女公爵、畜産家になる
何事も、予定通り計画が進んでいるのを聞くときは気持ちが良いものだ。ウォルターが定期連絡を報告した時など、はしたなくも大笑いしてしまった。そこは反省せねば。なんといっても今や押しも押されぬ、名実ともに王国一の大貴族の当主なのだから。
それにしても、貴族ばかりか商人さえも経済というか経営の事を分かってなさすぎる。前世で経営者でこそなかったものの、それなりの立場だったものから言わせれば、相手にならない。悪徳商人など、違法部分を締め上げればかってに自滅していく。
この世界にきちんとした法律が有るのか?もちろんある。それは私だ。私が法律であり、私こそが正義である。
領ごとに法律が違う?違うかもしれないが、私の領の法律こそが正しい。最近では借金の減額を言い出すだけで、殆どの貴族は合わせてくれる。交渉する必要すらない。実に麗しい協調性だ。
王家の方も上層部で変な病が流行っているらしい。何か急に老化するとか何とかで、原因不明だとか。魔法でも進行を止めるのが精一杯で、王も度々臥せっているらしい。もしかしたらセシウムの放射性同位体入りのネックレスが、何か起こしたかもしれないが、それだったらとうに死んでいるはず。魔法がすごいという事も考えられるが、そうでないかもしれない。なんにせよ危ない所には近づかないのが一番だ。
王子は残念なことに、違った、幸いにも無事らしく、今は後継者争いの真っ最中だ。みんなピリピリしており、ちょっとしたことで死人が出る様な争いがおこるらしい。無差別殺人者が出る事といい、つくづく王都は魔都だと思う。今のところエナの周りでは変な事は起きていないらしい。ティータともども無事を祈るばかりである。
税もきちんと言われた通り収めているし、王子たちにも賄賂、違った、贈り物を送っているおかげで、最近はこちらに何か言ってくることもない。
ただ、私が治めるこのウィステリア領に限っては、何事も無く時間が過ぎていく。私の統治の賜物と自画自賛したいところだ。
そんな我が世の春を謳歌している私の最近の日課は、庭いじりと牛さんの世話である。といっても魔法をちょっと使うだけだけれど。計画が軌道に乗り、順調に進んでる時は、リーダーは余裕があるものなのだ。でなければうまくいっていない時にどうするというのか。
私は城の庭園の中で夏にもかかわらず冬のように寒い区画へと入る。ここは私の魔法で冬にしているのだ。神人の力を手に入れたことで、私はゲームの敵に良くあるようにMPの消費無しで魔法を使うことが出来る。その気になれば王国全土を冬にする事も、夏にする事も出来る。まあ、理論上可能なだけで、やった瞬間疲労で死ぬけれど……
取りあえず庭いじりぐらいでは問題ない。
「あっ、女公爵様。ようこそいらっしゃいました」
防寒着に身を包んだ庭師が挨拶をしてくる。
「ご苦労様。どんな具合かしら?」
「そうですね。クリスマスローズやスイセンなどが綺麗に咲いています。プリムラも咲き始めたので、目立つところに移動させた方が良いかもしれません」
「そう。分かったわ」
私は地面を動かす魔法を使い、花壇をパズルのように動かし、プリムラを手前に持ってくる。
「こんなものかしら」
「はい。何時もながら凄いものですね」
私はにっこりと微笑みを返す。裏表のない素直な賞賛は心地いいものだ。冬の庭園を見て回ると、次は春の庭園へと行き、同じような事をやる。そう私はその気になれば大地を動かし、王国全土を海に沈ませることだってできる。やっぱり疲労で即死するだろうけど……一応1日1μm程度なら可能なようだ。3年で約1㎜。分かるぐらい沈んだころには自分の寿命が来ているだろう。やる気も無いのでどうでも良い事だ。
城に来た貴族たちは違う季節の花が咲き乱れていることに驚き、更にその空間がその花が咲くのにふさわしい温度に保たれていることに驚く。本来ならそれ専用に魔法使いを雇い、魔石も多く使わなければならないからだ。貴族たちに格の違いを見せつける手段として有効なのだ。
次に牛舎へと向かう。なぜ城の中に牛舎があるのか。それは霜降り牛の需要が予想以上に高かったためである。生産が間に合わないのだ。王族からの問い合わせが商会に毎日のように来るので、定価を決めて売るのではなく、オークション形式にしたら王族が買い占めた。あれは他の貴族に恨まれるのではないだろうか。それに王子たちは私が送った小金色のお菓子よりも多くの金額を使っている。破産しなければいいけれど。
「女公爵様。今日もおやりになるのですか?」
「ええ。幾ら作ってもすぐ売り切れるしね。よくもまあ食べるものだわ」
私がそう返事をすると、10頭の子牛の前に穀物が山と積まれる。私が加速の魔法を使うと、のそのそ動いていた牛が、残像が見えるぐらい早く動き穀物を食べ、一瞬の内に睡眠をとり、また穀物を食べる。山と積まれた穀物は、みるみるうちになくなっていく。なくなったら魔法を解き、また世話係が餌を山と積む。それを何度か繰り返すと、子牛は立派な牛へと成長する。
「有難うございました」
世話係が頭を下げお礼を言ってくる。
「こちらこそ、いつもありがとう」
「もったいないお言葉……」
世話係が感動するが、私の心からの言葉である。何せこの牛は金の塊みたいなものなのだ。ちなみに疲労を感じないで済むのは10頭が限度だ。理論的には動植物を成長させないで、王国中の人間だけ加速させたら、あっという間に、全員が餓死するだろう。そんな事をやったら、やはり疲労で即死だろうけれど。
疲労、疲労、疲労、誰だこんなステータスを考えた奴は!まあ、私なんだけど……世界を破壊しようなんて思ってないから、どうでも良いんだけどね。
私は午前中をそうやって過ごすと、午後は書類の整理を行った。
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