西の大地にて2
ホムストは5人の供を連れて地図の場所へと向かった。本来なら自分と爺だけで行こうと思っていたのだが、これ以下は譲れないと皆が言い張ってらちがあかなかったのだ。罠を張っているなら例え100人連れて行こうが意味がないだろう。仮に自分だけ逃げ出すだけの時間を作ったとしても、その後真っ直ぐには帰れない。あの秘密の場所を見つかるわけにはいかないのだ。そして、敵をまいた頃には自分の命も尽きる場所まで来てるに違いない。
地図で示された場所は、隠れ場所から2日程馬で進んだ場所だった。目印となる岩山にほど近く、夜に明々と灯りが灯っていたのでわかりやすかった。だがこの辺りはサンドワームが出没する場所だ。本来ならこんな目立つ事をしていたら1日とて保たない。なのに無気味な事に周辺はサンドワームどころか、他の大型の生き物の気配はしなかった。
警戒しながら灯りの場所に近付くと、周りを灯りに囲まれて、小さな一人用のテントが場違いに有った。
斥候役の1人がテントの入り口の布をめくった途端固まってしまう。仕方がないので、ホムストは自分がいって中をのぞき込むと、斥候役と同じように固まってしまった。
空間魔法と言うのは知っている。収納魔法がその代表的なものだ。だがそれも無限という訳ではない。何も無い場所から取り出すのなら、リュックサック位の容量が有れば御の字といったところだろう。同じようにテントを拡大するにしても、せいぜいが宿屋の一室位の広さなものだ。
だがこのテントの中は違った。部屋ではなくちゃんとしたエントランスホールが有り、廊下が伸びていた。廊下にはいくつも扉があり、一番奥にメイドが立っている扉が有った。まるで貴族の屋敷が丸ごと入っているかのような印象を受ける。これだけのものが用意できるのなら、補給の概念が変わってしまう。
ホムスト達は恐る恐る中に入り奥へと進む。奥の扉の前まで来ると、メイドが一礼して扉を開く。中の部屋には大きなテーブルが据えてあり、その上には見たこともないご馳走が並べられていた。
そしてそこには艶の有る黒髪と黒曜石を思わせる瞳をした、美しい女性がいた。
「ようこそお越し下さいました。歓迎いたしますわ。ホムスト・エル・バンクルス公爵閣下。私はテッセラと申します。お見知りおきを」
そう言って女性はカーテシーを行う。その仕草は息をするのを忘れるほど美しかった。
「ここまでの道のりは大変でしたでしょう。先ずはお食事をお楽しみ下さい」
その言葉と共にメイド達が椅子を引く。ホムスト達は雰囲気に飲まれ、警戒も忘れ椅子に座る。自分達の格好が酷く場違いなように感じられる。本来場違いなのは相手なのにも関わらずである。
ホムスト達は言われるがまま、料理を口にする。先ずは毒味を、と言い出しそうな爺も何も言わなかった。そもそも毒殺するには手が込み過ぎている。
「日焼けした男も魅力的よね。他の地域には居ないタイプだわ。身体もよく引き締まってそうだし、性格もよさそう……」
テッセラがブツブツと自分を値踏みするような事を言っているのが僅かに聞こえる。独り言の様だったので、一々聞くのも何だと思ったホムストは、食べることに集中した。ひとしきり料理を堪能して落ち着いた後、ホムストは尋ねた。
「あなたは私の望みを知っているようだが、一体どうやって叶える気なのだろうか?このテントのようなものがまだ多く有り、大兵力が隠れているのだろうか?」
水の関係から、西部は貴族が持っている兵は他の地域と比べて少ない。西部最大の貴族だったバンクルス公爵家ですら、専業の兵士は1000名程だった。鉱物を発掘し、金で食料は買えても、水までは無理だ。川の泥水は農業には使えるが、飲み水は井戸に頼っている。
「まあ、それも出来なくは無いですけど、私は閣下に領地を持って貰い、兵士を率いて欲しいのです」
「?。仮に領地を貰ったとしても、私を公爵と慕う民は1000名程度。兵士も商隊を襲うぐらいならともかく、公爵家を復興させるなど夢また夢だ」
ホムストは自嘲気味に笑う。
「民は沢山いますよ。鉱山に無理やり連れてこられたものが、何十万人も。閣下が境遇から救い出せば、閣下を慕うでしょう。そしてその人数をもってすれば、今の公爵家を潰す事など造作もありません」
「いや、確かにそれはそうだが、そんな人数を養う土地は西部にはない。祖父の時代、西部のすべてを合わせても60万人ほどだったと聞いている」
テッセラは口元を扇子で隠し、フフフッと笑う。
「それがあるんですよ。私は閣下をそこに案内するために来ました」
にわかには信じられないが、嘘を言っているようにも思えなかった。
「仮に貴方の言う事がすべて本当だとして、見返りは何だろうか」
見返り無しにそんな事をするとは思えなかった。
「それは結婚、コホン、ウィステリア公爵家との同盟ですわ」
ウィステリア公爵家といえば同じ公爵とは言え、最盛期のバンクルス公爵家と比較しても、比較にならない程の大貴族だ。そこが同盟を求める理由など一つしかない。中央に反旗を翻そうとしているのだろう。自分とて中央に一泡でもふかせられるものならふかせたい。
「先ずは、貴方が言う領地に案内してもらってからだな」
ホムストはとりあえず話に乗ることにした。
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