シャガーガン伯爵領侵攻2
ジフロネット率いるウィステリア公爵軍が領都周辺に来た時に奇妙な集団に出会った。それなりの服を着ていながら痩せこけ、ふらふらと歩いている集団だ。不審に思い偵察隊を出す。そして偵察隊から敵ではないとの合図を受け取ると近づいていく。
その不審な集団の正体は領都を追い出された住民だった。
「ジフロネット様。どうやらシャガーガン伯爵は住民を全部追い出し籠城を決めたようです」
「住民を全部追い出しての籠城戦ね……聞いた事もないが、成功するものなのかな?取りあえず収穫時期まで耐えられるか様子を見ますか」
ジフロネットは暫く様子を見ることにする。何せこちらは焦る事は無いのだ。
「ジフロネット様。モーナット商会が食料品の販売に来ました」
「あ、そう。では全部買っておいて」
モーナット商会とは王領内にあるアナトリ商会の系列の商会だ。ウィステリア公爵家から受け取った軍資金でモーナット商会から食料を買う。モーナット商会はアナトリ商会から食料を買う。アナトリ商会はウィステリア領民から食料を買う。ウィステリア公爵家はアナトリ商会から利益を、領民から税金を受け取る。お金も物もぐるぐる回り、関わった誰もがハッピーになる素晴らしいシステムだ。
「いやはや、補給がこんなに楽とは。自分はまだまだ女公爵閣下を甘く見てましたかね」
ジフロットは小さな声で呟く。
結局ウィステリア軍は領都周辺の町を押さえたまま、静観を決め込んだ。
「ええい。奴らはなぜ攻めてこぬ!ギルフォード男爵領にはあれだけの兵を養う余裕などないはず。はっ、もしやウィステリア公爵家を裏切ったというのは嘘で、女公爵が援助しているのか」
シャガーガン伯爵は偶然にも正解にたどり着いていた。しかし斥候の報告がそれを否定する。
「閣下申し上げにくい事ながら、補給物資は王領の方からなされているようです。恐らくフーゾバル殿下以外の誰かから援助を受けていると思われます」
フーゾバルトはシャガーガンが入った王子の派閥である。
「如何なさいましょう。もうすぐ収穫の時期です。収穫物を手に入れられたらこちらの方が先に食糧不足になります」
「そんな事ぐらい分かっておるわ!」
シャガーガン伯爵は顔を真っ赤して怒る。そして椅子に腰を腰を下ろし、暫く考える。自軍の食糧不足は深刻だ。穀物倉庫に食料はあったがそれをパンに加工できる者が居なかった。冷蔵施設を動かす者が居なくなったため生肉は腐っていた。加工品をかき集めて食いつないでいる状況である。士気も下がりきっている。
「よし決めたぞ、収穫の時期を狙って襲撃する。その時が奴らがこの領に散らばる、もっとも警戒が薄い時期だろう」
シャガーガン伯爵の常識では税とは納めるものではなく、軍を使って収奪するものだ。だが、シャガーガン伯爵領をほぼ手中に収めたウィステリア軍にとっては、税とはその地域を代表する物が納めるものである。それに、見るからに収穫は期待できそうにないので、そもそも期待していない。だから収穫物を手に入れるために軍を散らばらせることなどしなかった。
したのは、攻撃を誘発する為、軍を散らばらせたように隠したことである。これは現地から情報を仕入れたレルニートの発案によるものである。レルニートは別部隊を率いているが、大量のマジックアイテムの手紙のおかげで緊密に連携が取れている。
シャガーガン伯爵が全軍を率いて攻勢に出たのは収穫が終わりかけたころ、包囲して2ヶ月が経とうという時だった。もう何とか食いつないでいた食料もなくなり、敵の物資を奪わなければ飢えて死ぬという状況だった。
シャガーガン伯爵軍が領都を出たことは斥候とマジックアイテムの手紙によって素早く全部の部隊へと伝わる。
シャガーガンが襲い掛かったのはジフロネット率いる軍が駐留している町だった。本来なら木柵があるだけの町だったが、2ヶ月の間に低いとはいえ土塁と、浅いとはいえ堀が出来ていた。それだけで格段に攻めにくくなるのに、攻められている方が格段にレベルが高いのである。シャガーガンが攻めあぐねている間に、敵増援の知らせが入る。
「ばかな、なぜこんなに早く増援が……」
斥候がどんなに急いだとしても、分かれた部隊に情報が伝達されるのに2日はかかるはずだった。これではまるで、即座に情報が伝達された様ではないか。まさにシャガーガンが思いついた通りの出来事をウィステリア公爵軍はやっていたのだが、残念ながら思いついたときにはもう遅かった。
シャガーガン伯爵軍はウィステリア公爵軍に完全に包囲され殲滅された。
王都にギルフォード男爵及びレヘンシア騎士爵からの贈り物が大量に届く。そしてこれからも王家に忠誠を誓う旨の言葉が伝えられた。国王はご機嫌だった。
「うむ。ギルフォード男爵は新たに伯爵の地位を、レヘンシア騎士爵には男爵の地位を与えよう。シャガーガン伯爵の領地はそのままギルフォード伯爵に与えるものとする」
このフェーゼノン王国において攻めておきながら、逆に攻め落とされるなどは、恥以外何ものでもない。情報を聞く限り王子間の権力争いの代理戦争だった様子。ならば勝った方を賞賛するのは当然の事といえた。更に言えば忌々しいウィステリア公爵家とも距離を置き始めたとか。
そのウィステリア公爵家は前年比2倍の税を納めてきた。この税を払う為税率をあげたらしい。それに加えご機嫌取りの為か、闇の中で青白く輝く不思議な金属で出来たネックレスまで送ってきた。言う事無しだ。
リンベユガン国王は自分の計画が順調に進んでいることに満足した。
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