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公爵令嬢、農業改革者となる

 ダウンメロスはボスとしては弱いが、一般人と比較すれば十分強く、しかも兵力と考えれば優秀だ。元の死体のレベルによるが、最高3レベルのスケルトンを1日最高10体作成でき、それを100体まで操ることが出来る。しかも、食事もいらず休息も必要ない。巡回させるには理想の兵士だ。ゴーレムでも同じようなことはできるが、魔術で召喚できるのは1体ずつで、同時に2体までしか操れないから、余りこういう事には役に立たない。材料をそろえてコツコツ作れば話は別だが、今のところその時間はない。

 だからこそ、アンデッドとは言え、ダウンメロスが快く味方になってくれたのは有難かった。しかも無報酬である。それにダウンメロスは量産型の為、他のスケルトンロードも同じようにすれば説得に応じてくれるだろう。公爵領の周辺には何カ所も同じような場所がある。これで心置きなく農業改革が出来るというものだ。


 私はまず辺境の小さな村から始めることにした。この辺りは徴収できる税とかかるコストが見合わないため、役人や兵士が立ち寄らず、自由にできる。発展したら私の有力な支持基盤となってくれるだろう。

 私は村人たちを広場に集める。私は広場に作った粗末なひな壇に上がる。横にいるのは屈強な兵士に化けたトゥリアだ。その内子飼いの兵士は作るつもりだが、現時点ではまだ屈強かつ、信頼が出来る兵士などいない。その辺りはイスナーンの手腕に期待だ。集まった村人は、みな痩せこけ生気がなく、ボロボロの服を着ている。


「聞け皆の者!クリステル・エル・ウィステリア公爵の一人娘。次期公爵、セシリア・エル・ウィステリア様のお言葉だ!」


 トゥリアが大きな声を上げるが、村人の反応は今一つだ。それはそうだろう、お母様の時ですら、この様な辺境まではモンスター討伐の手は回らなかった。全くやってなかった訳ではないが、それでも村人はウィステリア公爵領の領民である意識は薄いだろう。ましてや義父が実権を握ってからは、最初に略奪をして以降何もしてないのである。領都に近い村の実情を知れば、まだましだと思うかもしれないが、村人たちにそれを知るすべはない。


「皆様。あなた方は今飢餓にあえいでいます。それは大変傷ましい事です。皆様の力に今までなれなかった事、大変心苦しく感じています。私はまだ未成年の身、義父が公爵代行を行い、実権は持っていません。ですが義父の目が向いていないこの辺境から、私は領民の生活を改善したい。私を信じ、私の言葉に従ってください。

 とは言っても、なかなか今までの事を思えば信じられるものではないでしょう。ですので、私はあなた方の為にこれだけの物資を用意しました」


 私が合図をするとトゥリアが広場に降り、収納魔法から仕留めた鹿やヤギ、兎などの野生動物と、少数ながらモンスターを次々と取り出していく。おそらく村人が1年間食うに困らない程の肉を出し終わったときには、村人に生気が戻り、あちらこちらで歓声が上がっていた。

 これ程の野生動物の肉を狩ったなら、本来なら食料不足になった肉食のモンスターが村を襲うだろうが、そこはダウンメロスとその配下が引き受けてくれる。倒したら肉は食料に、骨は新しいスケルトンの材料になる。


「お嬢様。我々はこれから何をすれば宜しいのでしょうか。これだけのものを頂けたのです。これでこの冬に飢え死にする者は居ないでしょう。私共にできる事なら何でもしますんで、遠慮なく言ってくだせえ」


 村長らしき者が村を代表してか、少しおどおどしながら私に聞いてくる。


「この村で文字が読める者は居るのかしら?」


 文字が読める者が居れば、やることを箇条書きにして渡せば良いので、随分と楽になる。


「その……すいません……文字を教える者が誰もいませんので……」


 まあ、予想通りの答えだ。中世のヨーロッパだって似たようなものだ。


「そうですね。順番に言うと、先ず柵を作っていただきます。柵の内部の広さは1人当たり0.25ha(50m×50m)のものを4つです。と言ってもピンと来ないでしょうね。そうですね一辺がここからあの家まででしょうか」


 私は50m程先の家を指さす。


「そして、4つを1セットにして、植える作物を毎年順番に回していきます。植える作物はあとで教えます。絵に描いてお渡ししましょう。柵は作物を守るのと同時に、家畜を留めておくためのものですから、ちゃんと頑丈に作ってください。食料はお渡ししましたから、冬の間それに注力しても問題ないはずです」


「へ、へぇ」


 村長は頭に?マークを浮かべた様子で返事をする。今までの農業の常識から外れすぎていて、何をしようとしているのか理解できないみたいだ。


「まあ、心配なさらなくて結構です。その都度教えに来ますから。指示に従ってください」


 私はちょっと考え込んだ。50人ぐらいの村だから、最初はこちらで計算して、農地の範囲をロープで囲んで、そこに柵を作って貰う方が良いかもしれない。必要な農地の広さは土地の豊かさによってちがうが、見たところ殆どほったらかしの状態なのに、それなりに作物は実っているので、痩せていると言う事は無さそうだ。それに気温もそんなに低いわけではない。降水量も適度にある。なので1人頭1haの土地があれば十分な食料が取れるはずだ。駄目だったら次の年に変更すればいい。この教育レベルだと、村人の自主性に任せていたら駄目なような気がする。


 私がやろうとしていることは、比較的簡単に出来る、畜産を加えた混合農業だ。作る作物は牧草、豆や葉物類、根菜類、穀物類で、それを4輪作で行う。本来なら家畜は家畜小屋に入れて、排泄物は堆肥として利用するのが理想的だが、そこまでしなくても飛躍的に生産量が上がるはずだ。後は草取りをきちんとするようにすれば大丈夫だろう。

 この世界は一見中世ヨーロッパ風だが、農業技術は各段に落ちる。下手すれば地球の紀元前以下だ。

 ただ、モンスターが居るので仕方が無い面もある。家畜を纏めて管理していたら、肉食のモンスターの格好の餌食になるし、村の外は子供が農作業を手伝える程、安全ではないのだ。非情だが、この文明レベルでは子供も労働力として数えねば、生産性は落ちる。そしてそれに加えて、祝福を失ったという宗教観がある。それによって収穫が少ないのは仕方がないという諦めが生まれ、改善するという意欲を奪い去っている。

 だが、とりあえず中世ヨーロッパぐらいまで、農業技術レベルを引き上げれば、兵士を巡回させるぐらいの余剰生産能力は出来るはずである。当面はスケルトンロード達に頼るとしても、何時までも頼れるわけではない。作るなら恒常的なシステムでなくてはならない。

 ここは一般的な村だ。比較的簡単な農業改革とはいえ、どうやら口で教えただけで実行出来るというレベルではないらしい。一応やり方を経験すれば、教えることが出来るようになる人間も出るだろう。私が貴族の成人になる4年後には、辺境の村はギリギリこの農法がいきわたると思われる。

 私は4年後の予想動員兵力を、少し下方修正した。


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