西の大地にて1
西部の大地。ここは降水量が少なく、砂漠や荒野が広がる大地である。一見すると神々に見捨てられ、人が住めない大地に見える。だが実は地下にはかなりの水が有り、所々に湧き出していて、オアシスを作っていた。また、中央地域から乾燥地帯を突っ切り、西部の端へと流れるロアナ河周辺では灌漑農業がおこなわれており、河口付近はかなり肥沃な土地でもあった。
しかし、それではこの西部の人口は養えない。ここのほとんどの地域は北部以上に農耕に適さない土地なのだ。ではなぜ人が集まっているのか。実はここは鉱物資源の宝庫だった。金、銀、銅などの貴金属だけでなく、ダイヤモンド、ルビー、サファイヤ、エメラルド、などの宝石も産出した。何よりも重要なのはオリハルコン、ミスリル、アダマンタイトなどの金属はここでしか産出されなかったのだ。
ここを治める貴族はそれらの鉱物資源を売り、食料と奴隷を買っていた。奴隷をどうするか。文字通り死ぬまで鉱山で働かされるのである。生きていくのに最低限の水と食料を与えられ、過酷な環境で働かされる。奴隷たちにとってはまさに地獄のような土地だった。体力が尽きた物から倒れ、介抱されることもなく死んでいく。死体は大きな穴に放り込まれ、それを食って生きている生物たちに骨になるまで食べられる。そして骨は風化し白い砂となる。鉱山のそばにはそんな白い砂で埋め尽くされた場所が何カ所もあった。そしてその細かい砂となった後は、再度掘り出され、肥料として畑に蒔かれるのである。
それに対し貴族たちは、オアシスや、川べりの美しい土地に住み、たらふく食べ、好きなだけ水や酒を飲み、享楽に耽っていた。
反乱が起きなかった訳ではない。そして貴族たちはそれを抑えるのに十分な兵力を持ってはいなかったが、そもそも生きていける場所が少ないのだ。貴族たちは水辺を守っていればよかった。鉱山の周りには水は殆どない。あっても鉱毒におかされている。1週間もすれば大体の反乱は収まった。奴隷たちの水不足による内紛そして死によって。
貴族たちは面倒だと思いながら、新しい奴隷を買い、その奴隷たちに、やせ細り干からびた死体を片付けさせるのだ。そして奴隷たちはその身の境遇を嘆く日々を送る。それが西部の日常だった。
しかし、極まれに貴族が支配していない隠れた水源を見つけ、潜んでいる元奴隷や中央に反逆した貴族もいる。ホムスト・エル・バンクルスもその一人だ。バンクルス家は元はこの西部でもっとも肥沃で豊かな地区。ロアナ河河口周辺を治める公爵だった。その時の西部の人口は60万程度。その内約10万をバンクルス公爵家が占め、食料や水は自給していた。だが祖父の代に鉱物の大増産計画が行われた。余りの非道な行いに異を唱えた祖父は、公爵の位をはく奪され奴隷として死んだ。一族は散り散りになり、多くは砂漠でのたれ死んだ。だが、公爵家だけに引き継がれてきた秘密の場所に籠り、再起を図る者達がいた。それがホムストである。
10人ほどの集団が岩山に向かっていた。そして、岩山に着くと、あるリズムで岩肌を叩く。すると岩肌に亀裂が入り、横にずれ、洞窟が現れた。男達が中に入ると、再び閉まり、周りの岩肌と見分けがつかなくなる。
巣窟を進んだ先は、まるで別世界だった。岩山は実は上が無く、その中には日の光が入り込んでいる。中央には水が湧き出し泉を作り、小さな森があり、畑もあった。そこには大勢の人が暮らす空間があった。
「ホムスト様!」
気が付いた人々が近づいてくる。
「今回は随分と大量ですね」
ホムスト達は自分の馬の他にも、荷物を沢山乗せた馬を連れていた。幾ら広いと言っても岩山の中である。どうしても不足する物はある。嗜好品の類はその最たるものだ。ホムスト達は手頃な輸送隊を見つけ、襲ってはそう言った物を手に入れていた。それに砂漠といってもまるで生物がいない訳ではない。砂漠に適応した蛇やトカゲの様なものも居る。そう言ったものも捕まえていた。限られた空間では動物の肉は貴重なのだ。
「ああ、だが不味い事に巻き込まれるかもしれん」
大量の物資を得たというのに、ホムストの表情は優れなかった。
「何か気になることでも有ったのですかな?」
ここにいる他のものと同様に安っぽい布を巻き付けた服を着ているが、どことなく品が有る老人が話しかける。
「ああ、この荷物を持っていた者達だが規模の割に人数が少なくてな。よほど腕に自信があるのかと思ったら、こちらが近づくや否や、荷物を置いてすぐに逃げ出したんだ。最初は何か罠が有るかと慎重に近づいて調べたんだが、出てきたのはこの手紙だった」
そう言って、ホムストは胸から一通の手紙を出し老人に渡す。老人はそれを読み目を開く。その手紙にはこう書いてあった。
”勇猛高き、バンクルス公爵様。もしあなたが望みをかなえたいとお考えなら、同封した地図のしるしの場所までお越しください。1週間そこでお待ちしております。同行者の人数はお任せします。心ばかりの贈り物としてこれらのものを差し上げます”
「どう思う?」
「これは罠でございます。若様、行ってはなりません」
老人は強い剣幕で止める。
「俺もそうは思うがな。だが、俺の正体を知り、野望も知っているんだ。そこに行ったらどんなことが起きるか知ってみたい」
ホムストの望みは公爵家の再興だ。だがそれは叶う事などないはかない夢だと知っている。この隠れ家にいるのは、男爵家にも及ばない僅か1000人足らずの人間だ。普通に考えればどうしようもない。だが、その夢がもしかなうというのなら、どんな危険も冒す価値があると思っていた。
「しかし……」
「どうせこのままではバンクルス家は滅ぶ。ならば賭け金があるうちに賭けに出た方が良い。それが自分の命なら失っても後悔はない」
ホムストの顔を見て、老人は何を言っても無駄だと感じたらしい。
「では、一つだけお願いがございます。この爺をお連れください。これだけは譲れませぬ。いざとなったら盾替わりぐらいにはなりましょう。そうすれば、私は亡き公爵様との約束を破ることなくあの世に行けます」
約束とはホムストの祖父と父との、生きている間公爵家を守り抜くという約束だ。
「爺も頑固な事だ」
ホムストはそう言って苦笑いした。
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