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公爵令嬢、交渉人になる

 さて何度も言うようだが、この世界はダークファンタジーだ。飢えが世界に蔓延しているのに、貴族たちは少ない実りを容赦なく取り上げ贅沢をしている。そんな世界だ。

 そして、私が取り掛かろうとしてるのは農業改革だ。この世界は神々の祝福が消え大地に種を蒔いても、実りは僅かだ。だが前世で実家が農家だった私から言わせれば、農業舐めるなと言いたい。種蒔くだけで豊かな実りが約束されてりゃ、苦労なんてしない。ちゃんと肥料を蒔き、雑草を刈るなどのこまめな作業をし、ようやくまともな収穫が出来るのである。それすらも天候次第ではパーになる。それが私の知る農業だ。

 ただ、前世の知識でいきなり農業無双が出来るかと言うと、多少問題がある。実りが少ないなりに、食物連鎖が成り立っているのだ。例えば単に大地を豊かにしただけでは、草食動物が増えてしまい、人間のところまでは回ってこない。それに草食動物が増えると、それを餌とする肉食動物も増える。それには当然モンスターも含まれ、襲われる人間も増える。モンスターを先に減らしたとしたら、今度は草食動物の数が増え、人間たちの食べるものが減る。

 そもそも我がウィステリア公爵領は、義父が幅を利かせるまでは、この世界の基準で言うと、善政をしてたのだ。皮肉なことにそのおかげで、他領より人口密度が高く、悪政によって一気に傾いてしまったわけだけど。

 ともかく、作物を豊かに実らせれば解決という単純な問題ではないのだ。草食動物を減らし、モンスターを狩り、人間が食物連鎖の頂点に、とまではいかなくても、上位に来ることが必要だ。そのためにはまず武力である。そんなに強くなくても、長期間動かせる兵力が必要だ。だが今の私にそんな兵力はない。

 というわけで、私はその兵力を揃えるために、ダウンメロスの地下墳墓と言われる場所に来ている。ここにはこの周辺一体のアンデットを支配する、ダウンメロスというボスがいるのだ。種族というか種別はスケルトンロードで、レベルは10だ。一応名前があるネームドモンスターだが、そんなに強くはないし、他のスケルトンロードと違った能力を持っている訳でもない。彼と話し合いをし、協力してもらうのだ。相手がアンデッドだからといって、無暗に敵対していてはこの世界は渡っていけない。

 この地下墳墓、当然ながらアンデッドが沢山いるし、罠もあるのだが、私はボスの前に転移できるのですべて無視できる。

 私はトゥリアと、魔法で召喚した20レベルのゴーレム2体と共に、ボスの部屋へと入る。そこには元は豪華だったのだろうが、今ではボロボロになっているローブをまとったスケルトンロードが、骨で出来た玉座に座って居た。恐ろしい姿だが、流石に憶病な私でも、これだけのレベル差と強力な護衛がいれば恐怖を感じない。


「かかかかっ。この地下墳墓に配置した、儂の配下からは何の報告もなかったがのう。いきなり儂の前に出てくるとは面白い技を使う奴も居たものじゃ」


 スケルトンロードは眠る必要がない。とは言えずっと椅子に座って居たのだろうか、と思ってしまう。まあ、そんなに強いボスでもないし、重要でもないので、余り込み入った設定なんてしていないのだけど……


「突然押し掛けてごめんなさい。貴方と取引がしたいの」


 私は早速交渉に入る。


「ほう。生者が儂と取引とな。何を対価に差し出すつもりだ?随分と物々しい護衛を連れているようだが、力ずくで言う事を聞かせる気かな?」


「場合によってはそれもやむなしとは思っているけど、出来れば穏便にすませたいわ。逆に貴方は何が欲しいの?」


 私が聞くと、ダウンメロスのドクロの目の奥に微かに赤い光が灯る。


「かかっ、知れたこと。それはお前達のような、若い生命力に溢れた命をもてあそぶことよ」


 ダウンメロスの要望はありふれたものだった。量産型のボスだけあって、特に個性はないらしい。


「却下よ。生贄も駄目。何かの財宝なら、何でもとは言わないけれど、大抵のものは揃えられるわ。ものによっては時間が掛かるのもあるけど。どうしてもというのなら、罪人ならあなたの好きにしていいわよ」


 私は出来る限り、対価になりそうなものを答える。


「かかっ。財宝だと。そのような俗なものをいまさら欲しがるものか。やらぬというなら、奪うだけの事よ」


 そう言うと、ダウンメロスはゆっくりと椅子から立ち上がる。私が指をパチンと鳴らすと、完全に起き上がる前に、その巨体には似合わない速度で2体のゴーレムが近づき、巨大な拳をダウンメロスめがけて振り下ろす。2体で交互に連続して行われるその攻撃に、ダウンメロスはなすすべもなく、椅子ごと粉々にされる。

 だが、ゴーレムが攻撃をやめると、粉々になった骨がくっ付き始め、次第に人の形に戻っていく。


「かかっ、物理攻撃など無駄な事。儂は何度でも復活する」


 何処から声を出しているのか分からないが、広間にダウンメロスの声が響き渡る。


「そんな事、知ってるわ」


 私が再び指を鳴らすと、完全に復活する前に、再びゴーレムの拳が振り下ろされ、骨が砕ける。ダウンメロスに限らずスケルトンロードは聖なる武器か、魔術かでないと殺せない。だが一瞬で復活する訳でもない。私はそのまま攻撃を続けるよう、ゴーレムに命令する。


「明日また来るわ。明日は有意義な話し合いをしましょうね」


 そう言い残して私は踵を返す。たった一度の交渉で話が付くとは思っていない。


 次の日、相変わらず、復活しては粉々にされるダウンメロスのところに来て、ゴーレムの動きを止める。


「建設的なお話し合いをする気になったかしら?」


 私はダウンメロスに尋ねる。


「貴様……儂にこんな事をして、ただで死ねると思うなよ。殺してくれと嘆願するような苦しみを与えてくれる」


 ダウンメロスは眼窩の奥から、それだけで人を射殺すような視線を浴びせてくる。私には効果はないけど……


「残念。まだ元気そうね。今度は2日後に来るわ」


 そう言ってまた踵を返す。


「良いの?」


 トゥリアが聞いてくる。


「はじめからある程度時間が掛かるのは覚悟してたもの。仕方がないわ。じっくり時間をかけて、その身を解きほぐすような交渉が必要よ」


 そして二日後にまた来た。ダウンメロスは相変わらず、復活しては粉々になるのを繰り返している。ダウンメロスの居たところはすり鉢状になっており、骨が飛び散りにくくなっている。まるで小麦粉を叩いているようだ。


「わ、悪かった。も、もういっその事殺してくれ……」


 ダウンメロスの声は随分と弱弱しくなっていた。


「随分素直になったわね。でも聞きたいのはそのセリフじゃないの。もう少しかしら?明日また来るから、ちゃんと考えておいてね。何度も聞きたいわけじゃないの」


「ま、待ってくれ、いや待ってください!」


 私はダウンメロスの言葉を無視し、再度踵を返す。そしてまた次の日やってくる。


「何でも言う事を聞きます。お願いですから、もうやめてください……」


 ダウンメロスの眼窩の奥の目の輝きは弱々しくなっており、眼窩から伸びたひび割れが涙の後のように見える。


「はじめからそう素直になればいいのに。安心して。そんな無茶なお願いなんてしないから」


 私はにっこりとほほ笑む。そう、私は別にダウンメロスを虐めて楽しむ趣味は無いのである。寧ろ暴力は好まない。ちょっと時間はかかったが、話を聞いてくれそうで何よりだ。


「何というか、マスターは弱い敵には容赦ないわね……影武者をやれる自信が無くなってきたわ」


 なぜか、トゥリアが引きつった笑顔をしている。同じ性格のはずなのに解せぬ。


「何を言っているの?貴方は完璧よ。自信を持ちなさい。辺境には何体かこういったボスがいるから、そちらの説得はあなたにお願いするわ。流石に全部私がやるには時間がないから」


 そう言って、私はポンとトゥリアの肩を叩く。


「はい……」


 なぜか、トゥリアは私と目を合わせずに、そう答えて頷いた。




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