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ウィステリア公爵令嬢奮闘記~転生したのは破滅間近の死にゲー世界  作者: 地水火風


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中央の大地にて1

 中央の大地、そこの殆どは太陽の光が差すことがない地域だ。僅かな光は星、そして本物の月だけだ。この本物の月は地球tの月より見かけ上は大きく明るい。満月の時などは地平線まで景色を一望できる。だが、それでも日光の10分の1の明るさしかないし、常に満月な訳でもない。普通の植物が育つ環境ではなく、まるで洞窟か深い森の中に生える、苔や下草、菌類が地面を覆っていた。

 通常そんなところは、極寒の地域になるだろう。だが、不思議な事に気温は20度前後と、人が快適に過ごせる温度だった。まるで、神々の最後の慈悲と言わんばかりに。

 温度が快適だからといって、人が大勢暮らせるような環境ではない。だが、中央は王族の直轄領として、領単体としてはフェーゼノン王国最大の人口があった。なぜそんな事が可能なのか。それは他の地域への過酷な税の徴収と、それを可能にできる軍事力であった。人口が多いから軍事力が高いのではなく、高い軍事力を維持するための人口であった。

 なのでともかく生まれた子供は男も女も関係なく、軍人になることを第一に鍛え上げられる。そこに王族も奴隷も関係はない。5歳になると身分を示すもの、つまり一切の服や装飾品を付けることは許されず、兵舎に放り込まれる。大人なら紋章によってある程度の身分は分かるだろうが、子供には分からない。もちろん紋章無しは兵舎に入れられることはなく、奴隷になる。

 10歳の時の強さにより選抜されたものが更に兵士となる訓練を受け、それ以外の者は、中央地区で出来る数少ない農業である畜産に携わるものか、奴隷へと落とされる。僅かに貴族出身の者は他の地域への政略結婚の駒として引き取られる。

 15歳の時に兵士となれるか、または従者となるかの選抜が行われる。それはナイフ1本だけを持って、3日以内に奴隷を1人殺してくることだ。この選抜試験においては仮に奴隷が試験者を殺しても咎められない。

 そしてそれに合格した者が、兵士としてマントをつけることを許され兵士として認められ、それ以外の者は兵士の従者となる。またその時点で初めて兵士となった者は服、といっても鍛えられない急所をカバーするビキニパンツだが、の着用が許される。兵士となれなかったものはその身体を隠す粗末な貫頭衣を着る事になる。

 兵士にとってその身体は自分の力の象徴であり、傷は勲章である。そして鋼の様に鍛え上げた身体は、下手な皮鎧より堅く、動きの妨げになる鎧など不要なのだ。

 毎年10万以上の子供が生まれるがその内兵士になれるのは2万、そして兵士になったものと同じ数だけの人間が殺されて死ぬ。怨嗟に満ち、血塗られた大地それが中央だった。


 その中央で今王太子を巡る争いが激化しようとしていた。中央にいる貴族は基本的には領地を持たない。といっても広い土地をすべて王が管理できるわけがなく、代官という形で治めている。貴族としての花形は土地を治める代官や政治をつかさどる官僚ではなく、軍を預かる将軍である。その将軍たちをどれだけ味方につけることができるか。それが、後継者争いのカギと言っても良かった。

 将軍たちは10人おり、それぞれ3万の兵を持っている。中央の残り20万は各地の代官が持つものだが、各地の代官は最大でも5千人程度の兵士しか持っていない。それでも他の地域の貴族に比べれば極端に多いが、奴隷を押さえつけるにはそれぐらいの規模の軍勢が必要なのだった。

 王太子を争っているのは、第4、第6、第7、第8、第9王子だ。はじめは拮抗していて決め手に欠ける各陣営だったが、その第6王子の派閥の1人、といっても本人は中央貴族のつもり、王族に近い者にとっては各地方の緩衝帯にいる、中央寄りの貴族という微妙な立ち位置の貴族が、他地方の貴族を攻めて逆に敗れたのである。第6王子にとっては、名前ぐらいは知っている程度の貴族だったが、派閥内の貴族が失態を犯したのは痛かった。しかも王は勝った方を認め昇爵したのだ。それ自体は普通の事だが、時期が悪かった。おかげで第6王子フーゾバルトは王太子争いから一歩退くことになった。


 そのフーゾバルト王子のところに1人の女性がやってきていた。まるで最上級のワインの様な透明感のあるそれでいて濃い赤い髪に、輝くようなルビー色の瞳を持つ女性だった。しかも中央貴族の感覚で言えば、貧相な体にぶよぶよの脂肪を纏った、見るに堪えない女のはずにもかかわらず、本能がこの女性を美しいと感じていた。

 ウィステリア公爵家からの使者でエナと名乗る女性はフーゾバルトと内密の話があるとの事だった。普通なら応じる事は無いのだが、今はとにかく味方が1人でも欲しい時だ。大ぴらに手を結ぶのはためらわれる相手だが、秘密裡に手を結ぶというのなら悪くはない。兵力はともかく財力は他の貴族など比にならない。女もそれが分かって1人で来たのだろう。フーゾバルトは密談をする部屋へと案内した。正体不明の相手だが、自分をどうにか出来るとも思えなかったため、1対1になろうが恐れはなかった。


「殿下におきましてご機嫌麗しゅう。先ずはこちらの品をお納めください」


 エナが差し出した箱の中には、金貨がぎっしりと入っていた。それをフーゾバルトは一瞥してテーブルのわきにやる。


「この部屋で余計な挨拶や礼節は不要だ。用件を話せ」


「では、単刀直入に申し上げます。同盟とは申しませんが、ウィステリア公爵家と協力しあえませんか?」


「ふん。協力するのは構わんが、どう協力しあうと言うんだ?」


 フーゾバルトは尊大な返事をする。弱みを見せることなど出来ないことだった。


「兵力をお貸し下さい。殿下の身に起こった事を、他の王子に起こしてみせましょう。さすればまた王太子になる目も出て来ましょう。もちろんウィステリア公爵家も兵を出します」


「随分と俺に都合の良い話だな。お前達は代わりに何を望むんだ」


「先ずは従卒で結構ですので、3人程引き抜かせて頂けませんか。私共の軍の隊長格として、戦力強化に努めていただきたいのです。そして、王となられた暁には友好とまでは申しませんが、これ以上の敵対行為は止めて頂きたいのです」


 エナはしおらしく話す。それを聞きフーゾバルトはニヤリと笑う。ウィステリア公爵家はこちらの従卒程度で隊長が務まるらしい。それに父親の締め付けも堪えているようだ。どうやら自分はウィステリア公爵を必要以上に警戒していたらしい。


「良いだろう。従卒の引き抜きも、軍の貸与も許す。失敗するなよ」


「感謝いたします」


 そう言って深く頭を下げたエナの口角が上がっていることに、フーゾバルトは気付かなかった。


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