中央の大地にて2
エナは中央軍の従卒の中から目星をつけていた3人を引き抜く。中央軍の従卒は人数の関係から個人に仕えるものではないため、王子の口利きがあればどこの軍からでも引き抜ける。ましてや煙たがられている者ならなおさらだ。
従卒と言っても、最終試験に落ちただけで、試験までは兵士と同じ戦闘訓練を受けていた者達だ。そしてその中には人を殺せなかったのではなく、奴隷を殺さなかった者も居る。そう奴隷をだ。彼らが殺したのは味方だった。試験中にバレないように気に食わないものを殺したのである。バレてはいないが、彼らは味方を殺せるだけあって強い。変に命令しようものなら、コテンパンにやられる。だが従卒にやられたなど上官に報告しようものなら、兵士の方が怒られる。なので彼らは比較的自由な生活を謳歌していた。勘の良い人は分かるかもしれない。彼らはゲームの中の所謂隠しキャラだ。全員レベル40のNPCとしては最強クラスのキャラクターである。
エナは3人を前にして話し始める。
「さて、あなた方を引き抜いたのは、偶然じゃないわ。貴方達は実力を隠している。兵士になって、決められたトレーニングをするより、自分でトレーニングをした方が良いと思っている。そして、自分より弱い者の下で戦う気がない。そしてあなた達には、既に主と決めた人がいる。どう、間違ってる?」
しばらく沈黙が続く。
「で、それが本当だとして、それがどうだというんです?ウィステリア公爵家には、中央軍より強い者が居るとでも?」
そう言ったのは身長は軽く2mを超える大男だ。背が高いだけでなく横幅も大きい。まるでクマのような印象を受ける。名前はマフードという。
「ええ。いるわよ」
エナが即答すると、マフードは一瞬驚く。だがすぐに元の小ばかにした様子に戻る。
「口では何とでも言えますがね。そういった奴は大抵……おっと使者殿に失礼しました。使者殿には関係ない話でしたね。噂に名高きウィステリア軍。そういう御仁もいるでしょうなあ。会うのが楽しみです」
クスクスと他の2人が笑っている。
「何人かいるけど先ず私と勝負して欲しいわ。私に勝てないようじゃ、私が仕える方には勝てないでしょうしね」
エナがそう言うと、マフードは一瞬ぽかんとした後、笑い出す。
「はははっ。いや、なんで勝負するんですかい。魔法のみの勝負といわれちゃあ分が悪そうですなあ」
エナは怒ることなく、空中から酒樽を出し、その上に肘をつけ、腕相撲の体制をとる。
「格闘技でも良いんだけど、単純に腕相撲でどう?」
マフードはそれを見て遂に腹を抱えて笑い出す。
「心意気は買いますぜ。じゃあ、せいぜい魔法か何かで強化した後で受けましょう」
「要らないわ。ついでにあなたの御託も聞き飽きたわ」
エナは今度も即答する。今回はさすがにマフードもカチンと来たようだった。
「後悔しなさんな。その腕がへし折れても知りませんぜ」
そう言って、エナの腕を握り酒樽に叩きつけようとする。だがエナの腕は動かない。
「もう始めていいのよ。力を入れたらどう?」
エナは挑発する。
「はっ、ぐっ、この!」
マフードは顔に青筋を立て、丸太のような腕をさらに膨らませ、力を入れるが、逆にエナに押されていく。そして遂にマフードの腕が樽に付いた。
マフードは腕を抑えながら信じられないといった表情をしている。対するエナは涼しい顔だ。
「次はあなた。ナヴァフといったかしら。魔法が得意なのよね。そうね。私の魔法障壁を貴方の最大の攻撃魔法で破ってみせて」
マフードの様子を見て、ナヴァフは評価を改めたようだった。最初から真剣な表情で集中する。
「アイシクルランス!」
溜めに溜めた後、一点突破の魔法を放ってくるが、エナの魔法障壁を破るどころか、ランスの方が砕けてしまう。
「そんな、ヒビすら入らないなんて……」
ナヴァフも茫然とする。
「最後は、あなた。ティンルムだったわね。弓が得意なのよね。じゃあ、貴方から腕前を見せてみて」
エナは的と弓を出す。ティンルムは他の2人が負けたのを見て、何かを悟っている様だった。
黙って矢を構えると、次々と5本の矢を放つ。5本とも的の一番中心の円の中に突き刺さっていた。
そして黙って弓をエナに差し出す。エナも次々と矢を放つ。1本目は的の中心に、二本目はその矢を突き破り、全く同じところに3本目も、2本目の矢を突き破り全く同じところに。
「はいはい。もう分かりました。こうなると思ってました。俺の負けですよ」
ティンルムは両手をあげて降参のポーズをとる。
「で、おれ達はこれからどうすればいいんです?」
ティンルムがそのまま言葉を続ける。
「ん?貴方達が主と決めた人の元に行くのよ。反乱を起こし、死刑囚判決を受けながら殺しきれなかった奴隷のね。私の傘下に入ってくれるように説得してくれないかしら。悪いようにはしないし、忠誠も求めないわ。貴方達は私の頼んだ仕事をし、私はそれに見合う報酬をあげる。シンプルでしょう」
そう言ってエナはスタスタと3人の主の居る場所へと向かう。3人は顔を合わせついて行く。そうして4人は誰もいない城の裏にある廃墟らしき場所へと着く。
「ここまで知っているとは驚きだ。どうやって調べたんだ。だが、ここから先は封印されているんだ」
マフードが最初の勢いはどこへやら諦めた様にいう。
「知ってるわ。この封印を解くイベントは王族と絡むし長いから面倒臭いのよね。でもまあ、救済措置として能力値さえ一定以上あれば何とかなるのよ」
縁がそう言って手をかざし、力を入れると空間にひびが入り、ガラスの砕けるような音がして封印が解ける。3人はポカンとしている。
「さ、中に入るわよ」
廃墟の中は牢屋になっており、牢屋の中には白骨化した死体や腐った死体がある。エナはそれらに目もくれず、隠された地下へと続く階段をすぐに見つけおりていく。その先にはひと際頑丈な檻があった。
エナが明かりを向けると、奥にうずくまっていた人影が眩しそうに額に手をかざしながら起き上がる。
「誰だか知らないが、残念だったな。飢え死にさせたかったようだが、ここには食い物になるネズミも虫も入るし、飲み水として雨水だって入ってくる。何年入れとこうが死なねえよ」
「オーゼ様!」
牢屋の中の人物の声を聴いた3人が駆け寄る。
「なんだ。お前らも生きていたのか。何が起きているんだ?」
「うーんちょっと実際見てみるとワイルドすぎるかしら?でも、他に最強クラスを集めたんだし、そっちでも良いわよね。性格は単純、違った素直そうだし……」
オーゼの問いに答えるべき人物は、上の空で何か別の事を考えている様だった。
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