忠義者のスレラ
予想通りというかなんというか、1人、また1人と私の担当メイド達が、義父に呼ばれていく。その代わりに入れられるのは、ちょっと前までスラムにいたと思われるような、痩せこけていて、礼節も何も知らない娘達だ。ただ、最低限の基準は設けているのか、標準体型まで戻れば、美人になりそうな娘ばかりである。
昼食時に、給仕をしていたメイドの1人が、取り分け時に失敗して、スープをこぼしてしまう。
「何をやっているのですか!早く拭きなさい。そこのあなた!ボーッとしてないで、代わりにすぐに、取り分けなさい!」
普段は温厚なスレラが、新人メイド達に厳しい叱責を浴びせる。スレラは長年私の担当だった5人の中で、最後に残った1人である。
5人の中では年齢が一番上で22才。平民の基準で言うと、行き遅れになる。平民より寿命が長い貴族でも、適齢期後半といったところだろうか。何時もはお姉さん役として、優しくみんなをフォローしていた。
「遂にあなたに声がかかったの?」
「はい。旦那様も酔狂な方ですね。私などに声をかけるとは」
自嘲気味に微笑むが、スレラは暗めのブラウンの髪に、暗めのグレイの瞳が、地味な印象を与えるだけで、よく見れば顔立ちは整っており、すらりとして、背の高い美人さんである。
本人は時々年齢の事を気にしていたが、前世の感覚だと、十分に若い。最も苦労が多いせいか、ピッチピチという感じはしないけれども。
「今日が最後になるのです。出来る限りこの娘達に、仕事を覚えさせねばなりません」
「そんなに気負わなくても大丈夫よ。1日で出来る事なんて限りがあるし、私は一々細かい事で怒ったりはしないわ」
「それは承知しています。ですが、この娘達がお嬢様を貴族様の基準と考えると、すぐに命を失うでしょう」
スレラは頑なに譲らない。
「じゃあ、ほどほどにね、貴方との時間も取りたいし」
「もったいないお言葉。それだけでお仕えしてきたかいがありました」
スレラは少し涙を浮かべている。いやー、忠誠心が重い……
(ごめんね。今からあなたをこき使おうとしてるの。悪いようにはならないよう努力するから勘弁してね)
私は心の中で謝る。
その夜何時ものように、少し風呂を早く切り上げようとすると、スレラに止められる。
「いけません。私からの最後のお願いです。最後の仕事をいい加減に、片付けたくはないのです。私は他の4人よりも長生きしたのですから、ここでわずかな時間を惜しむようでは、先に旅立ったものに顔向けできません。それに旦那様から伺った時間にはまだ余裕があります。ご安心ください」
スレラの意志は固い。4人とも元気なんだけどね。この場所から旅立ったのに、間違いはないけれど。
私は懇願するような顔をするスレラを、無下にはできず、どちらかというといつもより、風呂の時間が長くなる。ちょっと恥ずかしかったが、隅々まで磨き抜かれて、正にピッカピカになった。
「良いですか皆さん。このお姿を目に焼き付けておきなさい。毎日お嬢様がこのお姿になるように努力するのですよ」
スレラが少しうっとりとした表情で私を見ながら言う。
(いやいや、私にそっちの気はないんだけど……まさかね。最後だと思って、ちゃんと仕事としてみてるだけよね。若しくは妹と思っているとか)
私が気恥ずかしがっていると、他の少女達までもが、まじまじと私を見つめている。恥ずかしさで、顔が少し赤くなるのが分かる。
「お嬢様。私の我儘を受け入れていただき、ありがとうございました。もう思い残すことはありません。胸を張って4人の元に行けます。そして、最後の仕事を誇ることにします」
悲壮な決意を聞いて、何とも言えない気持ちになる。
(騙してたからといって忠誠心、下がらないでね。お給料なら、ちょっとぐらいはずむから)
そう心の中で祈る。
「それではこれでお暇したいと思います。旦那様の指定された時間が、近づいてまいりましたので。今までありがとうございました」
スレラは深々と一礼すると、踵を返し、他の4人と共に去ろうとする。
「えっ?ちょっと待って。貴方まだ時間があるようなこと言っていたじゃない」
私は慌てて、スレラが出て行くのを止めようとする。
「申し訳ありません。嘘をつきました。お嬢様に対する、私の最初で最後の嘘でございます。赦して下さいなどとおこがましい事は言いません。卑しい女が、最後に自分の我儘の為に主人を騙した、と蔑んでください」
そう言って、私が止めるのも聞かず、スレラは去って行った。困った。非常に困った。今からスレラの髪が落ちていないか探して、更にフレッシュゴーレムを作るなんて、流石に時間が足りない。
(みんな、緊急事態よ。すぐに集まって)
私は念話で、影武者たちを呼び寄せた。
面白いと思われたら、ぜひポイントやいいね、ブックマークの登録をお願いします。皆様の応援は大変励みになります。よろしくお願いします。




