公爵令嬢、救出者になる
申し訳ありません。題名がオヤジギャグから取ったもので、どうも引く人が多いみたいです。あんまり褒められたことではありませんが、思い切って題名を変えさせていただきました。ご容赦ください。
男爵令嬢が乗っていた馬車は、少し離れたところで、馬が暴れ横倒しになっていた。馬は泡を吹いて倒れている。 私達は近寄り、閂を外し変形した扉を開ける。一応私以外の4人は兵士に姿を変えている。
男爵令嬢は気を失っていた。ステータスを見る限り、何処も怪我はしていないようだ。念の為ほんのちょっとだけ減っていたHPを全快にする。
「もしもし……」
私は軽く肩を叩く。すると男爵令嬢は小さなうめき声を上げた後、ゆっくりと目を開ける。
「一体何が……貴方は?」
男爵令嬢は、意識がまだはっきり戻らないのか、弱弱しく私に聞く。
「御父上から聞いていませんか?クリステル・エル・ウィステリアが娘。セシリアと申します。貴方を助けに来ました」
「私を助けに……はっ……急に恐ろしい叫び声が聞こえたかと思うと、馬車が揺れて……一体何が起こったのでしょう」
男爵令嬢は怯えきった様子で辺りを見渡す。
「大丈夫ですよ。すべて終わりました。さあ、男爵の元に戻りましょう」
私は出来るだけ優しく声をかける。
「お父様の元へ……あっ、も、申し訳ございません。公爵家のご令嬢様に対して失礼なことを。なにとぞお許しください」
男爵令嬢は私から離れると、土下座する勢いで頭を下げてくる。まあ、土下座なんて文化は当然無いわけだけど、雰囲気としてはそんな感じがひしひしと伝わって来る。この世界ではそれぐらい身分差は絶対的なものだった。
「そんなに畏まらないで。元々の原因は我が家のバカ義父なんだから。貴方のお父様には話したけれど、貴方はここで死んだことになるわ。ごめんなさいね」
私は相手の緊張がほぐれるように、砕けた口調で話す。
「そんな謝っていただくなど……あっ、名乗るのが遅れてしまいました。ゼラント・シズ・ギルフォードが娘、クレナ・シズ・ギルフォードと申します。クレナとお呼びください」
「そう。私もセシリアで良いわ。早速だけどあなたのお屋敷まで移動しましょうか。トロールに見つけられると面倒臭いし」
「ト、トロールが襲ってきたんですか?」
クレナはびっくりする。トロールなんて滅多に出る事は無いし、遭遇したら死ぬ可能性の方が高いので、ごく普通の反応だ。
「そう。それで輸送隊は全滅したわ。今は輸送隊の人間を食ってるところ。怪我してるから食うだけ食ったら、休むとは思うけど。早めにここを去るに越したことはないわ」
トロールは今殺した人間を鎧ごとバリバリと食っている。数日間餌にありつけ無かったので、大分がっついているようだ。
私はギルフォード男爵の屋敷の前に転送門を開く。内部にも開けるのだが、流石に味方に引き込もうという人物に、そこまで失礼なことはしない。
「セシリア様は凄い魔法を使えるんですね。こんな魔法があるなんて聞いたことも有りませんでした」
クレナはかなり感心している。それはそうだろう。この魔法は世界で私と、私のホムンクルスにしか使えないのだから。魔法と言うより特殊能力に近い。正確に言えば約4年後に、ゲームの主人公に相当する人物が現れれば、その人物は使えるはずだが、現時点ではいない。
クレナがドアノッカーを鳴らすと、暫くして窓越しに燭台を持って、こちらにやってくる人物が見える。執事と思われる人物がドアを開ける。
「こんな夜更けに……お嬢様!」
男はビックリして、大きな声をあげる。まるで幽霊でも見たかのようだ。
「夜更けにごめんなさい。こちらの方達に助けてもらったの。お父様を呼んでいただけるかしら」
「畏まりました。すぐにお呼びしてまいります。それまで客間でおまちください」
執事は一礼し、私達を客間まで案内すると、駆け出しそうな勢いで去っていく。はたしてすぐにギルフォード男爵がやってきた。夫人も一緒にいる。
「クレナ!」
「お父様、お母様」
ギルフォード男爵夫人は泣きながら娘に抱き付く。男爵も目に涙を浮かべている。
「約束の通り、ご令嬢は我が領で救出しましたから、男爵に疑いがかかることはありませんわ。ただ、暫くは隠れていてくださいね」
私は念の為に男爵にそう伝える。男爵は私の前に跪く。
「この度は何とお礼を申してよいか……お約束通り、私の忠誠と献身を貴方様に捧げます」
そう言って男爵は深々と首を垂れる。
「有難うございます。男爵にやっていただきたい事は、レヘンシア騎士爵と一緒にお話ししましょう。レヘンシア騎士爵への連絡をお願いしますね。魔術具の便箋を置いておくので、都合がいい日を書いた手紙を入れて、封をしてください。それで私の元へ届きますから。私の移動の時間は考えなくても良いですよ。すぐに移動できる魔法を使えますから。それでは今日は遅いのでこれで失礼します」
私はそう言ってマジックアイテムの便箋をおくと、部屋を出ようとする。
「お待ちください。この様な夜更けに帰らせたとあっては、我が家の名折れ。ささやかながら明日にも宴を開きますので、今晩は泊って頂けませんでしょうか」
言い分は分かるが、私は明日の朝自室にいなければならない。男爵が好意を示しているのは分かるが、これは受け入れられない。
「ごめんなさい。どうしても明日は城にいなければならないのです」
重要な用事があるわけじゃないけど、秘密裡に動いてるからね。私はそう言って、玄関から外に出ると、転送門を開き自室へと戻った。
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