公爵令嬢、死者になりかける
「ケイ素59.00g、アルミニウム20.00g、鉄8.55g、鉛5.67g、ミスリル1.05g、オリハルコン0.32g、アダマンタイト0.04g……」
私は地下室の作業場で、淡々と監視カメラ機能を持つマジックアイテムを創るための調合をする。本来なら多少の誤差は大丈夫なのだが、特製の精密天秤がピタリと平行になった様は美しい。完璧で究極のアイテムが、出来上がるに違いない。もとよりこういった細々とした作業は好きな方だ。私は段々と1日の作業時間が増え、マジックアイテムの作成にのめり込んでいく。
「マスター!マスター!」
不意に私の肩が揺さぶられる。どうやら作業中に居眠りしてしまったらしい。
「ちょっと居眠りしてしまったみたい。大丈夫よ。すでに今日のノルマは達成してるから」
作業机の上には幾つもの、完成したマジックアイテムが並んでいる。私は慣れたおかげもあって、かなりのハイペースでアイテムを作り続けている。本来なら夏の終わりぐらいまでかかるかもと思っていたが、春の終わりか夏の始めぐらいには、全て出来そうだった。
「そんな事より自分のステータスを見て!」
エナに言われて、ちょっとボーッとした頭でステータスを見る。疲労ゲージが赤く点滅し、残り5%未満になっている。
私は自分の状況に青ざめる。
「ともかく、地下室のベッドでちゃんと寝てて。全快するまで私達に任せておけば大丈夫だから」
こういう時に、自分が4人いるというのは心強い。私はベッドに横たわると、すぐに意識を失った。
2日後、十分に休んで、疲労は全快になる。
「いやー、ミスったわ。ついついのめり込んでしまったの」
円卓に座った私は、ちょっと気恥ずかしい思いをしながら言う。
「気持ちは分かるけど、気をつけてよね」
「ミゼンには監視が必要ね」
「全く、エナが気付かなければ、下手したら死んでたわよ」
「この世界でミゼンを殺せるものなんていないと思ってたけど、まさか自分で死にかけるとは思わなかったわ」
散々な言われ様だが、皆が心底心配していたのが分かる。ごめんなさい。反省してるから。
「それで、気分転換って感じで、私の担当だったメイド達の、レベルアップをしようと思ってるんだけど良いかしら?」
「そうね。訓練して大分動きも良くなったし、良いんじゃないかしら」
担当しているイスナーンが答える。ちなみに訓練で動きはよくなるが、敵を倒さない限りレベルが上がる事は無い。
「そうは言っても、今回メイド達を戦闘させるつもりはないんだけどね。ちょっと試してみたいことがあるのよ」
「どんなこと?」
イスナーンが聞いてくる。
「パーティーを組んでいたら、戦闘しなくても経験値が入るかどうか。もしゲームと同じようにレベルが上がるんだったら、兵士の強化が楽になるわ」
「確かにそれは重要ね。訓練だけだと限界があるって決まった訳じゃないけど、多分ゲームの攻略動画配信者みたいな動きはできるようにならないと思うわ」
イスナーンは納得したように言う。あれは一部の才能が有るものが出来る動きだ。練習したからといって、誰もがプロ野球選手になれるわけではないのと同じだ
「じゃあ決まりね。その前に、テッセラが集めた装備品を見せてもらえないかしら」
「良いわよ。それとメイド達のレベルアップするんだったら、祝福の指輪はどうするの?」
祝福の指輪とは、レベルアップの時に指輪に対応した能力値が1ポイント追加で増えるものだ。能力値に応じたものが7種類、それとフリーのポイントが1ポイントもらえるものが1種類ある。ただ、それぞれは1つずつしかない。今回は上手くいったら一度に数レベル上がる為、ホムンクルスたちと違って、使いまわしはできない。もしホムンクルス達の中で、もう少しでレベルアップする者が居たら、最優先なのだが、そこまでまだ経験値は溜まってないようだった。
「後で考えとくわ」
すぐには結論が出せなかった為、私はそう答える。
「分かったわ。じゃあ、付いて来て」
テッセラはそう言うと立ち上がり、歩き出す。私達はその後ろをぞろぞろと付いて行く。
倉庫に着くと、鎧や剣、盾は言うに及ばず、ティアラやタリスマン、指輪やネックレスなんかも大量にある。
「結構集めたわね」
「まあね。それなりに苦労はしたわ。他の皆にも手伝ってもらったけど。レベルも皆より1レベル多く上がったし」
テッセラは自慢げに言う。ステータスを見てみると、確かに他が51で1人だけ52になっている。
ダークムーンの世界は大抵のゲームと同じように、レベルが高くなればなるほど上がりにくくなる。特にこのダークムーンの世界は40レベル以降は、なかなかレベルが上がらない。1レベル上げるのに必要な経験値が増えるというのもあるが、レベルの高い敵というのが減ってくるからだ。基本的にはレベル50でクリアできるゲームなのだ。だからテッセラが2レベルも上がっているというのは、素直に驚いた。
私は倉庫の中を見て回り欲しいものを探す。消費魔力を軽減する指輪。少しづつだが、MPを回復するネックレス。先端から魔法が放たれるレイピア。これは何の役に立つのかと思われそうだが、意外と馬鹿にはできない。特に魔法の剣を出す場合や、接触しないと効果を発揮しない魔法を使う場合に非常に役に立つ。射程が短い魔法は強力なものが多い。それに私がこれからやろうとしている事には、必要不可欠のアイテムだ。
更に防具として、これまたMPを回復する物を選ぶ。指輪の回復量は最大MPに対する割合だが、こちらは固定だ。そして効果は重複する。
「結晶石のレイピアは兎も角、かすみ草の指輪とルーンのネックレス、聖女のローブって、マスターに意味あるの?MP回復ポーションの方が早いし、そもそもマスターはMP切れを起こすほどの敵と戦うの?」
テッセラが不思議そうに言う。
「今回は正面切って戦うつもりはないの」
テッセラだけでなく、他の3人も頭に?マークを浮かべている。ホムンクルスたちは知力が私の半分と言っても、基本的に私と同じ考えが出来るはずだが、恐怖心がないせいか、どうも戦闘に関しては真正面から戦う傾向があるようだ。
「そうね、後は実際に戦ってのお楽しみってやつね。上手くいくかどうかも分からないし」
そう言って私は可愛くウインクした。
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