女公爵、不審人物となる
光に包まれた世界、所謂神界にて、1人の神が悩んでいた。
「また悩んでいるのですかロナゴート」
話しかけたのは以前と同じ神、イシントだ。
「ふむ。依然見ていた世界だが、国全体に戦乱の気配が漂っている。多くの人間が疑心暗鬼にかられ、憎しみに捕らわれている」
それを聞いてイシントは肩を落とす。
「ああ、やはり駄目だったのですね。幾ら神人が強力だったといっても、それは過去の話。能力を封印されたままで、しかも1人ではどうしようも無いでしょう。今からでも勇者となる人物を送り込まれたらどうでしょうか」
イシントはそう提案する。
「それも考えたのだが、この流れは大きく、最早個人では止められまい。もし止めるとしたら、送り込んだその神人を倒さねばならぬ」
「?、どういうことでしょう。まさかその神人があの悪しき神人の生き残りである、王家の一族と手を結んだということでしょうか?」
イシントは尋ねる。
「それが分からぬのだ。実はすでに彼女は神人の力を封印していたロールアンクスを倒し、その力を手に入れている。故に私でも彼女の思考を直接読む事はできぬ。状況を見ると王家に近づいている様にも見える。だれが王太子になっても良いように、それぞれに援助をしているようだ。それに加え王族に近い貴族にも援助をして助けておる。更に奴隷を売買し、傭兵を使い戦争に加担し、金を使い人を操り、はては無差別な殺人者まで仲間に入れておるようだ」
「何という事を!封印してた力を思う存分振るっているのですね。実に由々しき事態ではありませぬか!すぐにでも勇者を送るべきです。若しくは最早諦めてこの世界に終止符を打つべきかと」
イシントはロナゴートに慌てて忠告する。それが事実なら今この瞬間にも、世界は奈落のそこへと落ちていくかもしれないのだ。そうなってしまっては、もう自分達に助けるすべはない。
「いや、彼女は神人の力を全くと言って良いほど使ってはいないな」
「はい?」
「そう慌てるな。世界は今すぐ奈落に落ちるようなことにはなっておらぬ。寧ろ遠ざかっているぐらいだ」
「???」
イシントは訳が分からないという顔をしている。
「彼女を少し見てみようか」
そう言ってロナゴートは1人の美し女性を空中に映し出す。セシリア・エル・ウィステリアだった。セシリアは人々の希望、感謝、喜びなどの感情を集め、まるで女神のように光り輝いている。だが反面、恨み、妬み、憎悪などの感情を集め、闇の羽衣のように纏っている。
「なんでしょうこれは。モンスターや悪しき王族の殺された怨念なら分かりますが、これは殆ど生きている人間のものです。しかもまとわりついているのではなく、自分で纏っているようではありませんか。人間に感謝され、同時に人間に憎まれる事をするなど、なにが起きているんです?」
「それが分からぬので悩んでいるのだよ。そなたはどうすればよいと思う」
ロナゴートは軽くため息をつく。
「……しばらく見守るしかないかと」
「やはり、そなたもそう思うのか。このような事態に見守るだけとは、儂らは何のために存在しているのかのう」
ロナゴートとイシントは2人して溜息をついた。
同じころ闇の中で禍々しいオーラを解き放ちながら男が嬉しがっていた。
「いいぞ。諦めなどの味気ない感情ではなく、恨み、嫉み、妬み、悲しみ、様々な感情が世界中に渦巻いている。多少の希望は良いアクセントになるな。疑心暗鬼になる人間も増えている。あちらこちらで戦乱も起きているではないか。実に素晴らしい。ウィステリアの小娘の姿に怨念の影が差しているのも見える。くくくくっ。あの王は良い仕事をするではないか。世界を奈落の底に落とした暁には念入りに可愛がってやるとしよう」
男はそう呟くと、ハッハッハッハ、と大笑いをした。
その頃地上ではそのセシリア女公爵が忙しそうに書類を整理していた。
「ようやく、まともな役人が育って、悪徳役人を一掃できてスッキリしたわ」
「今までの職に残れると思っていたものは、絶望し、女公爵様をさぞ恨んでいるでしょうな」
執事のウォルターがそう呟く
「いい気味よ。命を助けてやっただけましでしょう。それで不満なら好きなだけ恨むが良いわ。痛くも痒くもないし。寧ろ心地良いくらいよ」
「影武者のお嬢様方から定期連絡の手紙が届きました。戦況は予定通りとの事です。それと、貴族の不払いでつぶれた商会も幾つか傘下に入れたと。もちろん悪徳な商会はそのまま潰しておりますが。こちらも潰れた商会の人間は女公爵様を恨んでいる模様です」
「大変結構。やはり商売はクリーンでないとね。同業者に妬まれるのは気持ちが良いものね」
「はあ、まあ。貴族への貸出金も莫大な額になっておりますな。貴族の方にも恨まれているのでは」
「あの方達も奴隷の扱いを改めればいいのにね。そうすれば、鉱山労働者の派遣業に変えるのに。各地の戦乱でもいい加減自分の所の兵士だけが死んで、傭兵が死なない事に気付きそうなものなのに。気付いたころにはもう自分の兵がいなくなって、死んじゃってるのかしら?まあ、搾り取るだけ搾り取ったらどうでも良いわ」
「そういえば、王都で横行している無差別殺人ですが、女公爵様が裏でとをひいているという噂があるようです」
「いやだわあ。そんな方とは面識もないのに……」
ウォルターとそんなやり取りをしている内に、フフフ、アハハハハッ、とセシリアは遂にはしたなくも大笑いをしてしまった。
面白いと思われたら、ぜひポイントやいいね、ブックマークの登録をお願いします。皆様の応援は大変励みになります。よろしくお願いします。




