女公爵、金貸しになる
南部の統一を成し遂げた後、私は優雅にホムンクルス達の報告を聞いていただけかというとそうでもない。特にこの春以降、つまり王家へ収める春の税の後、面会という名の、借金の返済の延期願いや、新しい借り入れについての依頼が後を絶たない。ちなみに春の税というのはそのままの意味で春に収める税だ。フェーゼノン王国は、北部以外は春と秋に作物が採れるので、税金を納める回数が年2回なのだ。
今日の面会は西部地方を纏めているセリダート公爵だ。バングルス公爵の後釜になった公爵である。相手は規模の違いこそあれ、同じ公爵家。当主自らのお出ましに、私はまずは食事で歓待する。
私とセリダート公爵の前には南部だけでなく各地の食材を使った料理が所狭しと並べられている。
「さすがは噂に名高きウィステリア公爵家ですな。このように各地の食材が揃うとは」
セリダート公爵は圧倒されているようだ。先ずは掴みはOKというところだろうか。
「まあ、そう言っていただけるとうれしく思いますわ。恥ずかしながらこの領地は、私の就任時の不手際により罰則として2倍の税を払っている状態でして。セリダート閣下のお口に合うものが用意できるか心配でしたのですよ」
ホホホッっと私は笑う。
「いやいや。これだけのものを用意できる家など、王家以外にはありますまい」
セリダート公爵は、随分と年下の私に完全にへりくだった言い方で話す。
「まあ、そんなに褒められると恥ずかしくなってしまいますわ。これも先祖が築いてきた富と領民の頑張りがあってこそなのです」
「なるほど。さぞかし溜めていらっしゃんでしょうな」
「私の代で支出が大幅に増えてしまい恥ずかしい限りです」
まあ、収入も大幅に増えて、結果資産も増えてますけどね、と私は心の中で付け加える。
「税をあげて反乱などは起きなかったのですかな?」
「残念ながら起きました。お恥ずかしながら身内ですら反乱を企てたのです。話し合いで解決できるところは話し合いで解決しましたけど、そうでない場合は武力で鎮圧するしかありませんでした」
私は悲しそうに顔を少し臥せる。ああ、私に反乱など起こさなければ、領主の地位でいられたものが、何人もいると考えると悲しい事だ。
「それはそれは大変でしたな。実は私の所でも反乱が相次いでおりまして、困っているところです。ウィステリア閣下の所は飢えた民はどうされているのですかな」
「もちろんできる限り、飢えた民が出ないようにはしておりますが、どうしても出てしまうのは仕方が無い事ではないでしょうか」
世界有数の裕福な国だった前世の日本だって、飢え死にする人はいたのだ。0にはできないだろうし、そこまでする気もない。
「実に参考になりますなあ。しかし、そんな事をしていては恨むものも大勢いるのでは?」
「そうですね。投獄でできるだけ済ませはしたのですが、どうしても無理な方は命を奪うしかありませんでしたわ」
バモガンの時代に甘い汁を吸っていたものは、さぞ恨んでいることだろう。知った事ではないけれど。
「いやはや、噂とはあてにならぬものですな。まさかウィステリア閣下がここまで統治者としての覚悟を持っていらっしゃるとは。失礼ながらその若さでと感心しました」
これには、ホホホッと笑って返すしかできなかった。
こうして和やかに食事は進んでいく。
「ところで、おりいってご内密の話があるのですが。申し訳無いのですが人払いをお願いしたいのですが……」
セリダート公爵が小声で私にそう話しかける。私は慣れた手つきでみんなを下がらせる。そして二人っきりになると、セリダート公爵は私に頭を下げてくる。
「ウィステリア女公爵閣下、借入金の返済期限を延ばしてもらえないだろうか。少しばかり反乱の鎮圧に手間取っておりまして……延ばしていただけるのなら、延長料は払もちろんは払いましょう」
セリダート公爵は所有している鉱山のあちこちで反乱、というか奴隷の逃亡が起き、鉱山へ送り込むための奴隷の購入費用として、莫大な金をこの私から借りていたのだ。
「まあ、困りましたわ。閣下は間違いなく返済してくださるものとばかり思っておりましたのに……」
私は非常に困ったという風な顔をする。この顔をするのも板についてきた。
「いや、なに、反乱の鎮圧は目途がついているのです。その、何と言いますか、鉱夫となる奴隷の調達に時間が掛かっているだけでして……」
自国の奴隷などとうに使い切っている。買った奴隷は片っ端から逃亡。王家からは税の督促。にっちもさっちもいかないとはこのことだろう。
「では、こうしましょう。キドス鉱山、メガン鉱山、ランケ鉱山この3つの採掘権を渡していていただけるのでしたら、その間の利子は無しにしましょう。如何ですか?」
「それは……うーむ」
セリダート公爵は悩んでいるようだ。どの道鉱夫がいなくては鉱山など有っても金にはならない。
「他ならぬセリダート閣下の為です。追加で1万金貨をお貸ししましょう」
金貨1枚で大体奴隷が10人買える。つまり奴隷10万人分の金だ。
「おお、それならば!ありがたい。このご恩は忘れませぬ」
セリダート公爵は感涙にむせび泣きそうだ。白々しい。すぐ忘れるくせに、と思うが、どうせ期待していないしどうでも良い。
その日の会談はそれで終わった。私はテッセラに念話で連絡する。
(近々奴隷の購入の話がセリダート公爵から奴隷商人に行くと思うから選別をよろしくね。まあ、逃げ出した奴隷の顔なんて覚えていないとは思うけど)
(了解。他の皆と相談して融通しあうわ。はあ、この部門も完全に独立させないと、忙しくて死にそう)
(ごめんね。多分あと2年でなくなると思うと完全に独立させるのはね。それにあんまり多くの人を関わらせたくないのよね。ロンダリングがバレると嫌だし)
(分かってるわ。気合を入れなおして頑張るとしますか)
過酷な鉱山労働から逃げ出した奴隷を傭兵が捕まえ、捕まえた奴隷を奴隷商人が買い、買った奴隷を貴族に売る。すべて私の息がかかっているがそこは気にしてはいけない。奴隷にもちゃんと給料を払っている。彼らが動くと私の財布の中身は減らないが、西部の貴族の借金だけが増えていくという素晴らしいシステムだ。
さて、明日は東部の新しい公爵に任命されたディカビアン公爵との面会だ。公爵はまだ堅牢な領都を落とすことができていない。更にトゥリアが遊撃隊を効率的に運用しているせいで、食料の調達もろくにできていない。戦費の捻出も大変だろう。公爵になった事に同情する。明日もせめてもの気持ちを込めて精一杯の歓待をしよう。
そしてその後、何を引き換えにお金を貸し出そうか、と私は考えるのであった。
面白いと思われたら、ぜひポイントやいいね、ブックマークの登録をお願いします。皆様の応援は大変励みになります。よろしくお願いします。




