セシリアVSバモガン
バモガンは苦悩していた。実家の公爵家に援助を頼んでも、もうこれ以上の人員は割けないとの返事がくるだけだ。それはそうだろう中央貴族と呼ばれ、王家から優遇はされているものの、その実情は直轄地周辺の痩せた土地を所有する貴族たちだ。侯爵家と言っても人口は1万人程度。王家に倣って軍事偏重の体制をひいているが、それでも300人程の軍隊を持つのが背一杯である。その内3分の1をバモガンに付けたのだ。しかも上澄をだ。これ以上は幾らなんでもできるか!というのが正直なところだろう。本来なら実家としては豊かなウィステリア公爵家から援助を引き出したかったのだ。政治力より、戦闘力の方が尊ばれる中央貴族ならではの誤算である。
かと言って王家に打診はできない。もしそんな事をしたら、無能と切り捨てられるだけだ。王子と義娘が結婚した後に良くて幽閉、悪ければ殺される。不幸中の幸いは、結婚式が近い為、すぐに殺して、後釜を据えるという面倒なことはやらないだろう、と思われる事ぐらいだ。
忌々しいが、義娘を殺すなんてもってのほかである。何と言っても王子の婚約者なのだ。殺す理由が面子を潰されたからなど、王家の怒りを買う事間違いなしである。仮に王家に対して反逆を企てていて、そしてその証拠が見つかればよいが、そんなものは今まで見つかってないし、これから見つける手段もない。
(関係修復をはかるか。幸いあの娘に危害は加えていない。多少不自由はしていたかも知れないが、貴族の娘であるなら多少は仕方がないとは思って居るだろう。そうだ、あの娘の父と兄を殺した奴がまだ生きていて、奴を狙ってる事にしよう。そして私は娘を守ってた事にすればいい。最悪は私の真の力を見せ付けて脅せば言うことを聞くようになるだろう)
バモガンはそう考えて、セシリアを呼び出す。
(一体いまさら何を行ってくるのかしらね……)
私は興味1割、嫌悪感9割の感じで義父が待つ大広間に向かう。大広間は私がデビュタントをした会場になった場所である。そして将来義父と主人公が敵対する場合、戦闘がおこる場所だ。応接室や執務室ではないところで、義父が何を考えているのかが何となくわかる。
私は大広間に通じる観音開きの扉を自分で開ける。この場所には普通はメイドなり兵士なり誰かが控えている場所だ。大広間という場所で話すのに、誰にも近づけたくはないらしい。くぐるときに結界を超えた感覚がある。たいしたものではないが、一般人が許可なく入ることは難しいだろう。
「私をお呼びと伺い参りました」
私は感情をこめず挨拶する。
「おお、よくぞ参った。私の可愛い娘よ。なに、少しそなたは私を勘違いしているところがあると聞いたのでな。いい機会なので、誤解を解こうと思ったのだ」
義父は言葉は馴れ馴れしいながら、一段高いところに据え付けられた椅子に座ったままで、臣下に接するような態度を崩さない。とは言っても、臣下と違い、こちらは立っているので見下ろしているのは私だけど。
「いい機会とは?」
本当の事はもちろん知っているが、どんな言い訳をしてくるか少し興味があった。私の想像を超えるような言い訳をしてきたら、こいつの殺し方を考え直してやってもいい。もっと酷くなるかもしれないけど。
「ふむ。先日の勲章授与式を見たことだ。実に見事な姿だった。そなたには心配かけぬよう隠していたが、実はあの時しばらく前から臥せっておってな。式典を行うつもりだったのだが出来なかったのだ。城に有った物資を使ったのであろう。あの溜めていた物資にはそういう訳があったのだ。それを使いそなたは見事な式典をやり遂げた。その時思ったのだ、ああそなたはもう私に守られるだけの存在ではないのだと」
「はい?」
私は思わず変な声で聞きなおしてしまった。
「だからな。今まではそなたを大事に外敵から守っておったのだ。そなたほどの器量の娘、外に出したらどんな虫が寄ってくるか分からぬからな。今は亡き妻とも話し合い、離れで暮らさせておったのだよ。それで不自由な思いをさせてしまい、すまなかったと思っている。だがそれはあくまでそなたの事を思っての事。それを分かって欲しくてな」
笑顔で話しかけてくる義父。だが私には醜悪に歪んだ豚の顔にしか見えなかった。いやそれは豚に申し訳ないか。豚は食える。それにしてもよりにもよって、言い訳にお母様を使うなんて。
「その薄汚い口を閉じろ、腐ったドブネズミ野郎が」
私は思わず汚い言葉で罵ってしまう。
「なっ!何という事を言うのだ」
私が反抗するとは思っていなかったのだろう。義父は驚いた顔をする。
「失礼しました。公爵令嬢としてあるまじき言葉が。言いなおしますね。その非常に見るに堪えない汚れた口を閉じてくださいませ、腐敗したドブネズミ様」
義父の顔がみるみる赤くなっていく。
「こちらが下でに出てればいい気になりおって。よかろう。何時かはどちらが上か教えなければならないと思っていたところだ。これも親の務めというものよ。なに安心しろ。殺しはせぬ。少し痛い目にはあってもらうがな」
そういうやいなや、義父は椅子から立ち上がる。そうするとみるみる義父の体が大きくなり、首は伸び、顔は歪み、口には大きな牙が生える。手だったところは大きな蛇に変化する。それだけではない。背中からも蛇の頭が生えてくる。最終的には太い2本足で立っているヒュドラのような姿になる。
「どうだ。驚いたか。これこそが私が真の神から選ばれた証。さて、腕の一本でも食ってやろう。なに、結婚式までには治してやる」
そう言って私に顔を近づけ、長い舌をチロチロと出す。息が臭い。
「ひれ伏せ」
私が静かに言うと、ズンと音がしてバモガンが床に這いつくばる。これは私オリジナルの魔法だ。実を言うと本当にひれ伏す行動をとっている訳ではない。麻痺と重力の魔法を組み合わせてそれらしい効果を作り上げているのだ。面倒臭くて効果の割に高度な魔法で、さらにレベル差が50はないと確実には成功しないが、成功した時の気分がいい。
私はヒールのかかとでバモガンの頭を踏みつける。思いのほかサクッと突き刺さる。一瞬死んだかと思ったが、幸いなことに脳みそが小さかったのか、HPはそんなに減っていないし、意識もあるようだ。
私はちょっと面白くなってバスバスという感じで、何度も踏みつける。所謂プチプチを潰すような感じだろうか。始めてしまうとついつい止まらないものだ。
「……いだい……ぼうゆるして……」
なんか下から声がしていると思ったら、バモガンの声だった。私はハッと我に返りスカートを抑える。中は見えてないわよね……スカートの中の下着と言っても、前世のスパッツより面積の大きなものだが、恥ずかしいものは恥ずかしい。
私の心配は杞憂だったみたいで、バモガンの頭は殆ど床に埋まっていた。あれでは私のスカートの中は見えないだろう。
いつの間にか身体も元に戻っている。HPバーもちょっとだけになってしまっている。危なかった、ついつい殺してしまうところだった。せっかく今まで生かしておいたのに、こんなところで感情のまま簡単に殺してしまっては私の気が済まない。
私はバモガンの頭を掴み、床から引っこ抜く。
「取りあえず。来年までは生かしておいてあげる。その後はこれからの貴方の行動次第で考えるわ。せいぜい私の役に立つよう頑張ってね」
そう言って私が手を離すと、力なくまた突っ伏す。考えるとは言ったが、もちろん殺すのは確定だ。ただ殺し方はまだ考える余地がある。私の言う事を聞いていたのかどうか怪しいが、治癒の魔法をかけるのも嫌だったので、私はそのまま部屋を後にした。
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