東の大地にて2
取りあえず敵ではないと判断したシュナットは、警戒しながらも城門を開ける。入ってきたのは500人を超えるだろうという人数の兵士だ。ただ人数の割に装備には統一性は無く、女性も多い。個人戦を重視した傭兵のような印象を受ける。
「お前達は何者だ?」
シュナットはトゥリアと名乗った女性に聞く。
「援軍、というだけでは納得してもらえませんよね。私はウィステリア公爵家に仕えている者です。今回女公爵閣下直々の命により、リオレネイア男爵閣下のお味方になる為に参りました」
「ウィステリア公爵家?あの南部の大貴族の?」
シュナットは驚く。ウィステリア公爵家はもう一つの王家とも言われるほどの大貴族だ。それが本当ならこれほど心強い事は無いが、そんな大貴族が東部の端にある男爵家ごときを気にするだろうか。連れてきている兵士も公爵家の兵士とは思えない。ただ、それは表立って味方できないため、傭兵をかき集めたと考えれば納得できない事は無い。
500名という人数も中央軍に味方するには少なすぎるし、もし中央軍に味方するなら、堂々と公爵家の紋章を掲げていたはずだ。タイミングからかんがえて、あの巨大な炎の竜巻で中央軍を壊滅させたのは彼女たちだろう。少なくとも中央軍の敵と考えても良さそうだった。
「細マッチョの若いイケメンに、マッチョなおじ様、大男に、ごっつい感じの男、わお、より取り見取り、これは当たりかも……」
シュナットが色々考えている間に、トゥリアはブツブツと呟き、まるで男たちを物色しているように見ている。その顔でウインクの一つでもすれば、大抵の男はものにできるだろうに、とシュナットは思わず苦笑いをする。
「トゥリア殿。味方をしていただくのは有難いが、私の軍は見ての通りだ。もう一度中央軍が来れば壊滅する。あの炎の竜巻が何時も出せるのなら、話は別だが……」
あのような魔法がそうポンポンと使えるものなら、話ぐらいは聞いた事があるはずだし、人を人とも思わない中央軍が使わないとは思えなかった。
「トゥリアで良いですよ。閣下の思われている通り、あの炎の竜巻は起こそうと思ってもなかなか起こせるものではありません。条件が揃わない事には起きないのです。今回はちょっと手を加えれば起きそうだったんで、やってみたら予想以上にうまく行っただけですね」
「閣下はつけなくても良い。言葉遣いも普通で構わない。本来なら私が頭を下げねばならないところだろう。辺境のたかが男爵の若造だからな」
公式的には片や貴族の陪臣と思われる人物。片や正真正銘の貴族。貴族の方が偉いのが当たり前だ。だが、陪臣といえど片や500名の兵士を公爵家から預けられるもの、しかもただの公爵家ではない、フェーゼノン王国随一の力を持つ公爵家の陪臣と田舎男爵である。対等どころかこちらが下に見られてもおかしくない関係だった。
「まあ、素敵な提案ね。私としてもそうした方が話しやすいわ」
そう話すトゥリアは、正しく人に命令することに慣れた者の雰囲気を醸し出す。言っていることが本当なら、公爵家の中でもかなり上の人物とみて良さそうだった。
「話は戻るがあの竜巻が出せないなら、どうやって中央軍と戦うつもりだ?ウィステリア公爵家の目的はなんなんだ?」
シュナットが聞き及ぶ限り、新しいウィステリア女公爵はとても王家に逆らうような人物とは思えなかったし、500名の兵士は確かに心強いが、本気を出した中央軍と戦うには少なすぎる。それは戦った自分が身にしみて感じたことだ。
「この512名の兵士は並の兵士じゃないの。まあ、それは実戦で証明してみせるわ。中央はそうぽんぽん万単位の軍は送れないから大丈夫。ウィステリア女公爵閣下の目的は単純。中央軍が出張ってくる前に貴方に東部を統一してもらい。中央軍に対抗できるだけの力を持ってもらう事。もちろん単独じゃないわよ。しばらくしたらウィステリア公爵家は公然と王家に反旗を翻すわ。その時にウィステリア公爵家に王家が集中できない程度の力を持って欲しいの」
「それはまた……」
トゥリアの話は壮大だった。自分も確かに反乱は起こしたが、親族を殺され怒りにかられたところが大きい。勝てないまでも意地を見せたかったのだ。何をされても従順に従う訳ではないという意地を。それは負けても人々の記憶に残る事だと考えたからだ。それに例え東部を統一したとしても、それだけで王家と対抗することはできない。だが、トゥリアの言う通りウィステリア公爵家が反旗を翻すのなら話は別だ。
「取りあえず、私が連れてきた軍のデモを兼ねてレコンシャドス公爵家を潰しましょう」
「はあ」
トゥリアが何気なく言った言葉にシュナットは間の抜けた返事をしてしまう。レコンシャドス公爵家は東部をまとめる最大の貴族で、公爵領の人口だけでも約15万と東部の1割以上を占める。兵士の数だけでも5000人近い。単純に10倍の兵力である。しかもレコンシャドス公爵家の兵士は精強で、中央軍と比べても遜色はないと言われるほどだった。
「普通ならもっとじっくりやるんだけど、今公爵家はほぼ空っぽなのよね。貴方が反乱を起こしてくれたおかげで疑心暗鬼になってね。公爵軍は他の貴族ににらみを効かせるために散らばってるの。こんなチャンスなんてないじゃない。チャンスは生かさないとね」
そう言ってニッコリ笑うトゥリアは、とてもそんな物騒な事をいう人物とは思えなかった。
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