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薔薇色

作者: 紫音

君は薔薇より美しい



当然、美子は呆気に取られたような顔をした。そして、小さく微笑んだ。


美子は、私の前から消えた。



時は遡ること3年前。私は小さい頃両親を亡くし、天涯孤独の身となった。シェアハウスを転々とし、行き着いた最後の場所で、私は美子と出会った。

そこは、私と同じような境遇で両親を亡くした天涯孤独の身となった者達が身を寄せ合い、協力し合いながら生きていく場所だった。決して恵まれた環境とは言えず、例えば家のすきま風が冷たい時は身を寄せ合い、例えば暑すぎる日は皆と共にシャワーを浴びる等して過ごした。

仲間達と共に私と美子はその関係性を強めていった。そんな環境でも、食べ物に困るようなことはなく、皆健康に育った。食事には必ずと言っていいほどさつまいもと、香り付けの薔薇が出された。私は薔薇の香りがするさつまいもを仲間と共に食べた。それがなければここまで育つことはなかっただろうと思う。好き嫌いを言っているような、そんな余裕は無かった。



仲間の内、2人が3年の契約満期を終え、このシェアハウスから出ていかなければならなくなった。別れと共に、新しく2人がシェアハウスに入居してきた。シェアハウスには常時8人程度が身を寄せ合い暮らしていた。新しい出会いと別れ。私も美子も、いつしかここから出なければ行けない。お互いに淡い恋心を胸に抱き、私達は愛を育んだ。


とある日。

薔薇御宴なる宴に美子と仲間達と共に参加した。別に美子とはこれといって進展はなく、ただただ過ぎる日々を2人で楽しく一緒に居られればそれで良かった。結婚という形に囚われることなく、仲間と共に過ごしながらも、お互いがお互いを思いやり、たまにこうして外出する事がどれほど特別なことだったか。美子もまた、これがいい、この関係がいい、毎回新鮮だもの、と毎度外出の度に言ってくれる。

我々は愛し合っていた。

その日が訪れるまで、2人の時間を共に過ごす事はこの上なく幸福だった。


そして、3年が過ぎた。

遂に私と美子はこのシェアハウスを後にする。3年間共に過ごした日々を思い出しながら、シェアハウスの仲間達と、そして、何より美子との別れが辛く、私は泣いた。

何か美子にプレゼントをと思ったが、シェアハウス内で恋愛は禁止。ずっと想い続けたこの気持ちをどう美子に伝えよう。伝えずとも分かると誰もが思っていただろうが、やはり最後ぐらい、きちんと美子に伝えたい。愛していると。

私は食事の時間に出される薔薇を一輪咥え、美子の元へ行った。


そして


君は薔薇より美しい


当然、美子は呆気に取られたような顔をした。そして、小さく微笑んだ。


ありがとう。君と過ごした日々は、特別なものだったよ。本当にありがとう。


美子は私に身を寄せ、そっと頬を擦り付けた。シェアハウス内ではそれが精一杯の愛情表現だった。


私達はお互いの愛を確かめ合い、トラックの荷台から下ろされたタラップを登る。途中、仲間が暴れるが取り押さえられトラックに乗せられる。

我々はこれからどこに行くのだろう。

どこに行くかの場所は分からない。しかし、我々がどうなるかは皆が理解していた。




いらっしゃい!今日はなんとも良い肉が入ってるよ!さつまいもと、なんと香りづけに薔薇を与えて育てた、その名も薔薇色ポーク!さぁ買った買った!!


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