表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/11

002_男の体は難易度ハードなのですわ

 朝。


 クラリーチェは、鶏の声で目を覚ました。

 わらに布をかけただけのベッドの上で、ぼんやりと自分の手を見ていた。

 見慣れぬ、骨張ったゴツい手。


クラリーチェ「やはり、夢ではありませんのね……」


 身体のどこもかしこもが硬い。しかも、やたら重たい。

 そして毎朝のように、知らない生理現象が……


クラリーチェ「品性は、どこに……」


 いや、この話はやめよう。


 男の身体に生まれ変わったあの後、あてどなく川辺をさまよっていたクラリーチェは、小さな村の村民に保護された。

 裸足でふらふらと歩くクラリーチェを行き倒れだと思ったのだろう。手厚く看護された。

 ……本当は30分ほど歩いて、体力を使い果たしただけなのだが。


 この小さな村は、行く当てのないクラリーチェを快く受け入れてくれた。

 もちろんここでは侯爵令嬢クラリーチェではいられない。

 一人の青年クラリオとして、村の様々な仕事を手伝っている。


********


クラリーチェ「水くみ……お安いご用ですわ。

 このクラリー……んんっ……クラリオにお任せあれ。


 ……これが、井戸?

 このひもは何かしら?


 まあ、この中に水があるということね。ちょっと手を伸ばせば届くでしょう。

 あら?もっと深いのかしら……」


 ぼちゃん。


 井戸の底に落下したクラリーチェを、村の男衆総出で救出にあたる騒ぎになってしまった。


********


クラリーチェ「畑仕事ですか?やったことはございませんが、完璧にこなして見せますわ。


 これが、クワというものなのですね。

 見た目より、軽いものですわね。

 ……いえ、これはきっと、この男の体だからそう感じるのね……」


 5分後。


クラリーチェ「ふう。よく働きましたわ。そろそろ終わりかしら。

 ……え?夕暮れまでやる?おほほご冗談を。先ほど昼食をいただいたばかりで……

 え?冗談じゃない?

 ……おほほほ……」


********


クラリーチェ「体から、獣のような香りが……


 おふろ……?お風呂?!

 良かったですわ。その風習をご存じでしたのね!

 わたくし、てっきりこの村の方はご存じないのかと……


 キャ!なんで皆さんでお脱ぎになって?え?みんなで入る……?

 いえ、いいえ!やめて!わたくしは脱ぎません!」


クラリーチェ「おトイレを、立ったままで……?なにをおっしゃってるの?

 いや、良いです、実践してくれなくて、ちょっと……

 ギャー!」


********


 クラリーチェは村では変わった青年と認識されていた。

 だからこそ、より一層大事にされていると、クラリーチェも感じていた。


クラリーチェ「おそらく、隠しきれぬ気品を感じるのでしょう……


 男の体も、村の生活も分からないことだらけですが、都会の箱入り娘だからと大目に見て下さっているのだわ……」


(村人A「なんぞあの人、けったいな人やんな」

 村人B「なんでも、トイレも風呂もない、すんげえ田舎で育ったらしいずら」)


 ふう、とため息をつく。


クラリーチェ「少し……少しだけ、慣れてきましたわ。

 男の体にも……この村の生活にも……」


 みな、親切にしてくれる。

 かしずいて世話を焼いてくれるわけではない。うやうやしく差し出してくれるわけでもない。

 肩をたたいて一緒に働き、自らの食料を分け、投げ渡してくれる。


 貴族の時とは違うが、この村での生活も、悪くはな……


村人A「聞いたベ?なんぞ男爵様が養子を探して男を集めてるって……」


クラリーチェ「行きます!」


 思わず、食い気味に声が出てしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ