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第3話『俺は|火野坂琉生《ひのさか るい》だ』

風香さんに頂いたパソコンを開き、先ほど風間さんが言っていたエレメンタルというアイドルグループについて調べる。


エレメンタル。


それは四人組の男性アイドルユニットの名称である。


ユニット名の由来は四大精霊から来ており、それぞれ四人の名前には四大元素の名前が含まれている。


リーダーの水谷心奏(みずたに かなで)、メンバーの風間理仁(かざま りひと)土屋海斗(つちや かいと)火野坂琉生(ひのさか るい)である。


人気は非常に高く国内男性アイドルグループとしては最高峰のグループであるといえるだろう。


ただし、彼らはその優れた容姿やパフォーマンス以外にも世間からよく注目されており、その原因はメンバーがちょくちょく問題行動を起こしている事だ。


メンバーの一人、風間理仁は女性関係のスキャンダルを起こす事が多く、芸能人、一般人とあらゆる人間と問題を起こしている。


そして、土屋海斗は賭博関係のスキャンダルを起こす事が多く、現在、起こしているスキャンダルは一応全て犯罪にはなっていないが、かなり危うい人間といえるだろう。


最後に、火野坂琉生だが、彼は前に挙げた二人に比べれば表立った問題行動を起こしていないが、ファンを蔑ろにした発言や、掲示板への書き込み疑惑等でスキャンダルを起こしている。


「なるほど……派手な人達なんだなぁ」


私はネットの記事を読みながら大きく頷いた。


まぁ、知ったからといってなんて事もない。


いや、何てこともないという事もないか。


流石はオーナーと風香さんの店だ。こんな有名人も来るのだから。


と、他人事ながら誇らしくなってしまう。


そして、私はそろそろお昼の準備をしようかなと思い立ち上がろうとした時、玄関からチャイムが鳴った。


お客さんである。


この家にお客さんとは珍しい。来るのは風香さんくらいのものだが、風香さんは既に居るし。


もしかしたらオーナーかもしれないと、私は急いで玄関へと向かった。


お爺ちゃんの様に穏やかに笑っているオーナーが玄関の向こうに立っていると思い、私は勢いよく扉を開いたのだが。


そこにいたのは知らない男の人だった。


「ここに風間理仁が居ますよね?」


「……えっと、どちら様でしょうか」


「俺は水谷心奏です」


「水谷さん。風間さんとはどの様なご関係で?」


「同じアイドルグループの人間ですよ。というか、エレメンタルの事知らないんですね。理仁がファン以外に手を出すなんて」


「エレメンタル? あぁ、エレメンタルさんの風間さん。確かリーダーの人でしたか」


「あぁ。知ってたんですね。でも、顔は知らないのか。驚いたなぁ。いや、今は良いか。それで? 理仁はここに居るんですよね?」


「居ますけど。まだ熱で寝てると思いますよ」


「熱。本当に風邪だったんですね。それは困ったな」


「どうしたんですか?」


「いえ。今日は俺ともう一人必要なので、とりあえず理仁を連れて行こうと思ったんですけど。そんな状態じゃあ難しいですね」


「そうなんですね。確か、他にも二人メンバーの方がいらっしゃるんですよね?」


「えぇ。ただ、海斗の奴は朝から完全に行方をくらませてまして、琉生はまぁいつもの奴です」


「いつもの……ですか? 申し訳ございません。私、エレメンタルさんにはあまり詳しくなくてですね。どんな状態なのでしょうか」


「あー。そうなんですね。いや、琉生はアニメとか漫画を見るのが好きなんですが、仕事よりもそっちを優先する事が多くて、今回もシンフォなんとかっていうアニメを一期から見返さないととか、何とか言ってまして。まぁ、サボりです」


「あぁ、シンフォニカ。戦姫滅歌(せんきめっか)シンフォニカですね。再来週から新クールで新作が出ますし。旧作からチェックしてる感じですね」


「分かるんですか?」


「え、えぇ、まぁ」


私は突如水谷さんに手を握られ、問われる。


それに頷くと、水谷さんは私の手を引っ張って、家の外に連れ出した。


「ちょっと手伝ってください。琉生を引っ張り出すのを」


「え、いや、あの。か、鍵を閉めさせてください」


「あぁ。それは失礼」


私は逃がさないとばかりに手を握られたまま、家の鍵を閉める。


そして、そのまま水谷さんに引っ張られて、外に止めてあった車に放り込まれてしまった。


こうなった以上は仕方ないと、風香さんに風間さんの事をお願いしますとメールをして、私は火野坂さんの所へ向かう事にした。




車を走らせて一時間ほどでたどり着いたその場所は、とても人気アイドルが生活しているとは思えないほどに古い建物だった。


大きな地震でも来たら倒壊しそうな感じだ。


そして、その中の一室に水谷さんは私の手を握ったまま向かうと、扉を叩き、チャイムを連打する。


その甲斐あってか、奥から誰かが出てくる気配がして、一人の男の人が現れた。


「誰だよ! うっさいな!! こっちは今忙しい……んだ、って、かっ、心奏さん、どうしたんですか。そんな怖い顔しちゃって」


「お前を迎えに来た。仕事の時間だ」


「嫌だ! 俺は行かないぞ!! 誰でも良いなら、俺じゃ無くても良いだろ!」


「やかましい! 仕事をしろ!」


「お、俺には友達が待ってるんだ! 彼らを置いてはいけない! 俺の事は置いて、先に行ってくれ」


「何が友達だ! 顔も合わせた事無いくせに!」


「しょうがないだろ!? みんな遠い場所に住んでるんだから! ツアーでもあれば会いに行けるさ!」


「ツアー中にそんな暇があるか!」


「だからこそ、俺はこういう時間を大事にしたいんだ! 友達と色々な話をするのが俺の人生の楽しみなんだ。それを奪う権利がどこにある!」


「なら、友達がいれば、良いんだな?」


水谷さんは伺う様にそう言うと、私を前にズイッと押し出した。


そして、そんな私を家から出てきた男の人は上から下に見下ろす。


「誰だ。アンタ」


「えっと、高垣麻衣です。どうも」


「俺は火野坂琉生(ひのさか るい)だ。さてこのシャツを見ても分かる通り、心がぴょんぴょんしているのだが」


「いや、どっちかっていうとのんのんしてますよね?」


「……おぉ」


火野坂さんは一言会話しただけで、目を輝かせたが、イカンイカンと首を振り真面目そうな雰囲気になった。


しかし口元は歪んでおり、笑顔を隠しきれていない。


「アニメ。好きなの?」


「まだ見始めたばかりのにわかですけど。結構好きです」


「ふぅん? なるほどね?」


ニヤニヤしている。


でも、火野坂さんはそのニヤニヤを手で覆い隠していた。


「ちなみに今期は何見てんの?」


「今期だと、雪ン子物語とか。ガソダムとかですね」


「へぇ! ガソダム見てんだ! 他は、他は何のシリーズ見たの?」


「他ですか? 他だとWとか、オススメされて見ましたね」


「ほぅ。Wか。まぁ女の子だしね。ちなみに種とかオススメだよ」


「あぁ、そうなんですね。じゃあ今度見てみますね」


「いや。そういう事なら今貸そう。ちょっと待っててくれ。取ってくるから」


「あ、いえ。そこまでされなくても……って聞いてないですね」


火野坂さんは私たちを放置して家の中に入っていった。


そしてどうやら奥で何かを漁っているらしい。


「いや、凄いな。これなら君を餌に釣りだせそうだよ」


「それなら良かったですけど」


「ふむふむ。しかしこんなに簡単なら、俺もその何とかって漫画を見てみるかな」


「ガソダムはアニメですね。結構長編なので時間掛かりますよ」


「なるほど。じゃあ止めておこう。ちょうど役に立ちそうな人材も見つかった事だしね」


「……え?」


私を見てニヤリと笑う水谷さんに私は驚愕の顔を向けるが、水谷さんは特に気にした様子も見せない。


そんな様子に私は猛抗議する。


「いや、困りますよ。私だって忙しいんですから!」


「報酬なら払うよ?」


「私、もう働いているお店があるので」


「ふむ。じゃあそっちと掛け持ちというのはどうかな」


「そんな簡単に決められないですよ。オーナーにだって相談しないと」


「なら俺がそのオーナーさんに交渉しよう。俺としても死活問題なんだ。ちょっとやそっとじゃ折れる気は無いぞ。無論どうしても、本当に、何が何でも無理だというのなら、仕方ないけれど」


「……そこまでは言いませんけど。でもなんでそこまで私に拘るんですか? 別にアニメが好きな人ならどこにでも居るでしょう?」


「いやいや。それだけじゃ駄目だ。琉生に興味がないという事も必須条件なんだよ。アイツは自分のファンが嫌いだからね」


「それは、アイドルとしてどうなんでしょう」


「駄目かもね。でも仕事はきっちりするし。俺としては気にしてないよ。そういう素っ気無い琉生が好きってファンも多いしね」


「そうなんですね」


「まぁ後は琉生とまともに話せる人っていうのも大事だね。その点、高垣さんはパーフェクトなんだ。だから、頼みたい」


「……オーナーとの交渉次第です」


「分かった。じゃあ誠心誠意お願いするとしよう」


そんな会話を水谷さんとしている内に、部屋の奥から火野坂さんが大荷物を持って出てきた。


「お待たせ! 厳選したから全部見て、まずは種。そして種運命。後、蒼空のファイブナー。これ、種と同じキャラデザの人で、めっちゃ面白いから見て。他は」


「琉生。話をするなら時間が無いから車の中でしろ。それにさっさと風呂入ってこい」


「いや心奏。すまない。俺は今日、他に大事な仕事があるんだ」


「言っておくが、高垣さんは他に用事があるから、このまま俺が車で送っていくぞ。ちなみに今なら一緒の車で好きなだけ話が出来る」


「ちょ、ちょっとタイム。今すぐ準備してくるから!」


「じゃあ俺たちは先に車乗ってるからな」


「絶対に先に行くなよ! 先に行ったら許さないからな!」


そう言うと、火野坂さんはその場で上着を脱ぎ、上半身裸になりながらお風呂場と思われる場所へと向かう。


そんな火野坂さんの姿に水谷さんは怒りながらドアを閉めるのだった。


「レディの前で何考えてんだ! バカ!! ったく。じゃあ俺たちは車に行きましょうか。ここは寒い」


そう言う水谷さんと一緒に私はまた車の中に戻った。


それから火野坂さんは髪の毛も乾かしていない状態で沢山のアニメBDを持ちながら車に飛び込んできたが、社員証などを忘れたため、水谷さんに怒られていたのだった。

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