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ウィステリア公爵令嬢奮闘記~転生したのは破滅間近の死にゲー世界  作者: 地水火風


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東の大地にて1

 東部の大地。ここは適度に雨が降り、農耕に適した平原が広がり、フェーゼノン王国でも随一の土地の豊かさを誇る。ここだけは、もうおとぎ話になってしまった神と人間が共存していた、かつてのフェーゼノン王国が残っている様だった。

 しかしそれは見かけだけだった。豊かさゆえに、税の徴収は過酷で、人々は平地に育つ作物も、森が与えてくれる多くの恵みにもありつけないでいた。

 他の地域と違い、かってに食物を食べないように、常に支配者の監視が付いている。檻こそ無いものの、人々はまるで牢獄の囚人のような暮らしを強いられていた。

 そんな支配に異を唱えた貴族がいなかった訳ではない。だが、中央貴族の圧倒的な武力によって潰されていった。そんな中東部の端にある男爵領が反旗を翻した。たかが男爵領、兵士はかき集めても100人に満たない。すぐに潰されるだろう。多くの人々は気にも止めなかった。

 だが予想に反し、男爵軍は軍略に長け中央軍を退けたばかりか、隣接していた子爵軍を破り、更に伯爵軍を破って拡大していった。流石にここにきて中央も本腰を入れ、1万を超える大軍を派兵した。男爵軍は数の暴力に負け、次第にその版図を縮めていき、遂には残すところ領都のみとなった。


 領都のあちらこちらで火の手が上がっている。リオネレイア男爵の居城は岬の断崖絶壁の上に建てられており、その下に町が広がっていた。男爵領にしては堅牢な城を構えている。これは元々ここが男爵領だったわけではなく、伯爵領だったことに由来する。

 大軍で一挙に攻められないため、何とか持ちこたえている。だが、それにも限界が来ていた。


「シュナット様。非戦闘員の退避完了しました」


 部下が報告に来る。シュナット・シズ・リオネレイア、この男こそが反逆を起こし、一時期とは言え侯爵領に匹敵するほどまでに版図を広げた男の名だ。まだ10代の線の細い、中性的な顔立ちをしたハンサムな男だった。


「ご苦労だったナバム。では最後の命令だ。残りの者を連れて逃げよ。そして、中央軍とて無敵ではない事を語り継げ。残った者ならそれが出来よう。そうすればいつかは我が一族の無念を晴らすものが現れようぞ。男爵の身でこれだけのことが出来たのだ。あと少し同調する者が居たなら……いや、いまさらそんな事を言ってもせんなき事だな」


 そう言って男は城内の窓から、燃える城下町を眺める。大軍の利がうまく生かされない市街戦も行ったが、焼け石に水だった。だが、非戦闘員を逃がせたのは大きい。中央軍の者はこのリオネレイア男爵領のものを壊しつくし、殺しつくすつもりだったからだ。


「ははっ、ご冗談を、シュナット様。我々の戦いは先に逃がしたものが語り継いでくれます。私は最後までお供しますよ。どうせ私は顔がわれてます。今からの人生こそこそ隠れて暮らすよりは、ここで一花咲かせたいものです」


 そう言って笑う男は身長2m越えの、鎧の上からでも筋骨隆々たる姿が容易に想像できるような男だった。


「そして、私と同じ考えの者は1人や2人ではありません。もう一泡ぐらい食らわせてやれますぞ」


 そう言ってナバムは部屋の外を指さす。そこには見る限り廊下にぎっしり入り込んだ者達がいた。


「よくもまあ、物好きな者がこれだけいたものだ。ただ単に死ぬだけだぞ」


 シュナットはあきれたように言う。


「なに。このままでは死ぬに死にきれないものばかりでございます。縁者が居る者は、本人が望もうと、強制的に退去させております。ここにいるものは私を含め、死んでも悲しむ者が居ないものばかりでございます」


 ここにいるのは男爵領にいたものばかりではない。ある者は親を、ある者は子を、ある者は恋人を、貴族や中央軍に殺され、孤独になったほかの領地の者達も大勢いる。そういうものは、リオレネイア男爵に一筋の希望を見出し、はせ参じたのだ。

 それを率いるシュナットとて天涯孤独になった身である。姉は嫁ぎ先の伯爵家で原因不明の死を遂げ、死体も送られてこなかった。抗議をしに行った父と兄は首から上だけしか返ってこなかった。母はそれを見て倒れそのまま衰弱して亡くなった。婚約者は面倒に巻き込まないため、シュナットの方から婚約破棄をしている。残されたのはシュナットだけだ。


「何人残っている?」


「そうですなあ。約150名といったところでしょうか」


 シュナットの問いかけにナバムが答える。


「それだけいれば、後一泡ぐらい吹かせられるか」


 シュナットは再び、燃える町を見る。町の中央広場では、大勢の中央軍たちが集まって騒いでいる。街のシンボルや、民衆が大切にしていたが持ち出せなかったものが、壊され、燃やされている。町の人々を先に逃がしたおかげで、残酷な殺人ショーが行われていないことが救いだった。


「ん?」


 それを眺めていたシュナットは妙な違和感を覚える。何だか炎が広場を中心として円を描いているように見えたのだ。


「どうかしましたかな」


 ナバムが聞く


「炎の燃え方がなんかおかしい。それに家が燃えているにしては勢いがありすぎる気がする」


 そう言われてナバムも窓から外を見る。確かに炎は少し勢いが強いような気がする。それに通常は風に流され一定方向を向く炎や煙が、円を描いている。

 暫く見ているうちに円は渦となり、巨大な炎の竜巻となる。中央広場にたむろしていた中央軍が気付いた時にはもう遅かった。その炎の竜巻、この世界では知られていないが、火災旋風は中央軍を丸ごと飲み込み、焼き殺していく。それは今までの報いを受けているかのような光景だった。

 

 そしてその炎の竜巻が収まった後、城へ駆けてくる集団が現れた。シュナット以下城に残った者に緊張が走る。そして急いで自分の持ち場へと走った。だが、現れたのは敵ではなかった。

 集団の先頭の者がフードを剥ぐと、そこから現れたのは深緑の髪にエメラルドグリーンの瞳を持つ美しい女性だった。


「私の名はトゥリア。リオレネイア男爵にお味方せんと、はせ参じました!」


 この状況で味方が現れる?シュナットは夢かと思った。


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