西の大地にて3
「閣下は骨の荒野をご存じですか?」
テッセラがホムストに尋ねる。
「西部にいるもので知らぬ者は居ないだろう。そこに入れば、過酷な環境で死ぬか、そこの支配者であるサンドドラゴンに殺される。犠牲になったものの骨が散らばる広大な広野で、そこで生きているものはサンドドラゴンのみといわれる場所だな」
西部には地図上で広大な空白地帯が中央付近に有る。どこの水場からも遠く、たどり着けない場所だ。片道だけならたどり着けるだろうが、戻って来た者の話は聞かない。もしかしたら逃げ出した奴隷達は、たどり着くことだけはできたかも知れない。だが、そこで死んで伝承の通り骨になっていることだろう。
「では、そこは昔緑の大地だったという話は?」
「神話の話だな。傲慢な神が美しい景色を独り占めをするため、人間を追い出そうとし、神人と人との連合軍と争いになり、大地は焼き尽くされ、湖や川は人の流した血で真っ赤に染まった。神は人間を追い出したが、大地に草木がはえることはなく、湖や川は枯れ果てた。そしてそこにはドラゴンに姿を変えた神だけが残された。そんな話じゃなかったかな」
そのドラゴンこそサンドドラゴンと言われるものだ。ただ実際に見た者はもちろんいない。
「神話は実際とは違いますけどね。緑の大地は有るんですよ」
「まさか……」
ホムストはテッセラに疑いの目を向ける。
「もしあるとしたら、なぜ噂にもあがらないんだ。昔から数多くの者が挑戦したが全て徒労に終わっている」
「それはですね。3年ほど前までは無かったからです」
「はあ?」
3年ほど前まで無かった緑の大地が突然姿を現す?それは最早人間のできることではない。神の行いだ。
「まあ、実はそれほど大したことではないんですよ。元々中央付近には巨大な湖とその周辺に広がる緑の大地があったんです。そこに流れ込む川を地下に流し込んだ為に、地上が干上がっただけですね。元々は地下には地下の世界があったのですが、地上は干からび、地下の世界は水没し、人々は追い出された訳です。その水路を守っていたのがサンドドラゴンと呼ばれるドラゴンです。私はそれを元に戻したにすぎません。流石に川の流れを元に戻しても緑が復活するまでには3年の月日がかかりましたが。正確に言えばまだ元には戻っていませんね。草はともかく、森ができるのには数十年の時間が必要ですから。しかし、人が暮らすには十分だと思いますよ」
なんてことの無いようにテッセラは話すが、それには引っ掛かるところがある。
「サンドドラゴンがその水路を守っていたといったが、そのドラゴンはどうしたんだ?」
「もちろん倒しましたよ。流石に神の化身だけあってかなり強かったですよ。何せこのフェーゼノン王国全体で見ても10指に入りますからね。3年前の私では1人で倒すのは不安だったんで、助けてもらったぐらいです」
簡単にテッセラは答えるが、ホムストは理解が追い付かない。この目の前の女性が倒した?しかも3年前は1人で倒すのは自身が無かったといった。じゃあ今は?ホムストは目の前の女性が突然恐ろしく思えてきた。自分は何かとんでもないものと話しているのではないだろうか。
「これ以上は実際見ていただいた方が早いでしょう」
テッセラはそう言って、ホムスト達を出口に案内し、自分やメイド達も外に出ると、テントを畳む。そのテントも空中に消えた。
「さあ、行きましょう」
テッセラたちは空白地帯の方角へと向かう。本来なら水や食料の心配をしなければならないのだが、最初にあんなテントを見せられた後ではする気にもなれない。例え空白地帯に水が無かったとしても、西部地域を端から端まで突っ切る事すらできるだろう。
だが、心配するまでもなく僅か3日でホムストは信じられない光景を見る。それは見渡す限りの草原と、地平線一杯に広がり光り輝く巨大な湖だった。
「こんなに近くにこんな大地が……」
「結構近いでしょう。もっと広がりますよ。この大地はすべて閣下のものです。ただ、あまり時間が経つと流石に誰か見つけるでしょうね。この土地があれば奴隷の人たちを開放すれば、西部地域を支配することは難しくないのではないですか?」
「あ、ああ。しかし、奴隷たちを開放して、の作物を作り始めてもすぐに食料は取れないのではないだろうか」
ホムストの心配ごとなど些事と言わんばかりに、テッセラは自信満々に答える。
「もちろん全てウィステリア公爵家が援助します。例え閣下が全ての奴隷をすぐに開放しても大丈夫ですよ」
ホムストは思った以上の味方の強大さに、恐怖を感じると共に歓喜に震えた。
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