1-4 「阿呆……わかっておるならもう少し優しくせんか」
「──────というわけなんだ。だから、君が人間の姿になってしまったことは俺たちに責任がある。何か困ったことがあったらなんでも言ってくれないか」
「……わかった。私からも、謝る。攻撃して、すまなかった」
たどたどしいながらも、フレイムリザード少女は頭を下げて謝意を表した。
なんという順応能力だろうか。いや、あるいは元からフレイムリザードは知能の高い種だったのか。
ともあれ、これで彼女と敵対する理由はなくなった。
アステルも彼女の言葉を聞いて、ホッとしたような顔になっていた。
「……その、冒険者、さっきの傷は大丈夫か……?」
「あれ、そういえば傷……結構ヤバいと思ってたけど、気が付いたら治ってるな……」
「ふふん、それはそうであろう!妾が奇跡を起こした時についでに治してやったのだからな!」
聖杯が奇跡を行使する際には、少しだけおまけしてやることだってできるのだ。褒めていいぞ、えっへん。
「そうか、流石は聖杯だな……」
「いやそこはもう少し褒めんか!妾、奇跡起こしたんじゃけど??結構凄いことしたんじゃけど???」
「ああ、凄い凄い。後で面倒見てやるから、待っててな」
「こ、子供扱い…………!」
うぅ……妾、拗ねるぞ。
「俺はこれからこのダンジョンで、人間の姿になったモンスターたちに会いに行ってみようと思う。もしかしたら、俺の仲間になってくれる者もいるかもしれないからな。君……名前はあるかい?」
アステルは少女の手を取り、優しく問いかける。
「名前……そういった文化と同じかはわからないが、仲間たちからはレイヤと呼ばれていた」
「うん、レイヤか!いい名前だ!改めて俺はアステル。こっちの小さな女の子が、聖杯だったグレイナだ」
「……小さな美少女、グレイナじゃ」
ふん。子供みたいに小さくて悪かったな。
っていうかレイヤと妾の扱いが違いすぎぬか!?!?
「ところで、レイヤはこれからどうするんだ?」
「私たちフレイムリザード族は、聖杯から漏れだす魔力とそれによって育つ周囲の植物を糧に生きていた。今の身体でそれが必要なのかはわからないが……できれば聖杯の近くにいるようにはしたい」
「……だそうだけど、グレイナ。聖杯は君自身だろう?どうする?ここに留まるのか?」
「んなっ……阿呆!ここに留まるわけがあるか!お主の仲間になるためにこのような美少女の姿になってやったのじゃろうが!気が付かぬとは流石の妾も怒り心頭であるぞ!!」
「あはは、グレイナは怒ってばっかりだなぁ」
「ともかく!そういうわけじゃから、妾はここには留まらぬ」
「…………」
……ええい、妾の目の前でそのような不安そうな顔をするなレイヤ。
まったく、せっかく人の姿になったというのに目覚めが悪いにもほどがある。
「どうしても聖杯の力が必要なのであれば……選択肢はいくつか考えられるな。聖杯の代替物を探すとか、別の聖杯の近くで暮らすとか……まぁ、妾たちの仲間になって共に来るとか」
「……!」
レイヤの顔がパッと明るくなる。先ほどまでとは打って変わって(特にアステルに)かなり心を開いているようであった。
「ああ、それはいいな!仲間が増えるのは、俺としても心強い!」
「いや、こちらこそありがとう。あなたたちのように勇気と慈悲を持った者と同行できるのは、私にとって望外の喜びだ」
レイヤは妾にも向き合って、深々と頭を下げた。
……随分と礼儀正しい所作を知っているものだ。いや、フレイムリザードは見た目に反して積極的な争いは好まないと聞く。こういった姿勢が本来の姿と言うべきなのか。
それにしても……ふぁ……眠い。
手足を動かして誤魔化していたが、どうやら妾の体力もそろそろ限界が近いらしい。
……どさり。
む、誰かが妾を支えているのだろうか。
「……ごめん、グレイナ。あんなに奇跡を使わせちゃって……多分無理させちゃったよな」
無論、それはアステルだった。
そう、奇跡というのは当然タダで起こせるものではない。
妾の内にある魔力と気力と美少女力と、ほんの少しの未来を消耗する。
「阿呆……わかっておるならもう少し優しくせんか……妾はもう眠い……お主のおんぶを希望するぞ……」
「はいはい。ありがとうな、グレイナ」
バカ者……こんな時だけ優しくしおって。
ともあれ、こうして妾たちの冒険はダンジョンの最奥から幕を開ける。
聖杯だけでは部屋から出ることも叶わなかった。
冒険者が自分のために願うだけでは自分の身体も持てなかった。
そんな妾が、こんな幼女の姿で外に出ることになろうとは。
まぁいい。
もうしばらくは、こやつの仲間作りに付き合ってやろうではないか。
……はて。
そういえば、妾はこやつに聖杯と奇跡の仕組みを説明しただろうか。
妾が奇跡を使い過ぎると眠くなってしまう話を、しただろうか。
……なぜ、知っているのだろう。
いや、気になる点はそれだけではない。
そもそも、アステルの強さはハッキリ言って謎だ。
妾に辿り着いた者が一人だけだったことはある。
じゃが、それは途中で"一人になった"者だけであり……初めから一人だった冒険者がここ50階層まで辿り着くなど聞いたこともない。
それに、強さだけではない。
村の人間たちと上手くやれなかった?
なら、そんな人間がなぜレイヤをあれほどに懐柔できる?
アステルは……どこまで本当のことを言っている?
……ダメじゃ、もう意識が耐えられん。
意識が、アステルの背中に揺られて微睡みの中に落ちていく。
まぁよいわ。こやつとの時間ならまだある。
きっと、いつか……本当の、ことを──────