二人の愛仔狩り
二人がかりで手早く解体しきった、元は大熊であった肉と皮を持てるだけ背負い、青年二人は歩み出した。大熊は死した後も強敵だったのだろう。二人の背を朝焼けが追いつつある。
「それにしたって、とんでもない熊だったもんだ」
しばらく歩いて、弓を背負った青年が言った。皮肉気に口の端を吊り上げながら、からからと腰に結わえた矢筒を振ってみせる。弓を扱う者の端くれとして常ならば所狭しと矢を詰めに詰めているはずが、数本残して殆ど空の有様であった。
「あんだけ準備したっていうのによ、折られに折られてこの様だ。補充にどれだけかかるやら」
その冗談めかした嘆きに、微笑みながら返したのは、剣を腰から下げた青年であった。
「本格的に冬になる前でちょうどよかったじゃないか。引きこもっている暇に、幾らでも作り溜めておけるさ」
それに、と柔らかな微笑みのまま背負った大熊の成れの果てを眺める。毛皮となってなお、その逞しさ、恐ろしさは褪せていない。誰が見ても立派な大熊であったと言うだろう。
「産まれたばかりでここまでの大きさだ。これ以上大きくなるのか、ただ成長が早いだけなのかはわからないけど、前者の可能性が捨てきれない以上、こう早く狩れたのは僥倖だったと思うよ」
「違いない。これ以上図体ばかりでかくなってみろ、一束丸々空っけつどころか倍あったって足りやしねえ」
そう、この如何にも雄々しい成獣と見える、そこらの熊とは一線を画すような大熊は、この世に生を受け一年どころか半年すら経っていない、正真正銘の子熊であった。
事の発端は、この森を狩場とする一人の猟師が、見慣れぬ熊の親子を見かけた事だった。
人や作物を襲うことは殆どなく、数も少ないこの森の熊達をわざわざ怒らせることもあるまいと、この辺りの猟師は滅多に熊を狩らない。この度見つかったのは産まれたばかりと見える、足元もおぼつかない、子供ですら一抱えに出来そうな程小さな子熊。それだけなら、特に騒ぎになることもなかった。しかし妙な事に、その日は未だ秋の只中。この種の熊は、秋に番い、冬も深まる頃に子を産む。早産にしてはあまりにも早く、しかし昨年に産まれているのならば、猟師達が把握しておらぬ筈がない。
何か森の異変かと、数日経ち幾人かの猟師達でもう一度探し出されたその子熊は恐るべきことに、明らかに成長していた。成獣とは言えぬまでも、もう少しで独り立ちしてもおかしくない程の体躯に。
「さて、今回こそは報酬が減らされずに済むかな」
「もう神サマも寝入ったろうと油断したところに、直ぐにでも腹を空かして人を襲ってもおかしくなかった愛仔退治だ。流石の業突く張りもケチをつけんだろうよ」
そう、この異常な成長をした熊のように、生来その種では持ち得ない特徴を持った生き物が突如そこかしこで生まれ出でるときがある。
一年から二年ほど続くその期間を、この国では、「魔神の目覚め」と。そして、その生まれた特異な生き物達、つまり、特別に魔神に目をかけられたとされるそれらは、「魔神の愛仔」と呼ばれている。
説明がくどくて申し訳ない。上手い人ってすごい。