二話 車に乗ります
二話 車に乗ります
兎を見送り、要は近所の駐車場で待つ事になる。能達を連れて逃げるための足、車に乗るためだ。想に話を通していて、快諾してくれた。もう足を向けて寝られないレベルだ。
「要は持ってないの? 車」
ポケットから顔を出したサイズの問いに要の顔が曇る。
「うちはそんなにお金持ちじゃないよ。エスパーダが課金するし」
言い訳に使ったら、当然エスパーダが怒り出す。
「私、最近課金してないもん。ガチャ運上がってて、無料の範囲内で出来てるんだから!」
サイズとは反対側のポケットから抗議してきた。だが彼女は一言も課金を否定する言動をしていない。ここは帰った後に話し合うべきだろう。
「エスパーダ、新しいキャラ手に入れた?」
「ああ、デイ・ウォーク? あれ、意味分かんないよね。忍者なのに顔出しして、しかもブスだし、タケノコ持ってるし、クナイなんか刃の部分持ってるし。知ってる? あれ、攻撃すると握ったクナイのダメージ受けるんだよ」
ネットではなぜデイ・ウォークなるキャラを作ったのか疑問に思うコメントで溢れていた。デメリットもあるのに大した威力もない。なのに最高レアリティなのも不満として上がっていた。
「良かった。私、就に課金のお願いしようか迷ってたの」
サイズは無課金では出なかったようだ。
「やっぱりホーリエ・ヴィスコンティーみたいなのが良い」
「二回攻撃とか良いもんね」
「違うもん。カッコ良いから」
「カッコ良いか」
二人の認識がかなり違う事が明らかになった頃、車が来た。ワンボックスカーだ。そして運転席側の窓が開いた。
「待った?」
都だ。だがいつも一緒にいる想がいない。
「想は?」
「こんな朝早く起きてられると思う?」
質問で返され、要は納得した。
「じゃあ頼むよ」
「要が免許持ってりゃ私必要なかったのに」
ため息をつかれた。
「え? 要、運転できないの?」
サイズが素直に驚いている。その反対側でエスパーダが要を見上げている。
「運転出来ないのに私もせいしようとしたんだぁ」
「いや、だって、それも原因じゃない」
「要がそんな人だとは思わなかった」
「要、人のせいにするのは良くないわ」
さっき要が免許を持っていないからと文句を言ったのに、その否定は理不尽すぎた。でもここでモメても救出に向かうのが遅くなるだけである。要は自分を曲げて、アックス達を呼んだ。アックス達はハトに乗って現れた。が、同乗していたのは黒星だけだ。
「エクスカリパーとあの二人は?」
二人に聞くと首を横に振った。ポケットにぎゅうぎゅう詰めになると小人達が困るので、アックスのハトを頼ったはずだった。
「私電話してみる」
サイズがスマホを操作すると、かすかに音が鳴った。その音を辿ると、地面を走るエクスカリパーとそれにしがみついているライトハンドとレフトハンドが。
エクスカリパーは走ってきた事もあって汗だくだ。
「どうしたの?」
要が聞くとエクスカリパーは不満を漏らした。
「レフトハンドが弁当を忘れて取りに戻ったんだ。足代わりにされてものすごく迷惑だ」
「まあまあ」
「弁当は大事だし」
悪びれた様子もない。
「クーラー効いてるよ。さあ、入りな」
都の優しい言葉にエクスカリパーは泣き出した。