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公爵令嬢、襲撃者になる

「マスター。そろそろギルフォード男爵令嬢を救いに行く時期よ」


 部屋でくつろいでいると、エナが朝そう話しかけてくる。もうそんな時期なのかという感じだ。最近はトゥリアと辺境の村への農業指導と、スケルトンロード達との協力の取付で結構忙しく、あっという間に時間が過ぎてしまっていたようだ。少しだが疲労のステータスバーが減ったままになっている。


「もうそんなにたったの。あっという間ね。じゃあ、他のみんなも呼び寄せて、馬車を襲撃……じゃなくて、ご令嬢を救出にいく準備をしましょう」


 いけないいけない。最近自分が物騒な思想に染まりつつあるような気がする。気を付けなければ。


 私はホムンクルスの皆がそろったところで、この世界の地図をテーブルに広げる。


「何処で救出するの?」


「ここよ」


 エナは地図の1点を指す。領都から約100㎞程離れた広大な森の中だ。宿があるような町からは外れており、馬車で移動していても、少なくとも1日は野営しなければならない。


「ただ街道沿いで、適当なモンスターがいなかったから、森の奥からトロールを引っ張り出してきたわ。何度か商隊を襲わせて、ギリギリのところで、商隊を逃がさせていたから、お預け状態よ。かなり気が立っているから、今は近くに穴を掘って封じ込めているわ」


「それは重畳。馬車を見つけたら直ぐにでも襲い掛かってくれそうね。ちなみにレベルはいくつ?」


 私はエナに尋ねる。


「20。輸送隊の方は隊長のレベルが8で、他の隊員がレベル5の者が9人だから、まず負けないと思うわ」


 私は戦力比を計算する。単純にレベルの合計だけ見るとトロールが負けそうだが、基本的にこの世界はレベルの二乗が戦力になる。トロールの戦力は400。対する輸送隊の戦力は隊長の64に25が9人で合計289となり、トロールが有利だ。更にトロールには再生能力がある。戦力差はもっと広がるだろう。

 こうして比較すると、輸送隊が弱いように思えるかもしれないが、普通の隊長クラスがレベル5で、兵士はせいぜい3なのである。戦力は10人で合計100を超えれば上等といったところだ。それと比べると精鋭と言えるだろう。その辺のゴブリンの集団では相手にならないレベルだ。


「レベル的には大丈夫ね。制御がきかないってところが問題だけど。最悪でも男爵令嬢は巻き添えで死なないようにするわよ。みんなも注意してね」


「「「「はーい」」」」


 ホムンクルスたちはいっせいに返事をする。ちなみにはたから見ると、そっくりさんの5つ子がワイワイと話しているように見えるだろう。しかも14歳の、お肌ぴちぴちの美少女達だ。どこかの世界の紳士諸君でなくとも、目の保養になるに違いない。


 それから2日後、輸送隊の動向を見張っていた、使い魔のフクロウから、襲撃地点での野営が始まったとの連絡が入る。いよいよ今夜決行だ。幾ら義父の部下とは言え、初めての人殺しだ。おそらく私が直接手を出す事は無いだろうが、それでもちょっと緊張する。

 その日は、万が一でも吐き出さないように、夕食は少なめにし、心持ち風呂にもゆっくり入って緊張をほぐす。

 就寝時間になり、メイド達が本館の方に引き上げると、私は転移門を作り、救出地点の近くに転移する。

 木々の間から焚火の明かりが見える。透明化と遮音ついでに消臭の魔法を重ねがけし、近寄ってみる。果たしてそこには、囚人護送用の馬車と、兵士がいた。兵士は5人が見張りに立っており、残りが休んでいる。2交代制で見張っているようだ。かなり厳戒態勢と言えるだろう。トロールが出るといううわさを聞きつけて、警戒しているに違いない。


「エナ。じゃあトロールをけしかけてちょうだい」


 エナは頷くと、森の中に消えていく。暫くすると、ぐおおおお、という内臓が揺さぶられるような咆哮が森の中に響く。そして直ぐにバキバキと木が折れる音と、ドスンドスンと巨大な者が歩く足音がし始める。

 輸送隊の兵士も気付いたようで、眠っていた他の兵士を起こし始める。


「もう直ぐ来るわよ」


 戻ってきたエナが小さな声で告げる。言い終わるやいなや、トロールが木々をなぎ倒しながら現れる。

 大きい……一応設定上は身長4mだが、それ以上に見える。手に持っている棍棒ですら、私よりも大きいだろう。

 トロールは私達の直ぐ横を通り過ぎ、輸送隊へと向かっていく。エナは上手く囮の役割を果たしたようだ。もし自分がやっていたら、距離を取りすぎるか、慌てて木の根に足を引っ掛けて転ぶかしたかも知れない。

 トロールが現れると、輸送隊の兵士が隊長の号令と共に一斉に槍を突き出す。何本かは硬い皮膚に弾かれたが、2本が腹に突き刺さる。しかし、トロールは腹に槍が突き刺さったまま、棍棒を横薙ぎに振るった。

 その一撃で3人が吹き飛ばされる。最初に攻撃を喰らった兵士は恐らく即死だろう。2人目は生きてるが、庇った腕が折れて、変な方向に曲がっている。3人目はまだ戦えるようで、槍を杖代わりにして起き上がる。

 トロールが次の攻撃に入る前に、再度槍が突き出される。今度は背中に突き刺さった。槍には魔法がエンチャントされているらしく、傷が再生しない。

 トロールの2度目の攻撃で更に3人が吹き飛ぶ。今回も1人目は即死のようだ。兵士達の攻撃は、今度は首に突き刺さる。

 流石のトロールも、仰け反り、痛みにうなり声をあげる。


「今だ!たたみ込め!」


 再度槍が突き出されるが、今回は人数も減っていたため、腕で防がれる。これが戦いの分岐点だった。

 トロールは腕に突き刺さった槍を振り払うと、隊長に向かって棍棒を振り下ろす。隊長は一撃目こそ何とか受け止めたが、そこで体勢を崩してしまった。そうして2撃目はモロに頭に喰らってしまう。

 グシャっと音がし、頭が潰れる。


「ヒッ、ヒイイィ」


 それを見た残りの兵士は、我先に逃げ出した。だが、その内1人は頭を掴まれ、握り潰される。

 トロールは残りの者は追いかけずに、倒れている者にとどめを刺し、どっかりと座り込む。傷口は開いたままで、ステータスを見ると僅かずつだが、HPが減り続けている。残りのHPは約3分の1。

 結果は予想通りトロールの勝ちだったが、圧勝とは行かなかった。やはり戦いに油断は禁物だ。

 それにしても、自分の命令で人を殺しても、大した罪悪感はなかった。原因は分からない。義父に対する強い恨みのせいかもしれないし、前世の記憶を思い出したとはいえ、14年間この世界で生きてきたせいかもしれない。もしかしたら、前世では気付かなかっただけで、元々そういう性格だったのかもしれない。まあ、理由はどうでも良いが、この世界で生きていくには都合がいい。ちゃんと自分を見失わないよう、気を付けなければならないが。


「逃げ出した兵士はどうするの?」


 エナがそう聞いてくる。


「1人だけ残して、残りは殺してちょうだい」


 私は自分で思ってたより冷静に、そして非情にそう命令した。



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