公爵令嬢、親衛隊発足者になる
次の日、朝食が終わった後、地下室へと向かう。ティータはすでに起きていて、部屋の掃除をしていた。
「地下室の掃除なんてしなくてもいいのに……」
基本地下室の掃除は、お掃除ゴーレム、サンバ君がやってくれる。自動で障害物をよけるのは勿論、壁も登れ、天井を這う事も出来る。魔力が尽きかけたら、自動で魔力補充装置まできて補充する優れものだ。念の為に言うと人間型ではなく、デフォルメしたカメのような形だ。刷毛の様なもので掃いて、腹から吸い込む。動いている時は踊っているように見えなくもない。
「いえ、何かをしてないと、落ち着かないものですから……」
「いいけど、これからは体を休めるのも、仕事の内になるからね。じゃあ、テッセラ、今日は後をお願いするわ」
「了解です。マスター」
テッセラは少しおどけて敬礼をする。私はそれを横目で見ながら、ティータを連れてギルフォード男爵の館へ転移する。
「構え!突け!」
「やぁ!」
「656!657!658!」
突然、威勢のいい声で、武器の練習や素振りをする声が聞こえる。ここはギルフォード男爵領の兵士訓練所だ。ただ、男爵が味方になってから、大分拡張している。訓練所の中では50人程の人間が訓練をしている。その中には女性もいた。
「イスナーン。調子はどう?」
私は、訓練所の端で全体を見ているイスナーンに話しかける。
「順調よ。何人かは実戦に向かわせても、良いかもしれないわね。それにしても遂に貴方の担当メイドにまで声がかかったのね」
イスナーンはどことなく呆れた表情をする。
「平民のメイドは補充できても、多分痩せていてお眼鏡にかなわなかったんでしょうね。人間はそんなに急に太れないから」
今の領都の中で、居なくなっても問題無い者で、尚且つまともな体形をしているのは、犯罪者ぐらいなものだ。
「じゃあ、これからは連続で貴方の担当メイドに声がかかるって事かしら?」
「流石に毎回って事は無いと思うけど、こればかりはあいつの気分次第だから分からないわね。それでも1ヶ月、長くて2ヶ月で全員に声がかかるんじゃないかしら」
「じゃあ、例の計画は全員揃ってからにする?」
「それが良いわね。それにちょっとぐらいは訓練もした方が良いと思うわ。丁度春になる頃だから、何か始めるにもちょうどいい季節じゃない」
私とイスナーンが話していると、ティータが発言を赦してもらいたそうに、おずおずと手を挙げる。
「何かしら?」
「あのー、私に関係がある事を話されると思うんですが、一体私は何をすれば宜しいのでしょうか……」
話についていけなかったせいか、どことなく間が抜けた話し方になっている。
「単刀直入に言うと、ここで戦闘訓練を受けて、私直属の親衛隊の幹部になってもらうわ」
私は言葉取り単刀直入に、やってもらいたいことを伝える。
「えええっ、そんな無理です。私は掃除や洗濯がメインのただのメイドですよ!」
ティータは目を見開いて驚いて、ブルブルと頭を振る。
「あら、さっき私の望みのままに動いてくれるって、約束してくれなかったかしら?あの時は感動したんだけどなぁ」
私はちょっと意地悪な感じで、ティータに問いかける。
「それはそうですが……分かりました。出来るかどうか分かりませんが、この命がる限り、努力いたします」
ティータは、さっきまでオドオドしていたのが嘘のように、キリっとして私を見つめる。
「良かったわ。じゃあ、あそこにいる男性、レヘンシア騎士爵に自己紹介して、施設を案内してもらった後、訓練用の装備を貰ってね。今日はそれで終わり。明日から訓練をしてもらうから、ゆっくり体を休めておきなさい」
「き、騎士爵様に案内を頼むんですか……い、いえ、何でもありません。お嬢様のお望みのままに」
ティータは一礼をして、謂われた通りにレヘンシア卿の所へと向かう。
「忠義ものね」
イスナーンがそれをみて、ぼそりと呟く。
「良いじゃない。他の能力値はレベルさえ上げれば何とかなるけど、忠誠心を上げるのは大変なのよ。それで、あなたが連れてきた人達はどうなのかしら?」
私はイスナーンに尋ねる。
「問題ないわ。最愛の肉親を助ける、攫われて奴隷にされるところを助ける、盗賊に襲われて殺されるところを助ける。恩を売っただけあって、忠誠心は高いわよ。人の弱みに付け込むなんて流石ね」
イスナーンが助けたのは、ゲーム開始時点で、何らかの不幸に見舞われて死んでいるか、捕まって酷い目に合っている者達だ。助けたことによって、本来ならその関係のイベントをこなさない限り、仲間にならないNPCも仲間になっている。そしてゲームの主人公の仲間になるNPCは基礎能力値が高い。
「人聞きが悪い事を言わないでちょうだい。私はバッドイベントのフラグを、ちょっと折っただけよ。この先、生き残れるかどうかまでは分からないけどね。少なくともわざと死なせるような真似はしないわ」
戦闘をする以上、全員が生き残るというのは夢物語だ。だが私は平民だからといって、捨て駒になんかしない。ましてや面白半分に、命をもてあそぶようなことは絶対しない。
「あくまで味方でいる限りは、でしょう?」
イスナーンが私の心を読んだかのように言う。いや違うか、彼女は私と同じ考えなだけだ。そう、この世界では、命を助けられたからといって、裏切らないとは限らない。
私は答える代わりに、イスナーンに向かってにっこり微笑んだ。
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