ギルフォード男爵領防衛戦
さて、臥せった事になり私は久し振りに自由になった。本来はこういう時の為に影武者としてホムンクルス達を創ったのだが、それぞれに割り振った仕事が増えすぎて、最近はなかなか代わることが出来ないでいた。それでも下手に自分で何でもやろうとして、過労死するよりましである。
早速私はギルフォード男爵領の領都が眺められる丘の上に転移する。領都と言っても、最近ようやく住民が500人を越えたばかりの村に毛が生えたような町だ。町を守る壁は石造りの立派なものではなくいわゆる土塁である。
ギルフォード男爵はこちらの予想通り、街の守りを優先して籠城していた。野戦で瞬時に壊滅できるならともかく、二手に分かれられたら、少数の兵でも町はすぐに陥落してしまう。土塁といえどそれを利用して巧みに防戦をしていた。未だ決定的なほころびはみせていない。民間人と思われる人々も、あるものは兵士の治療をし、あるものはなれない弓で矢を撃っていたりしている。
一方シャガーガン伯爵の軍の方は完全に侮っていたのか、それとも進撃速度を重視したのか攻城兵器を持って来ていなかった。投石機が数台有ったらもう決着がついていたかもしれない。また略奪を目的としているためか火矢も利用していない。勝ったとしても手に入れたのが燃えカスでは意味が無いのだろう。
その辺りのさが戦いに出ているようだ。だが、やはり劣勢なのは確かだ。援軍の到着まで急いでも編成2日に移動3日の計5日。付いてすぐ戦闘はできない可能性も考えて最短で6日。正直厳しいというのが私の感想だ。何せ防御側はほぼ全員が戦闘に参加していて、交代要員が殆どいない。あと2日は気力で何とかなるにしても、3日は難しい。そして一旦崩れたら立て直しは無理だろう。援軍が届くまでの時間稼ぎが必要だ。
私は考える。シャガーガン伯爵の首を取れば一発で解決する。だがそんな事をすれば犯人探しが始まる。私にたどり着く可能性は低いが、仮に邪神レンバセトが手を貸していた場合はバレる可能性がある。同様に派手な範囲魔法で兵力を削るのも、指揮官クラスを次々に討ち取るのもやりたくない。
ギルフォード男爵には悪いが、ここは目立たない助力で踏ん張ってもらって、援軍まで持ちこたえてもらう事にする。
私は町の物陰に転移すると、伝令の兵士に化け、ギルフォード男爵の元に向かう。
「ギルフォード男爵閣下これを」
私は折りたたまれた手紙を差し出す。手紙には私がセシリアであることと、内密の話がしたいとの内容が書かれている。
ギルフォード男爵は少し驚いた顔をすると、横にいる次席指揮官に指揮を委ね、臨時の天幕に案内する。私はすぐに遮音の結界を張る。
「失礼とは思いますが、本当にセシリア様なのでしょうか?」
ギルフォード男爵は未だ半信半疑といったところだ。格好も格好だし、状況も状況なので疑っても仕方がない。まさか戦のさなかに女公爵が単身で乗り込んだ、というのをすぐに信じる方がおかしい。ギルフォード男爵も私が色々なところに転移できると言う事を知っていなければ信じなかっただろう。
「ええ。信じられないのは無理もありませんが本人ですよ」
私は声だけを元に戻して答える。少女の声で話すおじさんというのは、少し気持ち悪いかもしれないが、ここは勘弁してもらおう。
「こんなところにまで来て下さるとは……」。
ギルフォード男爵は感無量といった感じだ。
「ゼラント卿。手短に話しますね。先ずこちらに援軍が向かっています。表向きは公爵家に反逆したものですが、れっきとした私の命令で動いている部下です。しかし、到着するまで最低6日間は持ちこたえてもらわなければなりません」
それを聞くと、男爵の顔が曇る。6日は無理だと思っているのだろう。疲労が回復できる魔法があれば良いのだが、そんなものが有れば私がとうに使ってる。出来るのはカフェインとかでごまかす程度だ。
「そこで、戦力の有効活用をしていただくために幾つかの品物をお持ちしました」
「戦力の有効活用ですか?」
ギルフォード男爵は怪訝そうな顔をする。これ以上どうしろと、という思いだろう。
「まず弓です。民間人が撃っているので命中率は期待できませんが、あの弓では威力が低すぎて牽制にもなりません。なので、きちんとした弓を持ってきました。次にポーション類。怪我をした兵士に使えば少し余裕ができるでしょう。後は幾つかのマジックアイテムの武器と防具。こちらは貸与になりますが、これを使ってハスバル卿及び10名ほどの選抜隊が切り込めば、敵の勢いをそぐことが出来るかと思います」
私が話し終わると、ギルフォード男爵は感動に震えている。
「このご恩は必ずや……」
私は男爵の言葉を手を挙げて遮ると、天幕の陰で、収納魔法を使って持っているものの中から目的のものを取り出す。
「その言葉の後は、勝って生き残った後にお聞きいたしましょう。それでは」
そう言って今度は、シャガーガン伯爵の軍から少し離れた草むらに転移し、王家の兵士に化ける。王国軍といえないのは、一応王国軍にはウィステリア式の装備をしている者も居るためだ。しかし、見ている分には良いが、幾ら幻影と言ってもビキニパンツにマントだけという格好は恥ずかしい……その恥ずかしさを押し殺し、サモンアニマルで馬を召喚し、更にクリエイトオブジェクトで馬車を作成する。そして中にこれまた収納魔法を使って持っているものの中から食料や酒などの嗜好品を取り出す。
私は馬車に乗り、シャガーガン伯爵の軍に向かう。
「止まれ!何の用だ」
途中で当然ながら兵士に止められる。
「国王陛下からシャガーガン伯爵閣下への差し入れでございます。伝言もありますのでお取り次ぎを願いたい」
私はこれまた魔法で作った王家の伝令の証を見せる。これは非常に特殊なもので、魔法で作れるのは私かホムンクルス達ぐらいなものだ。なので、疑いもされずシャガーガン伯爵のところまで案内される。
「シャガーガン伯爵閣下に置かれましてはお勤めお疲れの所と存じます。国王陛下より補給の品をお持ちいたしました」
「おお!流石は国王陛下だ。うむ、このシャガーガン、国王陛下の命令に忠実に励んでいると伝えよ」
なるほど、やはり国王からの命令らしい。違っていたら、認めてくださるのか、とかそういう反応だったろう
「はっ、もちろんでござます。それと国王陛下より伝言が。ウィステリア女公爵はこの侵攻の知らせを受けショックで臥せったとの事。つきましては閣下に置かれましては、この後を考え兵力の温存を優先して、戦ってほしいとの事でございます。時間はかけても良いと。ですので差し入れはその為の補給物資がメインでございます」
「ふむ。確かにこの程度の敵に対しては消耗しておるかな。あいわかった。陛下にはよろしく伝えよ」
「ははっ」
私は一礼し、シャガーガン伯爵の元を去って行く。これで恐らく援軍到着までは何とかなるはずだ。取りあえず万が一の時の為に使い魔を残し私はこの地を去った。
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