ラハンシド暗殺経緯
私はウィザードアイで見聞きされた映像の中で、代表団に関係するものをピックアップする。
先ずは代表団の長とバモガンとの応接室で行われた会話だ。
「バモガン公爵代行閣下に際してはご機嫌麗しゅう。さて早速ですが、報告書の状況の確認をさせていただきたいのですがよろしいでしょうか?」
「う、うむ。問題ない」
一見すると代表団の長がへりくだっているが、実際の力関係は代表団の長の方が上であることが感じられる。対外的には私が女公爵になるまで、まがりなりにも筆頭公爵家のNo.1で有るのに、中央貴族での認識はその程度らしい。失礼な話だ。もっともバモガンの中央貴族としての地位が低いせいもあるだろうが。
「報告ではウィステリア公爵家の軍事、内政に置ける事柄の殆どは閣下の決裁の元に行われていると書かれていましたが、本当でしょうか?」
「う、うむ。その通りである」
代表団の長はチラリと右手の指輪を見る。嘘発見器の役割を果たす真偽の指輪だ。質問した相手の言葉が嘘であった場合色が変わる。比較的メジャーなマジックアイテムで、もちろんバモガンも知っている。そして指輪の色は変わっていない。なぜならバモガンは嘘を言ってないからだ。そもそも、王家に出す報告書の内容は厳しくチェックされている。
大体において組織の決裁の殆どは些細なことだ。例えばベッドの新しいシーツの購入許可、植木の剪定の発注許可、城の床のタイルの補修の発注許可など、それらを1人で裁くことなど不可能だ。だから私は現場の人間に決定権を与えた。ただし、最終的な責任はバモガンにして。
だから、上がってくる雑事の決裁は一応バモガンの元に行われている。決まりとしては、間違いや不明瞭なところが有る度に、バモガンの指を詰めていった。最初の方は両手両足の指では足りず、急遽歯を抜く羽目になった。治癒術師にも苦労をかけることになったのは申し訳なく思っている。
今ではバモガンも必死にチェックし、ダブルチェックで間違いや不正は殆ど無くなった。業務は滞りなく進んでいる。時折バモガンの悲鳴が聞こえるが、100%確実というものはないので仕方がない。
「なるほど。公爵令嬢との距離も近まっていると」
「そ、そうだな。今では儂の事をお義父様ではなく、名前で呼ぶ程よ」
これも本当の事だ。なんでバモガンを”おとうさま”と呼ばねばならないのか。
「それはそれは。そんな閣下を公爵令嬢は心強く思っているとか」
「ま、まあ、そうだろうな」
これも嘘じゃない。1日20時間労働、部屋から出るのはトイレと風呂の時のみ。食事は栄養バランスは取れているものの、毎日同じもの。眠くなった時は、カフェインとかじゃなく、眠らなくても良い薬を打つ。それでも眠った時は電気ショック。休みは一月に一日、それ以外自由時間無し。前世の私もビックリなブラックな労働環境だ。それに今まで死なずに堪えているバモガンを心強く思うのは不思議ではないだろう。それで罪を軽くする気はさらさらないけれど。
「実に素晴らしい。そんな閣下に国王陛下から、依頼がございます。実はラハンシド殿下を殺していただきたい。時間は公爵令嬢が女公爵に就任後、他の貴族が挨拶を行うタイミングでお願いします」
「なぜそのような事を……」
「陛下はラハンシド殿下に不信感を抱いているのですよ。ですので、変に権力を持たせたくないのです。陛下はバモガン閣下にこのままウィステリア公爵家をお任せしたいのです。令嬢が女公爵に任命される前ですと、閣下に監督責任が及びますからな。不祥事の責任は女公爵に負わせたいのですよ。殺す場所は大広間の横の控室でお願いします。そこに我々がラハンシド殿下をお呼びいたしますので」
「そんなところではすぐに人が来てしまうではないか」
「その辺りは大丈夫です。人が来ぬように強力なマジックアイテムで結界を張ります。犯人もこちらで用意いたします。なにせ、ラハンシド殿下は軟弱者と言われていても王族、殺せるだけの力を持ったお方は、閣下ぐらいしかいらっしゃいませんからなぁ」
「う、うむ言われてみればそうかもしれんのう」
この代表団の長は嘘を言っている。確かに変化した後のバモガンは強い方に入るが、バモガンを使わなくても、ラハンシドを殺せる人物は代表団の中に何人もいた。
「なるほど、こうやってバモガンを誘ったのね。それにしても簡単に騙される御仁だわ」
「睡眠不足が原因かもよ」
私の呟きにエナがそう言う。
「流石に変な顔色で式に出席させるわけにもいかないから、ここ3日は休養させてたわよ。身体の欠損部分もちゃんと治したし」
私はエナに反論する。まあ、どちらにしても既に過去の事で、バモガンは騙されたわけだ。私は別の場面を映す。ラハンシドと代表団の長が話す場面だ。
「ラハンシド殿下。公爵令嬢の結婚式での様子はどうでしたか」
ラハンシドはその問いにきざったらしく、髪をかき上げながら答える。
「そりゃあ、令嬢は僕にメロメロだからね。キスをした時なんかうっとりとした顔で目を瞑っていたよ」
いやいや、我慢するために目を瞑ったのだが、こいつにはそう見えていたのか。
「それはそれは。ラハンシド殿下も罪作りですな」
「全く、今から夜が楽しみだよ。あの美しい顔が苦痛と恥辱にまみれると思うとね」
ラハンシドはうっとりとした表情をする。お前こそ豚の様な悲鳴をあげる準備はできて居るんだろうな!私の頭の中に、私がボンデージ姿でラハンシドの頭をヒールで踏みつけている姿が思い浮かぶ。が、すぐにそれを打ち消す。いけないけない、私はそんなキャラじゃないし、ラハンシドはすでに死んでいる。
「実はラハンシド殿下に、バモガン公爵代行閣下が、女公爵就任式直後に話があるそうなのです。お時間は取らせないと。恐らく公爵代行の権利を殿下にお譲りする話かと」
「ああ、まあ妻が政務を出来ない間、それをやるのは夫の役目だろうからね。まあ、女公爵がまともに政務が出来る状態にならない可能性もあるしね」
そう言って、くくくっと笑う。気持ちわるっ、もう死んでるけど、生きてたら思わずヒールで頭を踏んでいたかもしれない。
その次は殺す時間に合わせて、メイドにお茶を控室に運ばせ、目撃者に仕立て上げる場面。それは特にひねりは無かった。次に殺害場面が映される。
「ふう。バモガン公爵代行閣下、いや義父上と呼んだ方が良いのかな。用があると聞いたんだがね。手短に頼むよ。可愛い妻が待っているのでね」
ラハンシドはバモガンを見下した態度で言う。
「ええ、すぐに終わりますとも。この公爵代行の身分を示す剣を殿下にお渡しするだけですから」
「ふむ。良い心がけだよ。後の事は任せたまえ」
「それでは」
バモガンは剣を持ち近づいていく。そして間合いに入ると剣を抜き胸を一突きに貫いた。
「な、なにを」
ラハンシドは訳が分からないという顔をしたまま倒れる。
「ふん。貴様は用済みだそうだ。残念だったな」
バモガンがそう吐き捨てた直後、メイドの悲鳴が響く。なかなか良いタイミングだと思って、別の映像を見たら代表団の1人がタイミングを計っていた。
その後は知っての通りだ。
「何だかいろいろ勘違いされてるみたいね。こちらにとって都合は良いけど……」
私は画像を見終わって呟く。そう都合は良いのだが、なんだかもやっとした、何とも言えない気分になった。
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