第一話 これって恋なのかな、いや恋じゃない、いやもう恋でいいだろ。
はじめまして。右も左も分からない初心者・しらたまです。
2chのスレッドを読んでいる気分で気軽に読んでいただければと思います。
中学校 入学初日
「1年B組の梵 あきです。部活は野球部に入りたいと思っています。よろしくお願いします。」
拍手が鳴り響く。
昨日、一生懸命脳内リハーサルしたクラスのみんなが笑うような文章はどこに行ったのか。
なんの変哲もない自己紹介をしてしまった。
つまらない奴だと思われていないか不安だ。
大人になったらもっと上手く自己紹介できるのだろうか?
そんなことを思いながら僕の入学初日は終わった。
僕は地元の公立中学に進学した。近くの小学校からいろんな人が集まってきて、なんだかオールスター集結みたいな気分だった。僕は野球をやっていたから、かつての敵チームも今度は仲間だと思うと胸が熱くなった。
入学して1か月くらいが経った。
ゴールデンウィークも終わり、暑さが増した。
季節の変わり目はまるでスイッチのように変わる。
こんなにも暑いのに教室のエアコンは6月からじゃないと使用できないらしい。
大人の融通の利かなさには困ったものだと少し大人ぶってみた。
僕は張り切りすぎているくらい勉強に部活と頑張っていたつもりだった。
部活では1年生のため、野球っぽいことはできていないが雑用をしっかりこなし、自主練の素振りとフォームチェックは毎日欠かしていない。
勉強も小学校の時は苦手だった。というよりしたくないが常に勝っていた。
でも中学からの勉強は人生で取り返しがつかないくらい重要だと親に脅されたため、必死に食らいついた。
とある日の昼休み、校庭でサッカーをしていると、
「あいつ、いらねーよ」
「来んなよ、ポン…」
そんな声が聞こえてきた。誰に言っているのかも、なんのために言っているのかもわからなかった。でも、ほぼ毎日のように言っている。どうやら「ポンパ」とかいう奴に言っているらしい。もちろんポンパなんて生徒はいない。
家に帰った僕はiPod touchで「ポンパ」を検索してみた。
どうやらモンゴルのサッカー選手らしい。クルクルした、くせ毛が特徴的だ。
そして、もうひとつわかった。
ポンパは僕に似ていて、僕はグループにとって“いらない存在”かもしれないということ。
正直、全く理解が追いつかなかった。僕が一体何をしたのか、教えて欲しいくらいだ。
次の日から僕は昼休みに外へ行くのをやめた。それで解決するならそれでいい。
別の友達もいるしとそう思っていた。
昼休みが終わる頃、僕は石山に声をかけた。
「次、美術だよね。先いこーぜ」
そのとき、教室の端から園口が飛んできた。
「おい、石山一緒に行くぞ」
園口を中心としたサッカー部の連中が、石山を半ば強引に連れて行った。別にその時は何とも思わなかった。
それから一週間、同じようなことが続いた。結果、僕は完全に孤立していった。誰かに話しかけようとすると、すぐにサッカー部の連中が現れて、僕の会話をかき消した。
結局、昼休みに邪魔なのではなく、ただ僕を仲間外れにしたいらしい。
それから、僕に対するあたりはエスカレートした。
有名な曲を替え歌にしてポンパをねじ込み、サッカー部の連中が大合唱をしている。
他の人から見れば、ただ馬鹿な男子が騒いでいるようにしか見えないだろう。でも僕にはわかる。あれは僕にだけ刺さる悪口だ。耳が憎い。完全に塞げるなら塞いでしまいたい。
僕はすっかり無口で静かな人間になった。
僕はぼっちだ。
唯一の救いは野球だった。強豪校で、鬼監督がしごきまくる練習は、他の生徒にとっては地獄だったかもしれない。でも僕にとっては唯一、頭の中を無にできる時間だった。
この日は雨だった。雨の日でも野球部は鍛錬を欠かさない。
むしろ、走り込みや筋トレばかりで普段よりもきつい。
6月初旬の室内トレーニンングは湿気がひどく、汗が気持ち悪い感じに止まらない。
一番大変なのは階段ダッシュだ。
僕の学校は地下2階から3階まであるため、実質5階分の往復なのだ。
水分補給が指示された。野球部は統率が異常に高く、水分補給も同じタイミングでないと行えない。
すぐ近くの1階の冷水機は先輩が独占している。時間的に一口程度しか飲めないと思った僕は階段を駆け下り地下一階の冷水機で水をガブ飲みしていた。
「めっちゃ、ガブのみしてんじゃん」
「え、あ、ごめ・・・。」
声をかけて来たのはD組バスケ部の姫川さき。
白い体操着を肩が見えるくらいまでまくり、下はだぼだぼのバスケパンツ。
体操着をまくる女の子は陽キャだけだと僕は勝手に思い込んでいる。
服が大きいのもあり手足がとても細く見える。
話したことはないし、名前もすぐには出せなかった。
僕が冷水機のペダルから足を外すと
「好きなだけ飲みなよ」
「え、うん」
情報整理ができていないがまだまだ水分が必要ということが頭にあって、飲んでいいといわれたからそのままひたすら飲んだ。多分頭が働いていない。
「ふふっ」
飲み終わって姫川さんのほうを振り返ると彼女は微笑んでいた。
馬鹿にされているのかなと思った。
「ん、何ですか?」
「顔びちょびちょ」
顔がお風呂上りくらいびちょびちょだった。多分すごい飲み方をしていたのか汗なのかはわからない。
少し恥ずかしくなった僕は慌てて服の袖で顔を拭いた。
ここで初めて一瞬だが姫川さんの顔を見た、すぐに視線を別のところへ逸らしたが。
「・・じゃあ、もどります。」
気まずい謎の時間が生まれる前に僕は話を切り上げた。
背を向け走り出したとき、彼女言った。
「がんばってー」
他人事のようなゆるーいトーンで彼女は言ったのに、自分でもわからない不思議な感覚に一瞬陥った。
振り返ろうか、なんかヒトコト言おうかと考えていたら、つまずきそうになった。
無理やりステップを踏んでごまかした。実際、誤魔化せたかはわからないけど転んではいない。
もし転んでいたらあまりにもダサいと一人変な汗をかいた。
カッコつけようとするのは良くないと自分に言い聞かせた。
練習が終わり校舎の裏口の門から出た。
地下の体育館は別館とつながっている。体育館から出るときは別館エントランスから出たほうが楽だ。体育館を使用する部活の生徒はみんなここから出てくる。
「いやー走りすぎたー。明日1限から体育だるー」
「それなー。てか明日1限体育あんの?」
「そうだよ。木曜のB組の体育と入れ替わったんだってよ」
「きいてねーし」
「ホームルームで藤井が言ってたろ」
「えーそうだっけ? 藤井先生の話長いから全部聞いてられないよー。今日体操着使っちゃったじゃんー。おわったー」
「あきらめはや、B組の子に借りれば?置いてまましてる人いるっしょ」
「あ、それ天才!B組のゆかに聞いてみよ!」
女子バスケ部の集団がざわざわしながら別館のエントランスから出てくる。
遠くてあまり見えなかったが僕は姫川さんの姿をなんとなく探した。
あんまりじろじろ見ているのも不自然だったのですぐに帰った。
風呂の鏡でびちょびちょの自分の顔をみて、姫川さんのことを思い出し心がザワザワした。
ベットで横になる。天井見ながら、1日を振り返るのが日課だったりする。
なんか姫川さんの顔が頭から離れない。
寝たいのにザワザワする自分の心臓がどうしようもないくらいにモヤモヤする。
「これって恋なのかな、いや恋じゃない、いやもう恋でいいだろ。」
心の中の三人の僕がせめぎ合っているうちに僕は寝ていた。
つづく
ここまで、読んでいただきありがとうございます!
今後も続きを書きたいと思います。
よろしくお願い致します。