公爵令嬢、暴露者になる
私はレベル差だけでは勝てない者が居ることを、前世で嫌というほど知っていたのに、ここ最近レベル差で圧勝してきたため少々天狗になっていたようだ。それを騎士団の者は気付かせてくれた。恐らく模擬戦が始まるまでの間、参謀長達はティータ達の情報を集めていたのだろう。騎士団本部に既に入っている者達から、戦闘メイド隊の情報は簡単に集まったはずだ。私がことさら強化に力を入れていた事から、対戦相手としたらそちらから選ばれること。更に経歴や強化具合から絞り込んでいけば、ティータたちにたどり着くのは困難ではない。私はもう秘密にする必要がないと思い、特に緘口令は出さなかった。後はどうやって戦うかの作戦を練ったのだろう。私はレベル差だけでどうにかなると思い、彼らに失礼な事にティータ達に手加減をするように命じた。ティータ達はそんな訓練など殆どしたことが無かったにもかかわらずである。力加減の入れ方など良く分からなかったに違いない。私だっていきなり言われたら分からない。実際何度も間違えているのだ。偶々それが間違っても問題ない相手だっただけに過ぎない。
色々反省すべき点はあるが、私が6人に秘密を知る資格が有るかを試し、彼らがそれに合格したのは動かしがたい事実だ。私は再び6人を別邸の食堂に集めた。
「この様なところに集まってもらい申し訳ないと思っています。あなた方の地位を考えれば、本来なら本邸の会議室にお呼びすべきなのでしょうが、防諜のレベルが段違いなのです」
「いえいえとんでもございません。ご令嬢のプライベートエリアにお呼びいただけるなど、これに勝る栄誉はそうそうございますまい」
キザラートは少しおどけて答える。見方を変えればそう思うこともできる。まあ、ここにいる男性は全員既婚者だし、艶ごとめいた事をするわけではないけれども。ちなみに私は特に気にしなかったが、女性陣から非難めいた眼で見られている。17の少女に掛ける言葉ではなかったらしい。
「おほん。我々をここに呼ばれたと言う事は、騎士団への命令の真意をお聞かせ願えると言う事です宜しいですかな」
ルーシェズが取りなすように私に話しかける。
「ええ。あなた方にはその資格があるでしょう。但し聞いたら後戻りは出来ません。反対意見も聞きません。他の者に吹聴したり、ましてや邪魔しようなどしようものなら、理由の如何を問わず死を与えます。もしやめるのなら今の内ですよ」
念のため最後の機会を与えるが、部屋を出る者は誰もいなかった。私は軽くため息をつく。全く騎士団なんて響きは良いが、サラリーマンと大して変わらないだろうに、余計な仕事まで首を突っ込もうとはご苦労な事である。
「騎士団の全力出撃の真意は、騎士団本部の奥に守られている。聖域への扉を開き、神竜ロールアンクスを倒す事です」
思ったより動揺は少ないが、それでも大なり小なり動揺しているのが分かる。予想はしていたのだろうが実際に聞くとまた違うものなのだろう。
「神竜ロールアンクルは古の邪悪な神の力を封じ込めており、殺せばそれが解き放たれ、この世に暗黒の時代が訪れるとお聞きしております。ウィステリア公爵家はそれを守る為にあり、騎士団はその最後の要なのだと……それが間違っていたと言う事でしょうか」
流石に真剣な顔になったキザラートが尋ねる。
「まるで間違っている訳ではありません。封じられているのはかつて自分の欲望の為に神々を追い出そうとした、神と人間の間にできた神人と呼ばれる者達の力です。それだけでなく善の神々の方に付きながら、人間界にとどまる為、敢えて力を放棄した、我がウィステリア公爵家の始祖の力も封じてあります。私の目的はその力を手に入れる事です」
「世界をも滅ぼすことが出来るというその力をかのう。失礼を承知でお伺いするが何故にその力を欲するのですかな。ご令嬢は今でも恐らくウィステリアにおいて最強。王国全土でも勝てる者が居るとはとても思えませぬ。もし更なる力を欲したいがためというのなら、若気の至りというもの、止めておいたほうがよろしいかと」
ロジーレが言葉を選ぶように言ってくる。本当なら何という事を、と怒鳴りたいところだろう。
「反対意見は聞きませんと言ったはずです、と言いたいところですが、それでは気分が悪いでしょう。この件はロジーレ殿には申し訳ないのですが、その更なる力を手に入れるためです。一応まったく理由が無いわけではありません。これから約半年後、世界の命運を変える者が現れる可能性があります。その者が世界を良い方に変えると決まっているのなら私はその力を望みません。ですが、そう決まっている訳ではありません。その者が神人の力を手に入れるかどうかも不明です。仮に手に入れた場合は抵抗することは困難でしょう。そして、私は他者に自分の命運を委ねる気はありません。自信過剰に聞こえるかもしれませんが、幸いなことに私は市井の何の力も無いものではございません。運命を切り開く力も、神竜を倒しその力を受けれる器も持っていると考えています」
私は一気に説明し、皆の反応を見る。驚いているもの、深く考えているもの、何とも言えない顔をしてるものなど様々だ。ただ一様に黙っている。私は沈黙が支配する中、じっとそのまま待つ。暫くしてロジーレが口を開く
「つまり、ご令嬢はもしかしたら将来現れるかもしれない漠然とした脅威の為に、ウィステリア家の家訓を破り、危険を冒すという訳ですかな」
「その通りです」
「ご令嬢が力を手に入れた場合。世界は良い方向に進むのですかな」
「分かりません。ですが、悪くするつもりはありません。あくまで今のところはですが」
「ご令嬢が道を踏み外した場合、それを修正できますかな」
「恐らく不可能でしょう。それはこれから現れる可能性のある、世界を変革するものが手に入れた場合も同じですが」
一通りの問答を終えた後、ロジーレは黙り込む。再び沈黙が降りる。その沈黙を破ったのは意外にもルージェスだった。
「ふむ。未来とはどの道分からぬもの。であれば儂はご令嬢の切り開く未来を見てみたい。寧ろこの暗澹たる世界が儂の生きておる内に変わるのが見れるのなら本望じゃ」
ルージェスは言った後、他の者を見渡す。
「どの道賭けになるのなら、現れるかどうかも分からない何も知らない者よりもご令嬢に賭けた方が良さそうですね」
両団の参謀長である、ヨデルナ、レルニートが賛同する。
「ふう。2人の参謀長が賛同しているものを無下にはできませんな」
続いてキザラートが賛同する。
「それを言うのなら、自分なんて両団長、両参謀長が賛同しているものですよ。反対する気も起きませんよ」
更にジフロネットも賛同する。
「うーむ……わらわ1人の命なら悩まずに済むのじゃがのう……」
エルフの里はウィステリア公爵家の保護の元、この世界において平和を享受している。例えそれが里の外には自由に出られないとしてもだ。
「ロジーレ殿。秘密を知ったからと言って参加を求めている訳ではありませよ」
そもそも最初の計画では戦力には入っていない。
「いや、ご令嬢の言葉を借りるなら、運命を他者に委ねることは愚者のやる事。わらわも参加させていただきましょう」
かくして神竜ロールアンクス討伐隊に6人が加わった。
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