第十話 僕は今青春の中にいたはず、いたよな?、いたと言ってくれ。
青春傍観者か。いいネーミングだな、我ながら。
額に手を当て、青空を見上げながらボソっと呟く。
「空、青すぎんだろ。」
目を閉じるとなんか涼しく感じるような、そうでもないような。
「―くん!!―くん!!」
誰かが名前を叫んでいる。
今度は一体誰を連れていくんだ。
「呼んでるよ?」
後ろの石山が教えてくれてやっと自分の名前が呼ばれていることに気付いた。
バッ!
椅子を後ろに傾け、背もたれに寄りかかった体勢から一気に前のめりになる。
たまに死にそうなるあの体勢だ。
あたりを見渡す。
「梵くん!」
目が合った。暑さのせいか顔を真っ赤に熱らした姫川さん。
「姫川さ、」
「いくよ!」
姫川さんの名前を言う前に僕は手を引っ張られ、気付いた時には校庭の真ん中を走っていた。姫川さんに手首を握られたまま。
お互いの汗で滑るから、かなり強く握られている。
冷静に分析している自分に驚いた。
「ごめん、また借りちゃったね」
「いつでもお貸します。」
今度は本体だけどなと思いながらカッコつけた。
周りの景色がいい感じにボケていて、自分たち以外がスローモーションになっていると僕は感じた。いや絶対そうに違いない。
足が止まる。目の前にロープがある。
今は障害物競走で二人三脚をしなければならない。
「うちが結ぶね!」
「あ、はい」
目があう。
この距離で姫川さんがいることをやっと認識したのかもしれない。
冷静に分析してたんじゃない。僕は妄想の中にいただけだ。
心臓の鼓動がドンドン加速していく。
みんなに見られている。やばい、やばい。もはや発作に近い。
「1,2の掛け声で行くよ、せーのっ!」
「は、い」
「1,2,1,2,1,2,1,2,1,2……。」
僕たちは次の走者にバトンを渡すまで突っ走った。
勢い任せだったが何とかクリア。
声が出ないほど、喉がカラッカラッになった。
きっと暑さのせいだけじゃないだろう。
木陰に移動する。
「いやーいきなりごめんね。」
「いえ、ははは」
「お題見て君だ!って思って。」
「お題はなんだったんですか?」
「お題はね…んー秘密で」
「ええ!秘密?教えてくださいよ!」
「そんなに気になる?」
「気にならなくもないというか。でも選んでくれて嬉しかった。…です。」
「そっか!あと敬語じゃなくていいのに、友達なんだし」
「そ、そうだね。」
「うん、じゃまた後で」
僕は今青春の中にいたはず、いたよな?、いたと言ってくれ。
疲労と回復が同時に行われてるような時間だった。
急に心拍数が上がったからかどっと疲れた。
これで午前中は終了。
リレーまでは温存というわけだ。
お昼休憩中
自然とクラスみんなで一緒に食べていた。
僕はだいたいいつも一人で食べていたのでなんかうれしかった。
別に自分が何か発言するわけではないけれど。
リレーの話や午前の競技の話で盛り上がっている。
「あとはリレーだね。」
「そうだね。勝てれば、学年一位だし。楽しみだね。」
「男子の騎馬戦面白かったね。」
「渡辺がすごかった。」
「それな!でも作戦と全然違ったらしい。」
「渡辺らしい、ははは」
お昼休憩が終わり僕たちは再び暑い外へ出る。
午後の一発目は応援合戦だ。
つづく
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
お祭りごとって燃えません?
つい熱くなっちゃうんですよね。
今後も何卒よろしくお願いします。