女公爵、畳みかけられ……ませんでした
私が気が付いた時、そこは別邸の私の寝室だった。辺りを見渡すとティータが心配そうに立ってる。
「セシリア様。大丈夫でしょうか?」
2人きりなのでティータは名前を呼んでくれている。女公爵に就任した時、お嬢様のままではいけないといわれたので、名前で呼ばせることにしたのだ。もちろん誰にでも呼ばせている訳ではない。ティータだって他の者が居る所ではウィステリア女公爵閣下か、ウィステリア女公爵様だ。最初は固辞されたが、プライベートの時まで閣下呼ばわりされると、なんかプライベートのような感じがしないので押し切った。
「ええ、大丈夫よ。申し訳ないけど席を外して貰えないかしら」
ティータは心配そうにしていたが、結局何かあったらお呼びくださいと言って、別邸から出て行ってくれた。
ティータが別邸から出て行ったのを確認すると、私は地下室へと降りていく。地下室にはホムンクルス達が揃って私を心配そうに見ている……なんてことはなく皆吹き出しそうな顔で見ている。
「何か言いたそうね」
私は軽く睨む。
「いやー、スプラッターは苦手だって言っていたけど、まさか気絶するほどだったなんて、ちょっとびっくりしたわ。それに、きゃっ、だなんて……ぷぷっ」
スプラッターが苦手というのを聞いていた、テッセラが吹き出すのを我慢しながら言う。
「だいぶ慣れたと思ってたんだけど、あれは強烈だったわ。流石は王家といったところね。私の想像より大分上の事をやってくれたわ。これで、バモガンに対する感情はスッキリしたし、その点は感謝しなきゃね」
あの強烈な贈り物はバモガンの処理に悩んでいた私の気分を吹き飛ばしてくれた。意識も飛んでしまったけど……きっと天国にいる両親と兄も満足してくれるだろう。私がどんなに頑張ってもあのような状態にするのは無理だ。
「それに、あの反応はバモガンをかなり信頼していた、と言う事に使節団の中でなったみたい。信頼する義父と愛する夫を一度に失ったウィステリア女公爵は暫く立ち直れないだろうって、宿屋で話してたらしいわ」
エナが報告する。
「あら、じゃあ私は暫く臥せっていた方が良いのかしら?」
私は冗談めいた感じで言う。まったく、信頼する義父に愛する夫?冗談でしょうと言いたい。
「それは、取り合えず置いとくとして、税金の件はどうするの?」
直接関わる事になるであろうトゥリアが聞いてくる。
「ああ、2倍にするって話。もちろんそのまま受けるわよ。せいぜい殊勝に見える文面で、了承する書簡を送ることにするわ。でも、この領の変化に気づかないなんて、王家の情報取集能力は低いし、使節団は脳筋ね」
ウィステリア公爵領はこの4年で農産物の生産量は約200%アップしている。つまり約3倍になっている訳だ。バモガンの頃は7割を税金として取っていた。取り過ぎである。そしてその4割を王家に収めていた。王家も王家で貴族からぼったくり過ぎだ。しかもこれは最も少ない割合で、貴族によっては7割を超える所もあったらしい。
ともかく100ある収穫物の内、70を税金として取り、その内28を王家に収めていたわけだ。私はこれの量を変えなかった。つまり収穫量が200になっても徴収量は70のままとした。大きなリン酸カリウムの鉱山が見つかった事で収穫量は飛躍的にアップし、今では約300に対して70の徴収という税率の低さだ。これが王家に収める分をそのままアップして徴収したとしても98、33%弱という程度だ。特に痛手という程ではない。
そもそも税金を上げなかった理由の一つが、経済の活性化によるアナトリ商会の発展にある。領内の生産者からの買い上げ、流通、販売までほぼ一手に引き受けている状態だ。表面上はいろんな商会が有るが、そのほぼすべてはアナトリ商会の資本と人員の派遣で復活したものである。その利益は膨大で、税収を上げるよりも、商会の利益を拡大させた方が効率が良かったのだ。
「それに、納品が穀物でというのも渡りに船だわ。王家には少しでも弱体化してもらいたいし」
なぜ、穀物を送ることが弱体化につながるのか。それはスパルタの歴史を見れば分かる事だろう。スパルタが滅びた原因の一つに、精強なスパルタ兵が軟弱になったからとの説がある。なぜ軟弱になったのか。それは贅沢を覚えたからだと言われている。
だから、私は王家の兵に贅沢を覚えさせることにした。手始めに農業生産に余裕ができた事で、霜降りの豚肉を生産した。まだ少量しか生産できていないが、評判は上々だ。出来れば霜降り牛を食べさせたいところだが、まだ流石に育っていない。牛は生産効率が悪いのだ。これから我が領から大量に流れ込む穀物を、アナトリ商会の息がかかった王領内の商会が買い取り、アナトリ初回の息がかかった生産者が霜降りの肉を作る。赤身の肉と同じように食べたら、あっという間におデブさんになるだろう。それに加え貧富の差が出るというのもある。今の王家の兵は飾りが少なく貧富の差が出にくい。これが太った部分を隠すようになればその恰好で貧富の差が出やすくなる。
それに加え今は、上級将校も一兵卒も同じような料理を食べている。細かい事のようだがこれは士気に結構影響するものだ。それが違ってきたらどうだろう。士気は下がることは有っても上がる事は無い。現実は早々上手くはいかないだろうが、打てる手は打っていた方が良い。
そもそも、私の第1の目標は保身だ。両親と兄の敵を討った今、王家が私に直接手を出さないのなら、私も直接手を出す気はない。この世界を救うとかいう高尚な使命感なんてないのだ。それどころか自領を発展させるのは、保身の他に贅沢がしたい為だし、配偶者も居なくなった今、燃えるような恋もしたい。私はそんな俗物的な人間なのである。
王城で使節団の長が国王に報告をしていた。
「ウィステリア女公爵はバモガンの変わり果てた姿に驚き、我々が退出したとたん倒れたそうです。所詮は女というところでしょうか。頼りにしていたバモガンもあてにしていたラハンシンド殿下も失い、よりどころを無くしたのでしょう。一応書簡を預かっております」
長は書簡を恭しく国王に差し出す。国王は一応広げては見たもののすぐに放り投げる。
「ふん。下らん内容だ。長々と書いてはいるが、ようは税金を減らしてほしいと言う事らしい。こんな書簡で頼むことしかできぬとは、少々女公爵を警戒しすぎたかもしれぬな」
「左様でございますな」
くくく、ふふふと2人の不気味な笑い声が広間に吸い込まれていった。
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