・・」
そのまま本当に寝てしまったらしい。
電気がつけっぱなしだったから23時ごろに起きた。
歯を磨きに行く。磨きながらiPod Touchを開くとラインがだいぶ溜まっていた。
クラスのラインが盛り上がっている。
お疲れラインって感じか。
僕もテンプレだが送った。
梵 あきのB組グループライン
梵 「お疲れ様です。今日はみんなで勝てて良かったです。」
クラスラインに送るのは初日以来かもしれない。
部屋に戻り電気を消す。
ピロロン。
ラインが鳴る。
通知は姫川さんからだった。
梵 あきのライン
姫川「お疲れ様!優勝おめでとう!」
「今日すごかったね!他クラスだけどリレーの後のB組見てたらすごい感動した。」
「さっき伝えられなかったからラインしちゃった。D組は負けちゃったけどね笑」
僕はこのラインの熱量を覚ましたくなかったからすぐに返した。
梵 あきのライン
梵 「ありがとう!」
「姫川さんたちのD組の応援すごかった!」
「自分も他クラスだけどめちゃくちゃ盛り上がっちゃいました!」
姫川「何か恥ずい笑笑」
「あと障害物競争ありがとね!」
梵 「力になれて良かったです!」
姫川「今日はお互い疲れてると思うし、もう寝るね!」
梵 「確かに疲れた笑」
「おやすみなさい」
姫川「おやすみー」
ラインが終わった。
なんで女子はラインにあんなにも夢中なのかと不思議だったが、今理解した。
確かにこのテンポ感は楽しい。
読み返すと何か敬語だったり、そうじゃなかったりで、きもいな。
まあ、総じて今日は良かった。
久々にこんな明るい気持ちになった気がした。
無限の彼方まで就寝
つづく
ここまで読んでいただきありあとうございます。
物語はこれから夏休みに突入します。
今後もよろしくお願いします。