女公爵、ショックを受ける
私は今、書斎で魚の死んだような目をして手紙を書き、これはダメだとくしゃくしゃにしてゴミ箱に捨てる、という作業を繰り返している。何の手紙か。それはバモガンの減刑を求める手紙だ。国王がバモガンに価値があると思い込ませるためのものだが、良い文が書けないでいた。下手に価値を高めて、取引材料にされても困る。こちらとしては王族殺しの罪で、拷問の末殺されて欲しいのだ。
かといって低く見られても困る。私としてはバモガンの死が公爵家への懲罰とみなされるようにしたいのだ。
その塩梅が難しく苦労していた。何しろ今の王家に対する情報が少ない。もちろんゲームの設定は頭の中に入っている。王家の直轄領は古代のスパルタをイメージとした、軍事力極振りの領土だ。農作物は常に太陽が、黒の月に隠れていて夜の状態のためできないが、唯一畜産だけは盛んだ。それは全土から集めた穀物を餌と出来るからである。基本的には脳筋で、服は基本的には男女ともビキニパンツ。これに男性はマント、女性はシースルーのロングケープを纏う。装飾品は金の塊が好まれ、デザインではなく重さが重視される。最高の芸術品で美しいものはおのれの身体だと考えられている。軍人以外でも体を鍛える事には熱心な領土だ。
余談だがキャラクターデザイナーの高城さんはお人形のように、小さくて可愛らしい外見だが、マッチョな男性が大好きな女性だった。かくいう私も大好きで、アーノルド・シュワルツェネッガー、シルベスター・スタローンは子供のころからの憧れの男性で、ドウェイン・ジョンソンはポスターを部屋に貼ってたぐらいだった。
まあ、そんなわけでちょっと色物の企画も通った訳だ。そしてこの王家、基本的には悪役ではあるが、非常に分かりやすい悪役で、余り裏がない。こんなイベントなんてゲームにはなかったし、変に回りくどい事をするくらいなら戦争するという思考のはずだ。そうでなければ、母も簡単にバモガンと再婚する事は無かった。
唯一考えられるのが王家を裏で操る存在、邪神レンバセトが企んだと言う事だが、バモガンは例外的なもので、邪神レンバセトの影がちらつくのはゲーム終盤になってからである。神は一々人間の営みに口を出さないし、力も貸さない。
私はアイデアに行き詰った小説家のごとく、更に書いては紙をくしゃくしゃにしてゴミ箱に捨てるという作業を繰り返した。
王城にて鍛えられた身体を惜しげもなくさらした男性が、片肘をついて豪華な玉座に座って居る。その男こそフェーゼノン王国国王、リンベユガン・ナエリア・フェーゼノンであった。男の前には代表団の長だった男が跪いている。
「ふむう。ウィステリアの小娘はこちらの言い分に異を唱えたとな」
「はっ。箱入りの小娘故に怖いもの知らずか、こちらの力を侮っているかのどちらかと。如何いたしましょうか」
「ふん。知れたことよ。我が、小娘の戯言ごときで惑わされるものか。予定通りバモガンは百日責めの刑に処せ。ああ、死体を小娘に送り付けてやれ。そしてその場でウィステリア公爵領の税金を2倍にすると伝えよ。納税はすべて穀物で納めることも付け加える。またウィステリア公爵家に与したとみなした貴族共も同様とする」
「はっ」
長は短く返事をして退出する。百日責めとはその名の通り百日間責める事である。百通りの拷問方法で、毎日死ぬ寸前まで拷問し、治癒をかけ、また拷問する。早ければ1日、持っても1ヶ月で精神が崩壊し、身体が治癒を受け付けなくなり、死亡する。この刑の最長記録は91日だ。百日持った者は居ない。そして死んだ後は細切れにされ、家畜の餌となる。フェーゼノン王国で最も重い刑であった。
私は取りあえず悩むのを止め、相手の出方を待つことにした。緊急を要するのはバモガンの身柄だろうが、あの様子だと多分死刑だろう。ただの死刑ではちょっとあっさりしている気もするが、私の評判が落ちるより良い。幾ら憎いと言っても、自分の義父を残忍な方法で殺したら、せっかくの私の評判が急降下する事間違いなしだ。あの男に私の評判を掛ける程の価値は最早ない。なので死刑にするならどうぞって感じだ。もちろんそれをわざわざ相手には伝えないけれど。
一応勇者も探してはいるがそれらしい人物はいまだに見つかっていない。メインイベントも進んだ様子がない。
大騒ぎだった結婚式&女公爵就任式の後、各貴族への詫び状の送付や替わりの舞踏会、お茶会などでそれなりに忙しく過ごし、年も無事に越した頃、王家からの使者がやってきた。私自身このまま何もないのかな、と半分忘れていた。
やって来たのは代表団の長を務めていたものだ。今回も使者たちの長を務めているらしい。
「ウィステリア女公爵閣下においては、ご機嫌麗しゅう。さて、先日就任式の不祥事について陛下のご裁断をお伝えに参りました。その前にまずはこちらをご確認ください」
長が合図すると、後から大きな箱が運ばれてくる。頑丈な鉄の箱だが、飾り気もなく宝箱には見えない。まあ、さすがに罠と言う事は無いだろう。私は箱に近づき蓋を開ける。
「きゃっ」
私は短い悲鳴をあげ、蓋から手を離す。中に入っていたのはバモガンの苦悶に満ちた生首と、細切れにされた身体だった。私はふらふらとし倒れかける。それを護衛として側にいたキザラートが助け、半分抱えるようにして椅子に座らせる。
「おや、お気に召しませんでしたかな。閣下の義父上は百日責めの刑に処せられました。まあ30日目ほどで亡くなったらしいですがね。死体は余さず箱の中に入れてますので、どうぞお納めください。それと今年、及び来年のウィステリア公爵領及びそれに与するとみなされた貴族の税金を2倍にするとの事です。税金はすべて穀物で納めていただきます。金銭は受け付けません。それに領民への税金を上げる場合、理由に王家の名を使うのは禁止します」
長はにやにやと笑っている。私は先ほどの光景が頭の中を渦巻き、すっぱいものが胃からこみあげてくる。
「どうやら女公爵閣下はご気分がすぐれないご様子。残念ではございますが、我々はこれで失礼させていただきます」
王家の使節団が去って行く。私は何とか最後の1人が退出するまで、朦朧とする中意識を保っていた。そして扉が閉められるのと同時に、目の前が真っ暗になりそのまま気絶した。
面白いと思われたら、ぜひポイントやいいね、ブックマークの登録をお願いします。皆様の応援は大変励みになります。よろしくお願いします。




